もし指が6本あったら脳は手の認識をどのように変化させるのか?ロボットの指(第三の親指)を付けて実験

credit: Dani Clode
 人間を含む動物の指の基本形は5本だ。馬やカエルなど、もっと少ない動物もいるが、それは指が退化したからで、もともとは5本あった。
パンダは指が7本あると言われるが、それは手首の骨が大きくなったもので、本物の指ではない。基本的にはやはり5本だ。

 だが人間は自然の摂理に背きながら生きてきた動物だ。 もう1本親指を生やしてみたらどうなるだろうか? と考えてみたりもする。それが以前紹介したことがあるダニ・クロード氏の「サードサム(第三の親指)」だ。

 遊び心のある作品だったが、身体拡張技術が脳に与える影響を研究している英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの神経科学者たちがこれに目をつけた。

 「身体拡張技術は今成長している分野で、身体能力を押し広げることを目的としています。ですが、人間の脳がそれに対してどのように適応できるのか明確な理解が欠けています」と、研究グループのタミール・メイキン氏は説明する。

【ロボットの指を装着し6本指となって5日間暮らす実験】
 『Science Robotics』(5月19日付)に掲載された研究では、20名の被験者に5日間、ロボット製の親指(サードサム)を使い込んでもらい、それによる脳の変化をMRIで観察した。

 被験者には毎日サードダムを持ち帰って日常生活の中でも使用するよう伝えた。彼らは1日平均、2~6時間ほど六本指で生活したという。

 一方で、対照実験として10人の被験者にはまったく動かないサードサムを着用して過ごしてもらった。

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"Third Thumb" Being Used to Touch Other Fingers【ロボットの指が自分の体の一部と感じるように】
 すると「感覚運動皮質」の活動に変化が生じることが明らかになった。メイキン氏らが驚いたことに、最大の変化は手のイメージを担う領域で起きていたのだ。

 それがそれほどまでに彼らを驚かせた理由は、手のイメージはそう簡単には変わらないものだからだ。たとえばハンマーを使ったとする。それでも脳は相変わらず手を5本指のものとして認識している。

 もっと極端な事例としては、腕の切断が挙げられる。なんと腕が失われてしまっても、脳はやはりそれまでと変わらない手のイメージを持ち続けるのだという。手のイメージはそれだけ安定しているのだ。

 それなのにサードサムの場合、たった5日間練習しただけで脳で認識されるイメージが変わってしまったのだ。

 被験者はロボットの親指が自分の体の一部のように感じられたと言い、すぐに第六の指に馴染み、うまく使いこなすようになった。

シャボン玉のボトルの容器を抑えるのに利用したり
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たくさんの物をつかむときにも第六の指を有効活用していた
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【体の機能が増強されても、人間の脳は直ぐにそれに適応してしまう】
 なお実験終了から1週間後に再度MRIで検査してみると、問題の領域の活動は元に戻ってしまっていたという。

 その原因は実験期間が短かったからだと考えられているが、この点についてはさらに詳しく調査する必要があるとのことだ。

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 というのも、これから身体拡張技術が普及していった場合、それに対する脳の適応次第では利用者の安全に関わってくるからだ。

 「たとえば工場の労働者が長時間拡張アームを着用していたとしましょう。仕事が終わってアームを外したその人は、自然な体の動きにすぐに慣れて、帰り道を安全に運転することはできるのでしょうか?」と、研究グループのパウリナ・キエリバ氏は話す。

 拡張アイテムに体が慣れてしまうと、それを外した時も、拡張アイテムがあると脳が認識してしまい、元の体の動かし方がわからなくなってしまうとしたらやっかいだ。

 便利な技術はメリットもあるがリスクもある。人間の脳はまだ、自分の能力を拡張した時の準備ができていないようだ。

 かつてはSF世界のものだった身体拡張技術が当たり前になる時代はすぐそこまで迫っている。まずはそれに脳を適応させる必要性がありそうだ。

References:How an extra thumb changes the way your brain perceives the hand/ written by hiroching / edited by parumo

記事全文はこちら:もし指が6本あったら脳は手の認識をどのように変化させるのか?ロボットの指(第三の親指)を付けて実験 https://karapaia.com/archives/52302421.html
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