
image credit:DR ROBERT W. BOESSENECKER
かつて地球上には4本足を持つクジラが存在した。今から5000万年ほど前に誕生したそのクジラは、足を使いながら海と陸を行き来して暮らしていたという。
これまで4本足のクジラは、インドやパキスタン、南米ペルーなどで化石が発見されていたが、新たな種がエジプトで発見された。
エジプトの冥界の神でジャッカルの頭部を持つ「アヌビス」に似ていることから、「フィオミケトス・アヌビス」と名付けられた。
エジプトで発掘された新種の4本足のクジラの化石 2008年、風変わりな生き物の化石化した骨格の一部が、エジプト、ナイル川の西、エジプト西部の砂漠、化石の宝庫と言われるファイユーム・オアシスの岩の層から発掘された。体長3メートルほどの4本足を持つクジラである。
地質調査の結果、始新世中期にに当たる、およそ4800万年前から3800万年前に生息していたことがわかった。
当時、現在のエジプトの砂漠は、広大な海に覆われていて、このクジラの骨はもともと海岸沿いに埋まっていたと思われる。
発見後、骨は研究のためにエジプトのマンソウラ大学脊椎動物古生物学センター(MUVP)に運ばれた。
13年間にわたる骨の分析結果が、英王立協会の論文で発表されることになり、この4本足のクジラは、これまで始新世の化石記録にはなかった新種であると結論づけられた。
エジプトの冥界の神でジャッカルの頭部を持つ「アヌビス」に似ていることから、「フィオミケトス・アヌビス(Phiomicetus anubis)」と名付けられた。● 古生物の発掘中に、4本足のクジラの骨が見つかったのは、これが初めてではない。インドやパキスタン、南米ペルーなどでいくつかの種が見つかっていて、すべてプロトケティドスという絶滅したクジラの仲間であることがわかっている。
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● / image credit:Nobu Tamura / WIKI commons
だが、このフィオミケトス・アヌビスは、まるで新しい種だった。
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4本足のクジラの化石が発見された、エジプトのファイユーム・オアシスの詳細な地図 / image credit:Gohar AS et al / Biological Sciencesフィオミケトス・アヌビスは驚異的捕食者だった フィオミケトス・アヌビスは、成長すると、全長3メートル、体重590キロになる。これは、現在のクジラの基準からすると、とくに大きくはないが、彼らの柔軟性、強靭性、凶暴性がその体の小ささを補ったようだ。
陸を歩くのも、水中を泳ぐのも得意で、獲物を求めて水陸を自在に行き来することができた。その大きな口と、力強い顎の筋肉で、ワニ、小型哺乳類、ほかのクジラの子どもまでも捕えて押しつぶし、たちまち丸のみにした。
アヌビスの名がつけられたのは、このクジラの頭蓋骨の形からヒントを得たという。ジャッカルの頭をもつ古代エジプトの冥界の神アヌビスの頭蓋とよく似ているのだ。アヌビスの恐ろしげな姿は、迫りくる死を象徴していた。
気の毒な獲物の側からすれば、フィオミケトス・アヌビスの出現は、命の終わりが近いことを意味しているのにほかならない
「この生物は、活発な肉食獣として成功していました。当時、共存していたほとんどの生き物にとって、まさに死の神そのものだったと思います」エジプト、マンソウラ大学の脊椎動物古生物学を専攻する大学院生で、研究リーダーのアブドゥラ・ゴーハルは言う。
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本足のクジラの化石が発見されたエジプトのファイユーム・オアシスで、発掘作業をする古生物学者たち / image credit:MUVP陸から海へ、その間のすべて 現在、クジラはすべての海洋生物の中で最大の生物だが、かつてはまったく異なる生き物だった。
2019年、南米で発掘作業をしていた古生物学者たちが、ペルーの海岸線に沿って見つかった、4300万年前の4本足のクジラの骨について発表した。
この化石は、実際は2011年、フィオミケトス・アヌビスの発見の3年後に発掘されていたが、後者がプロトケティドファミリーの特異な仲間であることが確認されるまでに、時間がかかった。
興味深いことに、エジプト西部の砂漠で行われた始新世中期の発掘調査で発見された、古代クジラの種はフィオミケトス・アヌビスだけではない。
アヌビスの骨が発見された場所からほど近いところで、古代の完全水生クジラの一種、ラヤニステス・アファー(Rayanistes afer)の骨が見つかっている。
このふたつの種は、同じ生態系でありながら、海岸沿いの複雑な食物連鎖の中で異なる隙間を占有しながら、隣り合わせで共存していたようだ。
このタイプのクジラの体は、陸と海の両方で生活できる解剖学的構造をそなえていた。
だが、フィオミケトス・アヌビスと比べると、ラヤニステス・アファーは、進化のタイムスケールがいくぶん進んでいたようで、水陸両用の生き方を捨てて、完全に海の中で生活するようになった。このことから、ラヤニステス・アファーは、現代のクジラの先祖であることがより明らかになった。
