感染性因子「プリオン」を扱う研究所職員が2例目のヤコブ病発症。感染した疑いがあるとして研究を中止に(フランス)

 フランスで、タンパク質からなる感染性因子「プリオン」を扱っていた研究所職員に重篤な脳疾患が確認された。プリオンに感染した可能性が濃厚であるという。


 同国で研究所関係者のプリオン感染が疑われるのは2例目で、これを受けて少なくとも3か月の間、プリオンの研究が一時中止されることになったそうだ。

【脳などの神経組織を破壊する感染性因子「プリオン」】
 プリオンとは、タンパク質からなる感染性因子で、ミスフォールド(折りたたまれる過程で特定の立体構造をとらず、生体内で正しい機能や役割を果たせなくなる)したタンパク質がその構造を正常の構造のタンパク質に伝えることによって伝播、増殖する。

 脳などの神経組織が破壊されるため、発症した場合、現時点で治療することはできず、脳がスポンジのようになって数か月から数年で確実に死にいたる。

 狂牛病やクロイツフェルト・ヤコブ病などの伝達性海綿状脳症の原因となり、これらの病気はプリオン病と呼ばれている
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【フランスの研究所で2例目の感染の可能性が濃厚】
 今回、「クロイツフェルト・ヤコブ病(人間のもっとも一般的なプリオン病)」の発症が明らかになったのは、フランス国立農業・食糧・環境研究所(INRAE)の元職員だ。

 この人物は以前、研究所でプリオンを扱っていた。発症原因がプリオンであると断定されたわけではないが、INRAE職員はヤコブ病に感染したのは今回で2例目となる。

 最初の事例は、2010年5月、プリオンに感染したマウスで実験を行っていた最中、誤って注射針を指に刺してしまい、7年半後に感染が確認され、2019年6月に33歳の若さで亡くなったエミリー・ジャーメイン氏だ。

 検死では、「牛海面状脳症(俗にいう狂牛病)」に起因するとされる「変異型クロイツフェルト・ヤコブ病」と診断された。

 ヨーロッパでは2000年に狂牛病のアウトブレイクが収束しており、それ以降変異型クロイツフェルト・ヤコブ病の症例は報告されていなかったので、実験中の事故で感染したのだろうと推測された。

 当時、彼女はラテックス手袋を二重に装着していたのだが、その上から注射針が刺さってしまったようだ。この事故を受けてフランスの研究所では、耐切創手袋の使用、プラスチック製・使い捨てのハサミやメスの使用といった安全対策の見直しが行われた。
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【研究所はプリオンの研究を中止に】
 感染症というと細菌やウイルスが思い浮かぶが、プリオン病もまた感染症の1つだ。
ただしその原因は異常なタンパク質である。

 しかし外部のプリオンに感染する以外にも、遺伝子の異常によって発症するものや原因不明のものもある。

 またその感染因子は血液や人体組織に含まれていることがあり、輸血や硬膜移植などを受けたことで発症したとされる事例も過去には起きている。

 フランス国立農業・食糧・環境研究所(INRAE)は、プリオンの研究の一時中止を決定した。

References:France issues moratorium on prion research after fatal brain disease strikes two lab workers | Science | AAAS / written by hiroching / edited by parumo

記事全文はこちら:感染性因子「プリオン」を扱う研究所職員が2例目のヤコブ病発症。感染した疑いがあるとして研究を中止に(フランス) https://karapaia.com/archives/52304571.html
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