「物質の第5の状態」を国際宇宙ステーションで創出することに成功(米研究)

物質の第5の状態 / Pixabay
 物質の状態といえば、まず気体・液体・固体が思い浮かぶだろう。詳しい人なら、さらにプラズマも指摘するかもしれない。


 だが、それ以外にも第5の状態がある――それを「ボース=アインシュタイン凝縮(BEC)」という。
 
 大量の原子を絶対零度近くにまで冷却したときに、それらが突然最低エネルギーの状態に落ち込む状態のことだ。そのとき、原子は1つのいわば「超原子」として振る舞うようになる。

 そしてこのほど、カリフォルニア工科大学(アメリカ)の研究チームが、このボース=アインシュタイン凝縮を宇宙で作り出すことに成功したそうだ。

【ボース=アインシュタイン凝縮の問題点】

 ボース=アインシュタイン凝縮が初めて作られたのは、25年前のことだ。今では世界中の研究所で生成されているのだが、1つ大きな問題があった――重力だ。

 この状態を作り出すには、レーザーで原子を絶対零度近くにまで冷却し、それを磁気光学トラップで捕捉しなければならない。ところがその制御はとにかくデリケートで、地球の重量によってすら邪魔されてしまう。

 そこで地上よりもずっと重力が弱い国際宇宙ステーションでボース=アインシュタイン凝縮を作り出すべく、2018年に国際宇宙ステーションに持ち込まれたのが「コールド・アトム・ラボ」というNASAの実験設備だ。

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【重力の弱い宇宙ステーションで分析を可能に】

 地球上では重力があるために、ボース=アインシュタイン凝縮によって出現した超原子を分析できるのはわずか数十ミリ秒だけだ。

 しかし今回、国際宇宙ステーションでコールド・アトム・ラボを利用したところ、1秒以上分析することができたという。

 さらに微小重力下では、原子を捕捉するためのエネルギーが少なくて済む。
それはボース=アインシュタイン凝縮をより低い温度で実現できるということである。温度が低ければ、量子の不可思議な効果をいっそうはっきり観測することができる。

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image by:NIST/JILA/CU-Boulder
【自然の仕組みを解明するツールとして】

今回の研究ではボース=アインシュタイン凝縮はルビジウム原子で作られた。

 研究チームのロバート ・トンプソン氏によれば、今後はここにカリウム原子を加え、2種の凝縮が混ざったときにどうなるのか調べたり、宇宙でしか実現不可能な球形の凝縮を作ったりする予定であるそうだ。

 「これまで、自然の内部構造は粒子加速器や天体観測によって解明されてきましたが、今後は冷却した原子が大きな役割を果たすようになるでしょう」と、トンプソン氏は語っている。

【究極の万物の理論は誕生するか?】

 現在、古典物理学に則った日常の世界と、量子力学が支配するミクロの世界をきちんとつなぎ合わせることができる理論はない。

 しかし、その2つの世界の境界を超えて存在するボース=アインシュタイン凝縮は、不可思議なミクロの世界の仕組みを解き明かすヒントになるかもしれない。

 それが解明されたとき、いずれは宇宙から極小の世界まであらゆる物理法則を説明できる究極の「万物の理論」が誕生するのだろうか?

この研究は『Nature』(6月11日付)に掲載された。 
Quantum matter orbits Earth
https://www.nature.com/articles/d41586-020-01653-6
References:livescience/ written by hiroching / edited by parumo

記事全文はこちら:「物質の第5の状態」を国際宇宙ステーションで創出することに成功(米研究) http://karapaia.com/archives/52291837.html
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