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クジラの祖先の骨格。右は水陸両用クジラ、アンブロケトゥス(Ambulocetus natans)、左は小さな後ろ肢をもつ完全水生クジラ、シンシアケイトス(Cynthiacetus) / image credit:Jean-PierreDalbera/ CC BY 2.0クジラの進化の研究はまだはじまったばかり エジプトの古生物学者によれば、アフリカの海と海岸線のクジラの進化の研究は、まだまだ準備段階だという。
しかし、クジラが水陸両用から、永久に水生になるまでの進化の変遷は、1200万年の地質学的歴史をもつファイユーム・オアシスの化石の記録にすべて現れているようで、さらなる探究と研究が可能になると述べている。
フィオミケトス・アヌビスの発見は、重要なマイルストーンであることは間違いない。
「フィオミケトス・アヌビスは、重要な新種のクジラで、エジプトやアフリカの古生物学にとって大変貴重な発見なのです」アブドゥラ・ゴーハルは言う。
ひとつの古代の骨がすべての問いの答えになるわけではないが、複雑で果てしないが、魅力の尽きない進化の物語の空白を古生物学者が埋めるのに大いに役立つだろう。
References:A new protocetid whale offers clues to biogeography and feeding ecology in early cetacean evolution | Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences / Walking whale ancestor named after Egyptian god of death | Live Science / Four-Legged Whale Found in Egypt Named after Egyptian God Anubis / written by konohazuku / edited by parumo
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かつて地球上には4本足を持つクジラが存在した。今から5000万年ほど前に誕生したそのクジラは、足を使いながら海と陸を行き来して暮らしていたという。
これまで4本足のクジラは、インドやパキスタン、南米ペルーなどで化石が発見されていたが、新たな種がエジプトで発見された。
エジプトの冥界の神でジャッカルの頭部を持つ「アヌビス」に似ていることから、「フィオミケトス・アヌビス」と名付けられた。
エジプトで発掘された新種の4本足のクジラの化石 2008年、風変わりな生き物の化石化した骨格の一部が、エジプト、ナイル川の西、エジプト西部の砂漠、化石の宝庫と言われるファイユーム・オアシスの岩の層から発掘された。体長3メートルほどの4本足を持つクジラである。
地質調査の結果、始新世中期にに当たる、およそ4800万年前から3800万年前に生息していたことがわかった。
当時、現在のエジプトの砂漠は、広大な海に覆われていて、このクジラの骨はもともと海岸沿いに埋まっていたと思われる。
発見後、骨は研究のためにエジプトのマンソウラ大学脊椎動物古生物学センター(MUVP)に運ばれた。
13年間にわたる骨の分析結果が、英王立協会の論文で発表されることになり、この4本足のクジラは、これまで始新世の化石記録にはなかった新種であると結論づけられた。
エジプトの冥界の神でジャッカルの頭部を持つ「アヌビス」に似ていることから、「フィオミケトス・アヌビス(Phiomicetus anubis)」と名付けられた。● 古生物の発掘中に、4本足のクジラの骨が見つかったのは、これが初めてではない。インドやパキスタン、南米ペルーなどでいくつかの種が見つかっていて、すべてプロトケティドスという絶滅したクジラの仲間であることがわかっている。
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● / image credit:Nobu Tamura / WIKI commons
だが、このフィオミケトス・アヌビスは、まるで新しい種だった。
アフリカでこれまで発見された最古の水陸両用クジラであることを示す比較的原始的な特徴をもっていたのだ。
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4本足のクジラの化石が発見された、エジプトのファイユーム・オアシスの詳細な地図 / image credit:Gohar AS et al / Biological Sciencesフィオミケトス・アヌビスは驚異的捕食者だった フィオミケトス・アヌビスは、成長すると、全長3メートル、体重590キロになる。これは、現在のクジラの基準からすると、とくに大きくはないが、彼らの柔軟性、強靭性、凶暴性がその体の小ささを補ったようだ。
