
メソアメリカの心臓摘出法を検証 / public domain/wikimedia commons
人間の心臓を摘出して生贄として捧げる儀式は、古代メソアメリカ(マヤ、テオティワカン、アステカ文明などが繁栄した中央アメリカ一帯)で広く行われていた宗教行為だった。
特定の神をなだめ、崇めるために、力を見せつけてすごむと同時に、献身と感謝の表れとして、生贄が捧げられた。
人間の生贄を捧げるときは、その社会の選ばれし者たちが、高度で複雑に構成された儀式を執り行った。こうした儀式は、象徴的で重要な意味が込められた数々の手順によって進められた。
儀式に使う特殊な技術、使用する道具、犠牲を必要とすることが根底にある神話は、その文明によってそれぞれ異なる。
メキシコ、ユカタン自治大学のヴェラ・ティーズラーと、メキシコ国立自治大学のギレム・オリヴィエは、メソアメリカじゅうにあった多様な生贄儀式に着目した。
ふたりは、古典期と古典期以後における人間の生贄を捧げる儀式の手順と宗教的意味合いについて、よりきめ細かい洞察を得るには、異なる分野である科学的、人文的な証拠を織り込んだ学際的なアプローチが必要だと主張している。
【生贄の骨格を解剖学的に分析し心臓摘出手順と比較】
ティーズラーとオリヴィエは、生贄にされたとされる骨格の解剖学的分析を行い、体系的に確かめられている歴史的情報源や、古代の写本に記されている200以上の心臓摘出手順の例と比較してみた。
生贄の心臓や血液を除去するための、胸部に開ける穴の位置を特定するために、ふたりは、骨に残されている折れた跡や傷を調べ、刃物が入れられた刺入創の特徴や、使われたと思われる道具を推測した。
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古代メソアメリカの生贄 image by:CINVESTAVMERIDAUNIT
この研究は『Current Anthropology』誌に掲載された。
Open Chests and Broken Hearts: Ritual Sequences and Meanings of Human Heart Sacrifice in Mesoamerica
https://www.journals.uchicago.edu/doi/abs/10.1086/708189
【3つの心臓摘出法があった】
元になる資料が幅広く、多様な学問分野からのアプローチがあることから、研究者の間で盛んに議論が交わされている。
考古学的な記録は、こうした儀式の証拠を提供してくれるが、プロセスの象徴性など、儀式の具体的な要素は少なく、識別するのは難しいかもしれない。
人間の生贄や心臓摘出に関する説明は、実際に見た者の証言が記述されているし、メソアメリカの図像の中でも見ることができるが、とくに摘出穴の位置については、さまざまな記述があって、一貫性がない。
民族歴史学の分析と組み合わせた法医学データを使って、ふたりがまとめた心臓摘出法は3つあった。
①肋骨直下を切開する横隔膜下開胸
②2本の肋骨の間を切り開く肋間開胸
③胸骨を水平に切って心臓にアクセスする横両側開胸
これまでの研究では、横隔膜下開胸が一般的だったとしているが、ティーズラーとオリヴィエは、肋間開胸と横両側開胸を再構築して、既存の文献を発展させた。
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image by:public domain wikimedia commons
【開胸術と神への供物としての人体の概念化に新たな解釈】
この研究は、心臓摘出技術やその道具について総合的に理解を深めるだけでなく、開胸術と、活力の源、神への供物としての人体の概念化との関係に新たな解釈を与えている。
生贄の心臓と血液は、宇宙が創造される間の太陽や地球を表わす神々の糧として、捧げられた。古代メソアメリカの言葉の分析などのデータは、こうした儀式が義務、交換、再現の行為として行われたことをはっきり示している。
この研究は学際的な特質があるため、アンデスやインドなどその他の古代文明の生贄儀式を分析する体制が整えられれば、将来の研究がより可能になるだろう。
References:Examining heart extractions in ancient Mesoamerica | EurekAlert! Science News/ written by konohazuku / edited by parumo
記事全文はこちら:古代メソアメリカで行われていた生贄の心臓摘出法を検証(メキシコ研究) http://karapaia.com/archives/52290613.html
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