海のユニコーン「イッカク」のオスが持つ牙は大きくて長いほどメスにモテる(米研究)

イッカクの牙の大きさは魅力の証 /iStock
 ド派手な孔雀の羽しかり、巨大なヘラジカの角しかり、力強いザリガニの爪しかり――動物は並いるライバルとの異性獲得競争に勝つために、ときに極端な進化を辿ることがある。

 こうした異性をめぐる争いがきっかけとなって起きる進化を「性淘汰(性選択)」という。


 アリゾナ州立大学(アメリカ)博士課程の学生ザッカリー・グラハム氏らによれば、海のユニコーンと呼ばれる「イッカク」の牙もまた、こうした性淘汰によって発達したものだという。大きくて長いほど強く見えるのでメスにモテるのだそうだ。
【オスのイッカクの牙と性淘汰の関連性に注目】

 「ずばり、私の関心は、生物において最高にクレイジーな特徴を作り出す性淘汰にあります」と語るグラハム氏は、自分がそうした動物の少々興味深い特徴を考えることに取り憑かれていると話す。彼は、グーグルであらゆる動物を調べ、博物館で恐竜を眺めたりした末に、イッカクの牙を見つけたのだそうだ。

 『Biology Letters』(3月18日付)に掲載されたグラハム氏らの研究は、イッカクの牙が性的形質として機能していることを示す、これまでで最高の科学的証拠を提示している。

The longer the better: evidence that narwhal tusks are sexually selected | Biology Letters
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsbl.2019.0950


【それは武器なのか? それともモテアピールなのか?】

 セイウチやゾウと同じく、オスのイッカク(学名 Monodon monoceros)の歯が変形してできた牙もまた成長する。

 それは口から大きく突き出て、ときには240センチにも達する。螺旋状の模様を描く牙が長く伸びたその姿は、まさに海のユニコーンだ。

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dottedhippo/iStock
 イッカクはほとんどを北極の氷の下で過ごしているため、その牙の使い途についてさまざまな推測がなされてきた。たとえば、狩りやケンカの際に使う武器、あるいは異性を惹きつけるためのアピールといったことが指摘されている。

 グラハム氏によると、これまで頭についた傷や折れた牙、さらにはおそらく攻撃を受けたと思われる体に牙が刺さったオスなどが報告されているという。

 また、イッカク同士が牙を交差させて擦り付け合うなど、同性や異性との性的なコミュニケーションに使われているらしいことを匂わせる姿も散見されているそうだ。


【牙の不均衡な成長が性淘汰の証拠になる】

 ザリガニの研究など、あらゆる動物の性淘汰を研究する中でグラハム氏が気がついたのは、牙と体の大きさの比率にその謎のヒントがあるだろうことだ。

 そこで過去35年間で観察されてきたイッカクのオス245頭の形態学的データを集め、同年齢の個体同士を比較してみた。すると牙が不均衡な成長をすることが分かったという。つまり、体が一番大きな個体では、その大きさから予測される以上に大きな牙を生やしているということだ。

 さらに、おそらくは性的機能はないだろうと考えられるイッカクの尾びれの成長と体の大きさとの関係をも調べ、それを牙のデータと比較してみた。

 「もしイッカクの牙が性淘汰によるものなら、尾びれの幅のバラツキよりも、牙の長さのバラツキの方が大きいと予測しました」と、グラハム氏は言う。

 これは、多くの性的特徴が栄養や体調に敏感で、一番大きく強い個体しか極端なまでに大きな特徴を作り出すだけのエネルギーの余裕がないことが原因であるという。

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Narwhals | World's Weirdest

【オスの牙の長さには4倍もの開きがある】

 こうした分析の結果、オスの牙の長さには4本分もの差異があることが判明した。つまり、オスは体の大きさが同じだったとしても、牙の長さには46~250センチの幅があるということだ。ちなみにメスには牙はない。

 一方、尾びれには46~91センチの幅しかなかった。さらに尾びれと比較した場合、牙は体に比べて不釣り合いな成長をすることも明らかになった。


 こうした牙の長さのバラツキと不均衡な成長は、イッカクの牙が性淘汰によるものであることを示す、今日までで最高の科学的証拠であるという。

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【俺の方がデカいぜ!】

 グラハム氏によれば、牙が伝えるメッセージはシンプルである。つまり「俺の方がお前よりデカいぜ!」ということだ。

 そして、仮に最高スペックのオスだけが最大の牙を生やせるのだとしたら、牙はまさに、メスに対してもオスに対しても、その個体の超ハイスペックぶりを伝えるシグナルである可能性が高いとのことだ。

 はたしてイッカクの牙は攻撃のための武器なのか、性的な魅力のサインなのか、それともその両方なのか?

 今後、空中ドローンや水中ドローンを利用した研究によって、自然界における牙の機能についての具体的な証拠が得られることをグラハム氏は期待しているという。

References:The narwhal’s giant unicorn horn might help them find mates | Popular Science/ written by hiroching / edited by parumo

記事全文はこちら:海のユニコーン「イッカク」のオスが持つ牙は大きくて長いほどメスにモテる(米研究) http://karapaia.com/archives/52289844.html
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