精子のDNAにはない父親の情報が子供に伝わるメカニズムが解明される(カナダ研究)

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 父親の食生活や体重、ストレスといった環境的影響は、なぜか子供に受け継がれていることが、これまでの哺乳類の研究で明らかになっている。そうした情報は精子が持つDNA配列に記録されているわけではない。


 ではどうして子に引き継がれるのか? 『Developmental Cell』(2月16日付)に掲載された研究では、新しく判明したその謎のメカニズムが解説されている。

 精子が父親が生活していた環境を記憶して、その情報を胎児に伝える非DNAベースの手段があったのだ。
【DNA配列が変化しない遺伝子の変化】

 DNAには、使用されるDNAを切り替えるスイッチのように働く分子が備わっており、その配列を変えることなく遺伝子の発現を変化させることができる。

 このような遺伝子発現の変化を研究する分野のことを「エピジェネティクス」という。

 たとえば、「ヒストン」というタンパク質がある。これは糸巻きのように機能して、糸のように連なるDNAをコンパクトに収納してくれる。そしてこのタンパク質の変化は、発現するDNAにも影響を与える(すなわちエピジェネティックな変化だ)。

 今回のマウスを使った実験では、「葉酸(ようさん)」が不足した食事によってオスが受けた影響が、精子が持つヒストンの化学的な”修飾”を通じて胎児に伝えられることが実証されている。

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【栄養不足の影響がヒストンを通じて伝達】

 哺乳類のオスが精子を作るとき、DNAをコンパクトにまとめるために、ヒストンが放り投げられる。

 しかしほんの少しだけ残される部分(マウスで1%、人間なら15%)もある。残された部分は、精子の作成・代謝・胎児の発達に関係しているDNAを細胞が利用するための足場となる。

 このヒストンが「化学修飾」(もっとも一般的なのは「メチル化」)されると、発現するDNAもまた変化する。
不摂生な食事はこうしたヒストンのメチル化状態を変化させるのだ。

 カナダ、マギル大学のサラ・キミンズ氏ら研究グループは、オスに乳離れ以降、葉酸が不足したエサを与え続けることで、精子とここから誕生する胎児のヒストンの変化を追跡した。

 その結果、精子のヒストンの変化が胎児にも現れることが確認されたという。

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【葉酸が大切な理由】

 なお葉酸が妊娠した女性にとって大切な栄養素である理由もこれであるそうだ。母体の葉酸には、子供のDNAメチル化を安定させる機能があるという。

 また、こうしたエピジェネティックな影響は蓄積するものであり、その結果として出生異常が重くなることも明らかになっている。葉酸不足による発育不全や脊椎の異常といった出生異常は、人間でも起きることだ。

葉酸を多く含む食品(100gあたり)
・焼きのり:1,900㎍
・鶏レバー:1,300㎍
・牛レバー:1,000㎍
・豚レバー:810㎍
・わかめ(乾燥):440㎍
・えだまめ:320㎍(ゆで:260㎍)
・たたみいわし:300㎍
・きなこ:250㎍
・干し椎茸:240㎍(ゆで:44㎍)
・ほうれん草:210㎍(ゆで:110㎍)
※ただしレバー類は葉酸以外にビタミンAが多く含まれるため妊婦は避けた方が良い。

 サミンズ氏らの今後の研究テーマは、ヒストンによって引き起こされた精子の有害な変化を直せるかどうか探ることであるそうだ。 

References:We Finally Know How Sperm 'Remember' And Pass on Non-DNA-Coded Traits to Embryos/ written by hiroching / edited by parumo

記事全文はこちら:精子のDNAにはない父親の情報が子供に伝わるメカニズムが解明される(カナダ研究) https://karapaia.com/archives/52300412.html
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