
殺傷力の高いシドニージョウゴグモ /iStock
オーストラリアに生息する生物はヘビであれ、クラゲであれ、蜘蛛であれ、植物であれ、人間に対して高い殺傷力を持っているものが存在する。
シドニー周辺に生息する「シドニージョウゴグモ」は、蜘蛛の中でも最強クラスの猛毒を持つ危険生物だ。
ところが人間には致命傷を与えるにもかかわらず、天敵となるトカゲや鳥にその毒は効果がない。これはいったいどういうことなのか?
最近の研究によると、それは不運な進化の偶然だったという。
【人間を死に至らしめる猛毒を持つシドニージョウゴグモ】
シドニージョウゴグモ(Atrax robustus)が持っている「デルタ・ヘキサトキシン」という致死性の神経毒は、爪や革靴すら貫く鋭い牙でこれを注入すれば、神経系を撹乱し、ものの15分で人間を死に至らしめることができる。
ところが不思議なことに、人体に対しては破壊的な影響を与えるにもかかわらず、なぜだかクモが普段食べている昆虫には効かないし、彼らを脅かすトカゲや鳥といった外敵にも効かない。
そのため、シドニージョウゴグモが一体なぜそれほどまでに人間に対して強力な毒を持っているのかよく分からなかった。
だが、クイーンズランド大学らの研究グループによりその謎が解明された。
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Toe-stabbing Spider | National Geographic
【身を守るために発達したという証拠】
はっきりとした理由は分からないものの、ジョウゴグモの毒は身を守るために発達したと推測させるヒントはある。それは噛み付いて毒を注入するのは、主にオスであるということだ。
ジョウゴグモのオスは繁殖期を迎えると、巣穴から離れてメスを探しに行く。これはかなりの長旅になることがあり、そのために危険な敵と遭遇する確率が上がる。またこの間、オスはほとんどエサを食べないことも知られている。
こうしたことから、その毒は獲物を捕らえるためではなく、オスが旅の途中で遭遇した外敵から身を守るために発達したと考えられるのだ。
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シドニージョウゴグモの毒牙 image by:David Wilson
さらなる証拠を探すべく、研究グループはジョウゴグモの毒腺を調べてみることにした。
オーストラリアには40種ほどのジョウゴグモの仲間が生息しているが、それら10種から採取したmRNAを解析すると、22種の分泌毒素、デルタ・ヘキサトキシンが発見されたという。
こうしたデータを系統発生学的・進化学的に評価したところ、毒の起源はこの仲間の深いところにあり、その配列保存は防衛的役割と一致していることが明らかになったとのことだ。
また、シドニージョウゴグモの毒を単離してマウスに投与したところ、電位依存ナトリウム・チャネルを阻害することで、痛みを与えることも分かった。
これはゴキブリに対しても同様だった一方、ヒツジキンバエに投与すれば殺すことができることも明らかになった。
【不運な進化の偶然で、たまたま人間に効く毒となった】
こうしたことを総合的に考えると、おそらく毒は、もともと昆虫などの獲物を捕らえるために発達した。さらにオスが旅をするときに遭遇するバンディクート(ネズミのような有袋類)、鳥、トカゲといった捕食者から身を守るため発達し、どこかの時点で脊椎動物を撃退できるように進化した可能性が高いという。
つまり人間は神経毒の本来のターゲットではないのだ。毒が想定していた相手はほかの脊椎動物だったのである。
だが私たちもまた脊椎動物の一員だ。ゆえにそれが人間に対して猛毒なのは、「不運な進化の偶然」のせいなのだという。
この研究は『PNAS』(9月21日付)に掲載された。
References:inverse/ written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:オーストラリアの蜘蛛はなぜ殺傷力が高いのか?人間を殺す猛毒グモが誕生した理由が明らかに(※蜘蛛出演中) http://karapaia.com/archives/52295289.html
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