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最近、欧州特許庁がある食品向けの容器についての特許出願を却下した。その発明が便利じゃなかったわけではない。
AI(人工知能)が考案したからだ。
ヨーロッパでは法律によって、発明者は人間でなければならないと定められている。そのためにAIによる発明では特許出願が下りなかったのだ。
既にAIは、科学や医療、本、新素材から音楽、絵画にいたるまで、いろいろなものを生み出している。
創造性が人間のもっとも際立った特徴であることは明らかだ。アートもインターネットも、宇宙旅行も、創造の産物である。
だがいつの日か、AIが人間の創造力を抜いてしまう日がくるのだろうか?
【創造のプロセス】
理論的に言えば、創造やイノベーションとは、探求と組み合わせのプロセスだ。ひとかけらの知識から始まって、それを別の知識とつなぎ合わせ、それまでにない新しく便利なものに仕立てる。
原理的には、これは機械でもできる。実際、機械はデータを保存・処理し、その範囲内でつなぎ合わせることが大の得意だ。
生成メソッドを使えば、機械はイノベーションを引き起こせる。
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【AIの創造源「敵対的生成ネットワーク」】
それは具体的にどのような仕組みなのだろうか?
いくつかアプローチの仕方があるが、最新の手法は「敵対的生成ネットワーク(GAN)」と呼ばれるものだ。
現実には存在しない人物の写真を生成するAIを例に考えてみよう。敵対的生成ネットワークは、これを2つのサブタスクを通じて行う。
1つ目のサブタスクは、ランダムに分布するピクセルから新しい画像を作り出すことで、これは「生成ネットワーク」が担当する。
2つ目は「識別ネットワーク」の仕事で、生成された画像が本物の写真にどれくらい近いか評価し、それを生成ネットワークに伝える。この判断には、事前に大量にインプットされた実際の人物写真を使う。
さらに生成ネットワークは、識別ネットワークからのフィードバックに応じて、新しく改善された画像を生成する。
あとはこの作業を識別ネットワークがOKを出すまで繰り返す。こうして生成された画像は、確かに本物の人間そっくりだ。
This Person Does Not Exist
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【人間はできるけど、AIには苦手なこと】
このようにAIがデータからイノベーションを起こせるのだとしても、近いうちに彼らが人間の創造力を凌駕してしまうという意味ではない。
イノベーションとは、問題と解決のプロセスだ。そして人間の場合、それを双方向でできる。つまり、問題から解決法を探ることも、解決法からそれを適用できる問題を探ることもできる。
後者の例として、「ポスト・イット」が挙げられる。
あるエンジニアが接着剤を開発したが、それは普通の接着剤として使うには弱すぎたためにお蔵入りになっていた。だがしばらくして、その同僚が閃いた! 合唱の練習をするとき、楽譜からメモが落ちてしまうの防ぐために使えばいいではないか、と。
インプットとしてのデータと明確に定式化された問題としてのコードを使えば、AIにも問題への解決法を編み出すことができる。
一方で、その問題自体を探し出すことがAIには苦手だ。というのも、問題はしばしばAIがイノベーションを起こすために頼っているデータプールの外側にあるものだからだ。
しかも、イノベーションは私たち自身すら気付いていないニーズに基づくものであることも多い。
「ウォークマン」が開発されたのは、消費者が音楽を聴きながら街を歩きたいなどと夢にも思わなかった時代だ。それなのに、この製品は大ヒットした。
このような潜在的なニーズを定式化し、明確にすることは難しく、AIが頼りにするデータプールの中でこれを見つけられる可能性も低い。
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【AIは与えられたデータしか利用できない】
人間と機械では、イノベーションを起こすために使うインプットとしての素材も違う。
人間はそれまでの人生で味わった幅広い体験からアイデアを捻り出すが、AIが使えるのは与えられたデータに限られる。
インプットされたデータからほんの少しだけ改善されたイノベーションならばあっという間にいくつも生成するだろう。
しかし、飛躍的なイノベーションがAIから考案される可能性は低い。なぜなら、そのためにはほとんど関係のない物事を組み合わせねばならないからだ。スキーとサーフィンを組み合わせて発明されたスノーボードは、その格好の事例だろう。
さらに創造は単に目新しいこととは違う。便利でなくてはならないのだ。ほんの少しだけ新しいものならAIにも生み出せる。だが、それが便利とは限らない。
便利さは、潜在的に利用されるイノベーションの視点から定義されるもので、これをAIに判断することは難しい。だが人間なら、他人と共感することで、そのニーズをよりよく理解することができる。
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【AIの創造的なアイデアはなぜ敬遠されるのか?】
AIによって作られた創造的なアイデアは、AIが作ったというだけで、消費者から敬遠される恐れがあるという。
AIが考案したアイデアは、紛い物か、下手をすると脅威とすら受け止められ、低く評価されることも考えられるのだ。
あるいは、人間は同族が作ったアイデアを好むという可能性もある。
【結局、AIの創造性は人間を超える日が来るのか?】
本題に戻そう。創造性は人間が機械やAIを凌駕できる分野だ。現時点では、AIが人間の域に到達することは難しいだろう。
だが、たとえAIが人間の創造性を上回ることができないのだとしても、それを補助することはできる。例えば、新しい問いを立てたり、新しい問題を認識したら、それを機械学習との組み合わせで解決するのだ。
ついでにここでの話は、AIの創造性が狭いデータセットの中で最大限に発揮されるという事実に基づいている。
今後、さらに大きく、多様な無関係のデータを組み合わせられるようになったなら、AIは今よりずっと優れた創造力を発揮できるようになるだろう。
さらに、いわゆる「一般的知能」と呼ばれる人間のような幅広い知性を手にできれば、AIの創造力もまた飛躍的にアップするかもしれない。
嘘か真か、一部の専門家は、今後50年でAIが人間並みの知性を手に入れる可能性は50%と予測している。2分の1だ。
References:From the pyramids to Apollo 11 – can AI ever rival human creativity?/ written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:AIの創造性が人間を超える日が来るのか? http://karapaia.com/archives/52287757.html
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