
DNA調査で明らかとなったバイキングの多様性/iStock
北大西洋を船で自由に航海しながら沿岸部の村々を襲う、がっしりとした金髪碧眼の荒くれ者。これが歴史の本にも載っている典型的なバイキングのイメージだ。
しかしDNAの研究からは、どうやらこうしたイメージは正しくないらしいことが分かったそうだ。
『Nature』(9月16日付)に掲載されたのは、バイキングのDNAを解析したものとしてはこれまでで最大規模の研究だ。
それによると、じつはバイキングは遺伝的にかなり多様で、必ずしも北欧(スカンジナビア)にルーツを持つ人たちではなかったらしい。
【南ヨーロッパやアジアにルーツを持つバイキングの存在】
コペンハーゲン大学をはじめとする国際的研究グループは、青銅器時代から近代(BC2400年~AD1600年)までの墓地から発掘された人間の遺体442体のゲノムを解析し、これを現代人3855人(イギリス人、デンマーク人、スウェーデン人)と古代人1118人と比較。
これによって、いわゆるバイキング時代(750~1050年)にスカンディナビア(スウェーデン・ノルウェー・デンマーク)からヨーロッパ各地に移住した人たち、すなわちバイキングの影響を調査した。
この結果、バイキングの祖先には、南ヨーロッパやアジアにルーツを持つ人たちもいたことが明らかになったという。
金髪碧眼のバイキング。これは彼らが北欧系の人々の子孫であると考えられていたからこそのイメージだ。しかし、たとえば南ヨーロッパ人やアジア人の遺伝子を持つバイキングならば、その姿はかなり違うものだったはずだ。
テレビや本などのお陰で、幅広いネットワークを持ち、ヨーロッパ各地で貿易をしたり、あるいは諸侯を襲撃したりするイメージがあります。ですが、遺伝的にはそうした世界ではなかったことが初めて明らかになりました。(コペンハーゲン大学 Eske Willerslev氏)
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【バイキングの移住ルートも明らかに】
また、この時代のバイキングの移住先について、かねてより提唱されてきた仮説のいくつかを裏付けることもできたという。
たとえば古代デンマーク系のDNAがイングランドで、ノルウェー系のDNAがアイルランド、アイスランド、グリーンランドで発見されている。
意外だったのは、現代のスウェーデン人に似たDNAがヨーロッパ西端の地域で、デンマーク人に似たDNAが東端の地域で発見されたことだ。
このことは、バイキングたちの定住・貿易・略奪ルートが複雑に入り組んだもので、そのためにさまざまな祖先を持つコミュニティがヨーロッパ各地に誕生したことを示唆しているという。
これまで考慮されたことのなかった南ヨーロッパやアジアに起源があるDNAの影響を分析したところ、バイキングの遺伝的な祖先は、スカンディナビア人などではなかったことが分かりました。
バイキングの多くは、スカンディナビア内外で暮らしていた非スカンディナビア系の祖先を持っています。これのことは、ヨーロッパでは常に遺伝子が流動していたことを示唆してもいます。(コペンハーゲン大学 Martin Sikora氏)
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【バイキングではないバイキング】
中には、遺伝的にはまったくバイキングではないバイキングもいたとのこと。
それはスコットランド、オークニー諸島にあるバイキングの墓地で発見された遺体だ。その遺体はバイキングの様式で埋葬(剣などの副葬品と一緒に埋葬)されていながらも、遺伝的にはピクト人の子孫だったのだ。
ピクト人は、かつてスコットランドのハイランド地方に勢力を誇っていた、ヨーロッパでも特に謎が多いとされる民族だ。
こうしたことからは、バイキングが北欧にルーツを持つ人たちではなく、バイキングであるという感覚的なアイデンティティを持つ人たちだったらしいことがうかがえるという。
海賊王に俺はなる!と言っていたルフィは金髪碧眼の北欧人ではないが、逆にもしかしたら正真正銘のバイキングの血を引き継いだ可能性も無きにしも非ずなのだ。
Population genomics of the Viking world | NatureReferences:sciencedaily / inverse/ written by hiroching / edited by parumo
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2688-8
記事全文はこちら:バイキングは金髪碧眼の北欧人というイメージが覆される可能性。DNAの分析からその多様性が明らかに http://karapaia.com/archives/52294784.html
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