
世界一臭い化学物質「チオアセトン」 / Pixabay
命に関わるような危険性はないし発火性もない。だが少し漏れ出ただけでも数百メートル先の人を嘔吐させ、最悪失神してしまうほど危険極まりない物質がある。
それが「チオアセトン」だ。
この世界一臭い化学物質は「筆舌に尽くしがたい」や「恐ろしい」などと表されるほど、とんでもない悪臭を放つという。
【チオアセトンが引き起こした驚くべき事態】
チオアセトンの悪臭の凄まじさを物語るこんなエピソードがある。
1889年、独フライベルクにあった工場で、チオアセトンを蒸留しようと試みられたことがあった。しかしこれが大惨事を引き起こすことになる。
工場から750メートルの範囲で失神する者や嘔吐する者などが現れ、中にはパニックを起こして避難する人までいたという。
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またこんなエピソードもある。1967年、英オックスフォードにあったエッソの研究所で、新しいポリマーを開発するために、トリチオケトンの加熱分解実験(チオアセトンはこれによって生成される)が行われていた。
折の悪ことに、トリチオケトンの残りカスが入ったボトルの栓が、何かの拍子で外れてしまった。栓はすぐにしめられたが、すでに時は遅し。
たったそれだけのことで、そこから180メートル離れた建物で、人々が気分の悪さを訴え始めた。
また実験していた2人の研究者がレストランへ行くと、敵意のこもった視線を浴びせられ、ウェイトレスから消臭剤のスプレーをかけられたという。
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【チオアセトンはなぜそこまで臭いのか?】
「それは風下の無実の歩行者をよろめかせ、彼らの胃袋をつかみ、恐怖で逃げ惑わせる。それは邪悪で超自然的な力を疑わせるほどの悪臭を放つ」そう語るのは医薬品化学者のデレク・ロウ氏だ。
面白いことに、チオアセトンは複雑な物質ではないにもかかわらず、なぜそんなにも臭いのかよく分かっていないようだ。
そこに結合している硫黄が犯人なのだろうが、チオアセトンに限ってそこまで臭くなってしまう理由は定かではないし、あえてその謎の解明に挑む化学者もあまりいない。
だが、メルボルン大学大学院の学生ベンジャミン・アンドリコプロス氏によると、人間の進化と関係がある可能性があるようだ。
我々の祖先の時代より、硫黄の臭いは腐った食べ物と関連づけられてきた。そしてその臭いに敏感な者は、うまい具合に食中毒を避けることができた。だから、彼らの遺伝子は子孫に受け継がれてきた。
そのおかげで、オリンピック用水泳プールの水に混ざったティースプーン半分の砂糖に匹敵する、ごく微量の硫黄を含んだ物質からでさえ、その臭いを感知できるようになった。
チオアセトンはそんな私たちの嗅覚にビンビンに訴えかけてくるようだ。
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Thioacetone Molecule of The Week
【臭いうえにべとつく】
なお先ほどのエッソ研究所の実験では、ドラフトチャンバー(局所排気装置)に置かれた時計皿にトリチオアセトン結晶から抽出した母液をたった1滴垂らしただけで、数秒のうちに400メートル先まで臭いが漂ったそうだ。
しかもタチが悪いことにチオアセトンはベトつく。
そのためにほんのわずかでも臭いが付着してしまえば、数日間は臭いが取れない。
怖いもの見たさで、ちょっと臭いを嗅いでみたいというあなた。数日は人に会わないですむよう準備してから挑むといいだろう。
References:There’s Stench, And Then There Is Thioacetone, the World’s Stinkiest Chemical/ written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:人間を失神させるほどのヤバさ。世界一臭い化学物質「チオアセトン」 https://karapaia.com/archives/52298708.html
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