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近い将来、本当に知的な人工生命体が誕生するのではという気になってくる。
人工知能や遺伝子編集技術が急速に発達を遂げている現在だが、今度は実際に成長・分裂する人工細胞が開発されたそうだ。
単細胞生物のような人工細胞「JCVI-syn3A」は、遺伝子がはたす役割をゲノム解析で探求し続けた、数十年にわたる研究の結晶だ。
「私たちの目的は、あらゆる遺伝子の機能を理解し、細胞が活動する完全なモデルを作り上げることです」と、米マサチューセッツ工科大学の生物物理学者ジェームズ・ペルティエ氏は語る。
【人工細胞開発の歴史】
そのルーツは1990年代にJ.C.ベンター研究所(JCVI)で始められた研究までさかのぼるが、特に大きなブレイクスルーとなったのが、2003年に細菌に感染するウイルスの合成に成功したことだ。
この成果はさらに、2010年における合成細菌細胞の誕生につながる。「JCVI-syn1.0」と呼ばれるそれは、マイコプラズマ・ミコイデスという細菌のDNAから作られた合成ゲノムだけから生まれた地球上最初の生命体だ。
さらに7年後、今度は自然界に存在するものの中で最小の遺伝子コードを持つ細菌が誕生。その「JCVI-syn3.0」の遺伝子は、すべて合わせてもたった473個にしかならない。自然界に存在する自立して生きる生命の中で、もっとも短い遺伝子コードだ。
だがJCVI-syn3.0は、細胞分裂によっていつまでも生き続けることができるものの、その一方でやたらとバラエティ豊かな形状を作り出すという不自然さがあった。
【自然に細胞分裂を行い成長する「JCVI-syn3A」】
この欠点を克服することに成功したのが、『Cell』(3月29日付)で発表された「JCVI-syn3A」だ。
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成長し分裂する細胞 JCVI-syn3A credit:NIST / MIT
3Aは3.0に19個の遺伝子を付け足して作り出されたもので、より自然な細胞分裂を行うことができる。そして、そのときに作られる細胞のばらつきは3.0よりずっと少ない。
【追加された19個の遺伝子の謎】
3Aに追加された遺伝子は、たった19個だけだが大きな謎を秘めている。
たとえば、それらのうち細胞分裂プロセスに関与していると考えられているのは、半分にも満たない7個だけだ。さらに言えば、機能がはっきりと特定されている遺伝子は、「ftsZ」と「sepF」の2つだけだ。
他の5つが分裂した細胞のばらつきを抑えるという役割にどのように貢献しているのかまったく分かっていない。
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Genes Necessary for Cell Division in Modern Bacterial Cells Identified
【生命の基本的設計ルール】
だが1つ確かなこともある。それは3Aは、これらの遺伝子が生物の中でどのように作用しているのか探るための新しい標準モデルになるということだ。
あるいは研究グループのリーダー、アメリカ国立標準技術研究所のエリザベス・ストリチャルスキ氏は次のように述べている。
私たちの願いは、生命の基本的設計ルールを理解することです。もしこの細胞がルールを発見し、それを解明する手助けになるのだとすれば、私たちはすぐにそのための行動へ移るでしょう
芸術さえ作り出す人工知能ロボット、臓器を印刷する3Dプリンター、そして成長・分裂する人工細胞、知的な人工生命誕生の序章はもう始まっているのではないだろうか?
References:
・Creation of a Bacterial Cell Controlled by a Chemically Synthesized Genome | Science
・Scientists Create Simple Synthetic Cell That Grows and Divides Normally | NIST
/ written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:細胞分裂をして成長する人工生命体が誕生 https://karapaia.com/archives/52300699.html
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