映画『エルム街の悪夢』は実際にあった謎の突然死がヒントになって生まれた【トリビア】
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 映画『エルム街の悪夢』(1984年公開)は、剃刀の手を持つ怪物、フレディ・クルーガーが子供たちの悪夢の中に潜んでいて、彼らを切り裂くという話だが、これが、実話からヒントを得た映画だと聞いたら、どう思うだろうか。


 そう、あの映画は実話を元にしているのだ。監督のウェス・クレイヴンは『LAタイムズ』誌で、この映画のアイデアを思いついたのは、東南アジアからアメリカに亡命してきたある若い男性についての一連の記事を読んでからだと語っている。

 健康になんの問題もなかったその男性は、ある日突然、就寝中に悪夢をみたかのような恐ろしい叫び声をあげて死んだという。

【80年代に急増したアメリカに移民した東南アジア人の謎の突然死】
 1980年代、東南アジアからアメリカにやってきた人々が、このようにして亡くなるケースが驚くほど増えた。

 アメリカ政府が1981年からその統計を取り始めてから、10年間で少なくとも117件が確認され、アメリカに住むラオス人の死因のトップ5に入るまでになった。

 アメリカでは後に"アジア突然死症候群"、"原因不明の突然死症候群あるいは夜間突然死症候群(SUNDS)"と呼ばれるようになったが、巷ではさまざまな名称が使われた。

 「日本ではポックリ病、フィリピンではバングングート(bangungut)、タイではライタイなどと呼ばれています」医師のロバート・キルシュナーは言う。「いずれも、それらはざっくりと悪夢の死という意味です」

 当時、この謎めいた死はアメリカじゅうで話題になり、政府も含め専門家など、誰もが困惑した。

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【死因の究明が行われる】
 「悪夢で死ぬはずはないのはわかっています」ミネソタ州ラムジー郡の検死官助手マイケル・マクギーは言う。

 「銃で頭をぶち抜かれたり、心臓を刺されたり、屋根から落ちたり、毒を盛られたりして死んだわけではありません。検死をしても、そのどれにも当てはまらないのです」

 「最初はとくに変だとは思いませんでしたが、3人目、4人目とこのような死亡例が次々と続いて発生すると、おかしいと思い始めたのです」

 18人の犠牲者を解剖したところ、全員の心臓が肥大していて、17人は心臓の筋収縮を開始したり、調整する伝導システムに異常がみられたという。

 解剖を行ったイリノイ大学のフリードリッヒ・エクナーは、まるで心臓がショートしてしまったようだと語った。


 1987年、さらに体系的な死因調査が行われ、その結果が『The American Journal of Public Health』誌に発表された。アメリカ国内とタイの難民キャンプでの死亡例を調査したところ、タイのほうがこうした死が多いことが明らかになった。

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映画、エルム街の悪夢予告編

【睡眠中に死亡したケースに睡眠障害とてんかんの関係性】
 調査では、睡眠中の死亡にのみに焦点を当て、犠牲者の家族、友人、タイの難民キャンプの仲間たちからそれぞれのケースの聞きとりをした。

 多くは、以前に睡眠障害を起こしたことがあったことがわかった。ある家族は、娘が異常な呼吸をしているのに気づき、呼びかけたがまったく反応がなかった。

 起こそうとすると、数分後に意識を取り戻したが、この異常が現れてから33ヶ月後に、娘はまた同じような状態に陥り、両親の目の前で死んでしまった。

 また、25歳の男性は、睡眠中の異常な呼吸から目覚めると、足が麻痺して萎えてしまっていたが、診察しても異常はみられなかった。だが、彼は同じ日の午後2時に昼寝をしている間に突然死んだ。

 このような突然死をした人は、てんかん持ちが多いことがわかり、家族もその傾向があった。つまりこれは、SUNDSには遺伝的要素がある可能性を示している。

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【ストレスとの関連性も】
 また、アメリカで突然死した東南アジア人は、比較的最近アメリカにやってきた移民に多い傾向があったという。ずっとアメリカに住んでいる東南アジア人に比べて、突然死のリスクがかなり高い可能性があり、ストレスがこの突然死の原因ではないかとも考えられた。


 カリフォルニア大のシェリー・アドラー教授は、ラオスのモン族の人たちは悪夢の霊を信じているため、それが彼らの突然死につながったのではと主張しているが、この症状は、過度のストレスが原因で心臓に生じた障害である可能性が高いと思われる。

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【『エルム街の悪夢』制作後に突然死の原因が明らかに】
 ウェス・クレイヴンがこの謎の突然死をヒントに1984年、『エルム街の悪夢』という映画を作ってからかなりたって、この死の原因と思われるものがやっと判明した。

 1992年にスペイン人医師ペドロ・ブルガダとその兄弟による研究で、心筋細胞膜のイオンチャンネルを支配するSCN5Aという遺伝子の変異によって、この突然死が引き起こされることがわかったのだ。

 この突然死は、発見者の名を取ってブルガダ症候群と名付けられた。

 この変異は、心臓の正常なリズムを妨げる疾患を引き起こし、乳幼児の突然死も同じ原因とされている。

References:Nightmare On Elm Street Was Inspired By A Real Life Medical Mystery | IFLScience / written by konohazuku / edited by parumo

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