
柱と柱の間に斜めの補強を入れてやると、建物の強度を高めることができる。こうした構造を「筋交い」という。
これは建築や足場などに使われるものだが、極小のミクロ世界でも有効であるようだ。
MITの科学者が開発した新素材は、ナノスケールの筋交いのおかげで、髪の毛よりも薄いながらも、鋼鉄や最強のケブラーより優れた防御力を誇る。軽さとコンパクトさが求められる新しい保護素材としてピッタリであるそうだ。
【軽いのに驚異の防御力】
新素材をつくるには、まず感光性樹脂にレーザーを照射して、ナノスケールの筋交いパターンに加工する。それから高温の真空チャンバーの中で、ポリマーから超軽量カーボンに焼き上げる。
通常、カーボンはもろい。しかしナノ構造の相互に連結した炭素の「十四面体」のおかげで、曲げに強いしなやかさが生まれる。これが新素材の驚異の防御力の秘密である。
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新素材に開いたミクロのクレーター。筋交い構造が衝撃のエネルギーを吸収する(MIT)【粒子をぶつけて最適な構造を模索】
だが、こうした構造は配置によって特性が変わることが知られている。だから現実世界に応用するうえで最適なデザインがどのようなものなのか、それを探らなければならない。
そのために研究グループが採用した試験方法もユニークだ。
片面を金箔と酸化ケイ素の粒子でコーティングしたガラス製のスライドを用意し、ここへレーザーを照射するのだ。
こうするとプラズマ(高速で拡散するガス)が発生して、粒子を弾き飛ばす。新素材をゆっくりした力で引き裂く代わりに、秒速40~1100メートルという超音速の粒子をぶつけて、その性能を確かめるのである。
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【最強のチェーンメイル(鎖帷子)の誕生か?】
こうして完成した新素材は、筋交い構造が縮んでくれるので、高密度の大きな構造に比べて、大量のエネルギーを吸収できることが確認されている。
同じ重量で比較した場合、人間の髪の毛の太さよりも薄いというのに、鉄鋼やアルミ、さらには最強の引っ張り強度を持つケブラーよりも効率的にエネルギーを吸収してくれるという。
従来のものよりも軽く丈夫な新型ボディアーマーの基本素材、あるいは保護コーティングや耐爆破シールドといった応用が考えられ、防衛産業や宇宙産業などでの利用が期待できるとのことだ。
ゲーム内ではチェーンメイル(楔帷子)は防御力は弱い設定だが、現実世界ではチェーンメイルこそが最強の防護服となりそうだ。
この研究は『Nature Materials』(6月24日付)に掲載された。
追記:(2021/07/01)タイトルを一部訂正して再送します。
References:Ultralight material withstands supersonic microparticle impacts | MIT News | Massachusetts Institute of Technology / written by konohazuku / edited by parumo
記事全文はこちら:超軽量で防御力の高い鎧が誕生!ナノスケールの筋交い構造で、最強ケブラーの防御力すら凌駕する新素材 https://karapaia.com/archives/52303629.html
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