
外敵から身を守るために、ごく少量でも大勢の人間を殺せるほど強力な毒で武装するカエルや鳥がいる。その毒は餌となる猛毒の甲虫を食べ体に蓄積したものだ。
それは優れた生存戦略だが、猛毒を身に宿すなど、諸刃の剣でもあるはずだ。それなのに、そうした生物が毒で死んだりすることはない。一体なぜなのか?
その理由について、これまで、猛毒生物は、神経細胞の膜に毒が結びつかない突然変異があるからではないかと推測されてきた。
しかし『Journal of General Physiology』(8月5日付)に掲載された研究によると、彼らには毒が神経細胞の膜に到達する前に無害化してしまうメカニズムが備わっているらしいことが理由であると考えられるようだ。
1mgで20人を殺す毒を持つ甲虫を食べ毒を蓄積する生き物 一部の甲虫がつくり出すアルカロイドから生成される「バトラコトキシン」は、ほんの1mgで20人の人間を墓場送りにできる強力な神経毒だ。
それほどの猛毒でありながら、パプアニューギニアに生息する「ピトフーイ」という鳥や、コロンビアの熱帯雨林に潜む「ヤドクガエル」の仲間は、危険な甲虫を食べても平然としている。それどころか、身を守るためにそれを体内に蓄積する。
甲虫が分泌するその猛毒を口にしてしまえば、神経の信号伝達を制御しているナトリウム・チャネルに結びつき、開きっぱなしにしてしまう。
つまるところ、神経がまともに信号を送信できなくなって、生物は死んでしまうはずだ。
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猛毒を持つ鳥、ピトフーイ Burung pitohui, burung beracun suara emas従来の仮説は本当なのか? では、なぜヤドクガエルやピトフーイは猛毒の甲虫を食べてもナトリウム・チャネルには影響が出ないのだろうか?
バトラコトシキンは、ナトリウム・チャネルの細孔内に結びつくと考えられている。しかし毒に耐性を持つカエルや鳥は、ナトリウム・チャネルに突然変異を起こしたタンパク質があり、形状が違う。だから神経毒が結びつかず、それで死んでしまうこともない。
これが従来の仮説だった。
実際、その突然変異タンパク質らしきものも発見されている。しかし毒ガエルやピトフーイのナトリウム・チャネル自体が研究されたわけではなかったので、本当のところどうなのかはっきりしなかった。
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ヤドクガエル photo by Pixabay
ウシガエルが持つ神経毒を無害化するメカニズム そこでカリフォルニア大学サンフランシスコ校やスタンフォード大学などの研究グループは、ピトフーイと2種のヤドクガエルに備わっているナトリウム・チャネルのクローンを作って、その機能を調べてみることにした。
すると、毒を防いでいると考えられた突然変異タンパク質は、ちっとも役に立たないことが判明したのだ。それどころか、神経内でナトリウム・チャネルとしてもうまく働いていなかった。
となると毒成分がナトリウム・チャネルに到達する前に、それを無害化する仕組みがなければならない。
それが何なのか、今回の研究では特定されていないが、そのヒントになる研究がある。それによると、「ウシガエル(Rana catesbeiana)」は、藍藻がつくる強力な神経毒を無害化するタンパク質をもっているのだという。
その神経毒を「サキシトキシン」という。しかしウシガエルが持つ「サキシフィリン」というタンパク質は、これに結びついてしまう。するとサキシトキシンはもはや神経に作用しなくなるので、無害なものとなる。
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ウシガエル photo by Pixabay
毒の防御メカニズムの進化解明や解毒剤の開発に ヤドクガエルやピトフーイにも同じメカニズムが備わっているのかどうか、今の時点ではわからない。が、研究グループは調べてみる価値はあると考えているようだ。
ちなみにこうした研究は毒防御メカニズムが進化した経緯を明らかにしてくれるだけでなく、解毒剤の開発にも役立つとのことだ。
References:Toxin sponges may protect poisonous frogs and | EurekAlert! / written by hiroching / edited by parumo
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