陸を歩くのも、水中を泳ぐのも得意で、獲物を求めて水陸を自在に行き来することができた。その大きな口と、力強い顎の筋肉で、ワニ、小型哺乳類、ほかのクジラの子どもまでも捕えて押しつぶし、たちまち丸のみにした。
アヌビスの名がつけられたのは、このクジラの頭蓋骨の形からヒントを得たという。ジャッカルの頭をもつ古代エジプトの冥界の神アヌビスの頭蓋とよく似ているのだ。アヌビスの恐ろしげな姿は、迫りくる死を象徴していた。
気の毒な獲物の側からすれば、フィオミケトス・アヌビスの出現は、命の終わりが近いことを意味しているのにほかならない
「この生物は、活発な肉食獣として成功していました。当時、共存していたほとんどの生き物にとって、まさに死の神そのものだったと思います」エジプト、マンソウラ大学の脊椎動物古生物学を専攻する大学院生で、研究リーダーのアブドゥラ・ゴーハルは言う。
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本足のクジラの化石が発見されたエジプトのファイユーム・オアシスで、発掘作業をする古生物学者たち / image credit:MUVP陸から海へ、その間のすべて 現在、クジラはすべての海洋生物の中で最大の生物だが、かつてはまったく異なる生き物だった。
およそ1000万年以上かけて、クジラの祖先は、シカのような陸上の哺乳類から、完全に水生の肉食生物へと変化しました。真に最初のプロトケティドは、およそ5000万年前の南アジアに出現したと考えられている。長い時間の経過とともに、地球の海を広く移動し、現在のクジラと同じくらい活動の範囲を広げたのだ。
プロトケティドは始新世のクジラですが、その劇的な進化の変遷の中で、とてもユニークな半水生の発達段階を示しています
2019年、南米で発掘作業をしていた古生物学者たちが、ペルーの海岸線に沿って見つかった、4300万年前の4本足のクジラの骨について発表した。
この化石は、実際は2011年、フィオミケトス・アヌビスの発見の3年後に発掘されていたが、後者がプロトケティドファミリーの特異な仲間であることが確認されるまでに、時間がかかった。
興味深いことに、エジプト西部の砂漠で行われた始新世中期の発掘調査で発見された、古代クジラの種はフィオミケトス・アヌビスだけではない。
アヌビスの骨が発見された場所からほど近いところで、古代の完全水生クジラの一種、ラヤニステス・アファー(Rayanistes afer)の骨が見つかっている。
このふたつの種は、同じ生態系でありながら、海岸沿いの複雑な食物連鎖の中で異なる隙間を占有しながら、隣り合わせで共存していたようだ。
このタイプのクジラの体は、陸と海の両方で生活できる解剖学的構造をそなえていた。
だが、フィオミケトス・アヌビスと比べると、ラヤニステス・アファーは、進化のタイムスケールがいくぶん進んでいたようで、水陸両用の生き方を捨てて、完全に海の中で生活するようになった。このことから、ラヤニステス・アファーは、現代のクジラの先祖であることがより明らかになった。
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クジラの祖先の骨格。右は水陸両用クジラ、アンブロケトゥス(Ambulocetus natans)、左は小さな後ろ肢をもつ完全水生クジラ、シンシアケイトス(Cynthiacetus) / image credit:Jean-PierreDalbera/ CC BY 2.0クジラの進化の研究はまだはじまったばかり エジプトの古生物学者によれば、アフリカの海と海岸線のクジラの進化の研究は、まだまだ準備段階だという。
しかし、クジラが水陸両用から、永久に水生になるまでの進化の変遷は、1200万年の地質学的歴史をもつファイユーム・オアシスの化石の記録にすべて現れているようで、さらなる探究と研究が可能になると述べている。
フィオミケトス・アヌビスの発見は、重要なマイルストーンであることは間違いない。
「フィオミケトス・アヌビスは、重要な新種のクジラで、エジプトやアフリカの古生物学にとって大変貴重な発見なのです」アブドゥラ・ゴーハルは言う。
ひとつの古代の骨がすべての問いの答えになるわけではないが、複雑で果てしないが、魅力の尽きない進化の物語の空白を古生物学者が埋めるのに大いに役立つだろう。
References:A new protocetid whale offers clues to biogeography and feeding ecology in early cetacean evolution | Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences / Walking whale ancestor named after Egyptian god of death | Live Science / Four-Legged Whale Found in Egypt Named after Egyptian God Anubis / written by konohazuku / edited by parumo
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