
現実とは何か?現実はコンピューターによるシミュレーションにすぎないのではないか?そう考える研究者は多い。
アメリカ、プリンストン・プラズマ物理研究所の物理学者チン・ホン氏は、機械学習を通じて経験から自らの知識を改善するAIアルゴリズムを開発した。
理論や法則を用いることなく、データから直接データを予測できるその能力は、この世界がシミュレーションによって構築された作り物である可能性の実例なのだそうだ。
【物理学の常識を破る、データから新しいデータを予測するAI】
『Scientific Reports』(20年11月9日付)に掲載された論文によれば、そのAIはもともと太陽系の中にある惑星の軌道を予測するためのものだった。
水星・金星・地球・火星・ケレス・木星の軌道データをもとに、そのAIに惑星の動きについて学習させる。すると他の惑星の軌道まで正確に予測できるようになったという。
驚くべきは、AIがニュートンの万有引力といった理論に頼ることなく、データから惑星の動きを予測していることだ。これは従来の物理学的には常識破りであり、チン氏は次のように説明する。
普通、物理学では観察し、そこから理論を立て、その理論で新しい観察を予測できるかどうか試します。今私は、このプロセスをある種のブラックボックスに置き換えようとしています。
従来の理論や法則に頼ることなく、正確に予測するのです。物理学のあらゆる基本素材をひとっ跳びして、データからデータを導きます。その途中に物理法則はありません
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【現実世界シミュレーション仮説】
そんなチン氏は、スウェーデンの哲学者ニック・ボストロム氏の理論からインスピレーションを受けている。
ボストロム氏は、私たちが今生きているこの世界は、じつはコンピューター上に構築された人工的なシミュレーションであると主張する人物だ。
荒唐無稽な説に思えるが、理詰めで考えてみると、世界がシミュレーションでできている可能性は非常に高いのだという。
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【離散的場の理論で現実世界を理解しようとする試み】
彼は「離散的場の理論(discrete field theory)」というアプローチで世界を理解しようとしている。
今日の物理学において、主流派は時空を連続したものとみなしている。こうした世界の理解は、ニュートン力学・万有引力・微積分などの業績を残したニュートンから始まった、長い歴史を持つものだ。
しかし、微分方程式と連続的場の理論によって表現される時空に基づいた現代の研究には深刻な問題があると、チン氏は考えている。そして離散的場の理論ならば、それらの多くを克服することができるのだという。
困ったことに離散的場の理論は、今の人間には少々難解な代物だ。しかし機械学習には非常に向いているのだそうだ。
「離散的場の理論は、調整可能なパラメーターがあり、観測データで学習させることができるアルゴリズム・フレームワークとみなすことができます」とチン氏。一度学習が完了してしまえば、離散的場の理論は自然を表すアルゴリズムとなり、そこから新しい観測を予測できるようになる。
本当に世界が非連続した時空の中に存在するのだとしたら、それはピクセルとデータで構築された、ゲームの世界のように見えることだろう。
References:pppl / bigthink / / written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:現実がシミュレーションであることを証明するAIアルゴリズムを作成した物理学者 https://karapaia.com/archives/52299850.html
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