時空を引きずりながら自転する白色矮星が観測される(CSIRO)

Mark Myers ARC Centre of Excellence for Gravitational Wave Discovery (OzGrav)
 アインシュタインの一般相対性理論から導き出される予言の1つに、あらゆる回転する物質は、周囲の時空を引きずるというものがある。これを「慣性系の引きずり」や「レンス・ティリング効果」という。


 その影響はごく小さなものなので、日常生活の中で慣性系の引きずりを実感するようなことはない。

 たとえば地球の自転によって生じた慣性系の引きずりを検出するには、NASAが800億円近くを投じて開発したグラビティ・プローブBのような衛星が必要だったし、そのジャイロスコープで検出された角度の変化は、10万年で1度に相当するかすかなものでしかない。

 だが幸いにも、宇宙には重力を発生させる天然の実験場がごまんとある。これを観察すれば、アインシュタインの予言を詳細に検証することができる。

 『Scienece』(1月31日付)に掲載された研究もそうしたものの1つで、50年前の電波望遠鏡による星の観測を通じて、慣性系の引きずりが非常に大きな規模で生じているという事実を明らかにしている。
【一般相対性理論の予言――回転する物体の時空を引きずる】

 一般相対性理論は、回転する物体は周囲の時空を引きずると予言している。
このやや知名度が低い予言によれば、物体の回転が速く、質量が大きいほどに、引きずる力も大きくなるという。

 このことが特に関係するのが、「白色矮星」と呼ばれる恒星の進化の終末期にある星々だ。これらは、かつては太陽の数倍の質量を持っていたが、燃料の水素を使い果たし死んでしまった星の中心核の名残である。

 大きさだけなら地球に似ているが、その質量は数十万倍も大きい。さらに自転速度も1、2分で一回転するなど、24時間で一回転の地球よりも圧倒的に速い。

 一般相対性理論の予言が正しいのならば、こうした白色矮星が起こす慣性系の引きずりは当然に強い。
それは地球の1億倍に達するほどだ。

 これだけでもスゴいことなのだが、天文学者にとって都合がいいことに、20年前に白色矮星とパルサーの連星まで発見された。

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Dragging the Space-time Continuum

【地球の30万倍の質量を持つ白色矮星と、毎分150回転するパルサー】

その連星は、1999年にオーストラリア連邦科学産業機構(CSIRO)のパークス電波望遠鏡がはえ座の方角でとらえたもので、「PSR J1141-6545」と呼ばれる。

 白色矮星は地球と同サイズでありながら、質量は30万倍。そのパートナーである電波パルサーは都市と同じくらいのサイズに、40万倍という質量を持つ。

 白色矮星に比べると、パルサーはまるで異なっており、従来の原子ではなく、緊密に圧縮された中性子でできており、そのために驚くほど密度が高い。
しかも自転速度は毎分150回転という凄まじさだ。
 
 つまり1分間で150回転する灯台のように、チカチカと地球へ向かって電波を送り続けているということだ。

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CSIRO/wikimedia commons
【慣性系の引きずりで揺らぐパルサーの軌道面】

 そこで研究グループがこの点滅する電波を利用して、パルサーの軌道をマップ化してみると、連星は互いを5時間未満で1周していることが判明。

 また白色矮星とパルサーは数十京キロ離れているが、パルサーは毎秒2.5387230404回転しており、その軌道がグラグラしていることも分かった。つまり軌道面が固定されておらず、ゆっくりと回転しているということだ。

 一般に質量が大きな恒星ほど寿命が短いので、連星では大きな星の方が最初に死に、大抵は白小矮星となる。
そして2番目の星が死んだとき、その物質は最初の白色矮星に引き寄せられる。

 物質は引き寄せられながら、やがてディスクを形成。このディスクは数万年という時間をかけて、毎分数回転にまで白色矮星の自転を加速させる。

 だがPSR J1141-6545は珍しいケースだった。2番目の星は超新星となり、パルサーを残したのだ。そしてその軌道は、高速回転する最初の白色矮星が周辺の時空を引きずるおかげで傾いてしまう。


 観測された軌道面の揺らぎは、これによるものだ。

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Mark Myers ARC Centre of Excellence for Gravitational Wave Discovery (OzGrav)
【証明されたアインシュタインの予言】

 アインシュタインは、自身の予言のいくつかは実際に観測されたりはしないだろうと考えていた。だがここ数年、重力波の検出やブラックホールの影の撮影など、いくつもの天体物理学的な偉業が成し遂げられている。

 ただし、これらは膨大な予算を投じて作られた最新設備を利用したものだ。だが、今回の発見は、50年前の電波望遠鏡だってまだまだやれるということを証明した。これは、もう若者とは言えなくなった世代に対するエールにもなるだろうか?

References:glbnews / ozgrav/ written by hiroching / edited by parumo

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