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数年前、南極で氷から放出されたと思わしき高エネルギー粒子が発見された。
これまでの物理学の常識ではあり得ないことで、一部メディアでは、私たちが暮らす宇宙の鏡写しであるパラレルワールド(並行宇宙)の実在を示す証拠という説まで伝えられているが、その真相は?
【氷の中から噴出するあり得ない高エネルギー粒子】
2018年に『Physical Review Letters』で報告された問題の宇宙線シャワーは、NASAの助成によって開発されたニュートリノ無線検出器「ANITA(Antarctic Impulsive Transient Antenna)」で検出された。
検出された高エネルギーを帯びたニュートリノは、宇宙からなら降り注いでくるが、硬い地球を貫通することはできないはずのものだ。
それなのにANITAが検出したものは、宇宙からではなく、氷の中からやってきた。念のために言っておくと、氷によって反射されたものでもない。
確かに低エネルギーのニュートリノならば地球を貫通することができる。だが、高エネルギーのものとなれば、そうはいかないのが物理学の常識だ。
これを検出したハワイ大学のピーター・ゴーラム教授は当時、粒子物理学の標準モデルとじつに強い緊張関係にある発見であるとコメントしている。
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ニュートリノ無線検出器「ANITA」 University of Hawai‘i News
【逆さまの宇宙線シャワー】
そのANITAが最初に氷の中からやってくる高エネルギー粒子を検出したのは、2006年と2014年のことだ。だが、このときはノイズが原因であるとして、正しい観測データとはみなされなかった。
ところが、さらに2016年にも観測されたデータをゴーラム教授らが詳しく調べてみると、まるで足元から吹き出してくる「逆さまの宇宙線シャワー」であるらしいことが判明。
ゴーラム教授によれば、一見したところ氷に反射した宇宙線のようだが、そうではなく、奇妙なことに「まるで氷自体から放出されたかのようだった」という。
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UH professor’s Antarctica discovery may herald new model of physics
【鏡写しのパラレルワールドの証拠なのか?】
これに関連して、『New Scientist』をはじめとするいくつかのメディアでは、この逆さまの宇宙線シャワーは並行宇宙の実在を示す理論的証拠であると伝えている。
それによると、高エネルギー・ニュートリノは時間を逆行してそこまで到達したのだという。
そしてニュートリノが時間を逆行するには、私たちが暮らす宇宙と同じビッグバンで誕生したあべこべの宇宙が並行して存在していなければならないらしい。
並行宇宙では何もかもがあべこべだ。正は負で、右は左で、物質は反物質で作られ、時間すら逆方向に流れている。まるで鏡写しのような世界だ。
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【果たして本当にパラレルワールドの証拠なのか?】
非常に興味深い話だが、メディアの誤解であるというのが真相であるようだ。実際ゴーラム教授は、並行宇宙起因説が自身の研究とはまったく無関係である旨を表明している。
この並行宇宙に関連する話は、私たちが考案したわけではありませんが、そういうことにされてしまいました。これはメディアの誤解です。それが私たちの説だということになって、残念ながら話が広まってしまいました
と、ゴーラム教授は話す。
では、問題の逆さまの宇宙線シャワーは何なのだろうか?
『Science Alert』の解説によれば、それはANITAがニュートリノを観測する方法と関係しているという。
ニュートリノは素粒子の1種で、中性のレプトンを指す。まるで幽霊のような粒子で、普通は物質にぶつかることなど滅多にないために、検出が非常に難しいものだ。
しかし宇宙で生じた強烈な爆発で発生したニュートリノならば、高いエネルギーを帯びているために、普段よりは物質と干渉しやすい。
気球のようなANITAは、南極上空を浮遊しながら、こうした高エネルギーのニュートリノが氷にぶつかったときに生じる二次粒子のシグナル(アスカリャン効果)を検出する。言うなれば、南極の氷を丸ごと巨大な望遠鏡として利用するようなものだ。
通常、高エネルギーを帯びたニュートリノは宇宙から降り注ぎ、地球の方向からやってくるはずがない。それなのにそう見えたというのなら、氷に衝突する前に、何か別のものにぶつかった可能性が高いだろうという。
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【まずは標準モデルのあらゆる可能性を検証する必要がある】
これまで、わずかですがデータの異常を見つけました。しかし常識外れのアイデアを検討するのは、標準モデルから考えられるあらゆる可能性を完全に潰した後のことです。まだその段階ではありません。並行宇宙なんて、今のところ必要ありませんよ
と、ゴーラム教授は語っている。
なお、2018年当時、地球を貫通することができる「新しい亜原子粒子」である可能性もあるとゴーラム教授は述べている。はたして、逆さまの宇宙線シャワーの真実はどこにあるのだろうか?
References:University of Hawai / sciencealert / newshub/ written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:パラレルワールドの証拠か? 南極で氷から放出されたと思わしき宇宙線が観測される(米研究) http://karapaia.com/archives/52291234.html
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