
氷、液体、蒸気、こうした水の相なら誰でも知っている。だが水は条件次第で、いくつもの構造に変化する。
今回アメリカの研究グループが新しい水の相を作りだし、その構造を調べることに成功。その成果が『Nature Physics』(21年10月14日付)で発表された。
その相の名を「超イオン氷」という。導電性の高い氷で、数千度という熱を加えることで形成され、しかも黒い。
高温高圧の状態で存在する超イオン氷は、海王星や天王星の磁場に影響を与え、生命が生存できる条件にも関係していると考えられるそうだ。
高温・高圧の状態で出現する超イオン氷 超イオン氷は、まったく未知の相だったわけではなく、海王星や天王星といった惑星の奥深くにある高温・高圧環境で形成されている。
ただし、これまでは水滴に衝撃をくわえたときチラッと目にできるだけだった。
だが米シカゴ大学のヴィタリ・プラカペンカ教授らは、超イオン水を人工的に作り、それを維持しつつ内部構造を調べることに成功した。
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photo by iStock
粒子加速器とダイヤモンドとレーザーで惑星内部の環境を再現 遠く離れた火星を目指そうという時代であっても、足元の地球内部にはそう簡単に辿りつけそうもない。地表から12キロも掘り進めば、凄まじい熱と圧力のために機械が溶けてしまうからだ。
こうした環境では、岩石がプラスチックのように振る舞い、水のような基本的分子の構造でさえ変わり始める。
もしそれを研究したいのなら、その場所までいけない以上、超高温・高圧環境を人工的に再現し、その上できちんと調べる方法を考案しなければならない。
プラカペンカ教授らは、それをアルゴンヌ国立研究所にある巨大な粒子加速器を使って実現している。
まずダイヤモンドの間に水をはさみ、高圧をくわえる。次にダイヤモンド越しにレーザーを照射して加熱。これで高圧・高温環境を再現する。
そのときの水の状態を調べるには、粒子加速器で電子を光速近くにまで加速する。するとX線が生じるので、これをやはりダイヤモンド越しに照射。X線が散乱する様子を解析することで、内部の原子構造と特性をマッピングする。
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image credit:UNIVERSITY OF CHICAGO水素の海に浮かぶ酸素の格子 プラペンカ教授は、予想外の構造が現れたので、何か余計な化学反応でも起きたのではと疑ったという。水の実験ではよくあることだからだ。
「でも、レーザーを止めて、水が常温に戻ると、黒い水が元に戻ったのです。つまり化学反応ではなく、可逆的な構造変化だったということです」と同教授は説明する。
まず格子状の立方体を思い浮かべてほしい。
超イオン氷になると、この格子が膨らんで、酸素はそのままの位置にありながら、水素が移動するようになる。
プラペンカ教授によると、「浮遊する水素原子の海に、酸素の格子があるようなもの」だ。超イオン氷が水なのに黒い秘密 この状態になると、氷の振る舞いも変わってくる。密度が下がり、光との相互作用が変化するのだ。だから色が暗くなる。
ただ超イオン氷の振る舞いや特性は完全には解明されていない。新しい物質の状態なので、従来の予想とは違っている可能性もある。
というのも、超イオン氷は50ギガパスカル以上の圧力(ロケット打ち上げ時の燃料内部のそれに相当)がなければ出現しないと考えられていたのだ。
ところが、今回それが出現したとき、予想外にも20ギガパスカルしかかかっていなかった。つまり、まだまだ知られていない性質があるということだ。
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photo by Pixabay
地球外生命の探査にも関係 さまざまな氷の相が出現する条件をきちんと把握することは、とりわけ惑星の形成を理解する上で重要なことだ。
超イオン氷が作られる環境は、海王星や天王星などの内部にもあり、磁場の形成に大きな影響を与えていると考えられている。
磁場は、生命にとってとても大切なものだ。たとえば私たちが地球で暮らせるのは、地球の磁場が有害な宇宙線や放射線を防いでくれるからだ。一方、そうしたバリアがない火星や水星には、それらが直接降り注いでいる。
磁場が形成される条件を知ることは、宇宙のどこかにある生命を宿す惑星を探すときのヒントになるのだ。
References:Scientists find strange black ‘superionic ice’ that could exist inside other planets | University of Chicago News / written by hiroching / edited by parumo
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今回アメリカの研究グループが新しい水の相を作りだし、その構造を調べることに成功。その成果が『Nature Physics』(21年10月14日付)で発表された。
その相の名を「超イオン氷」という。導電性の高い氷で、数千度という熱を加えることで形成され、しかも黒い。
高温高圧の状態で存在する超イオン氷は、海王星や天王星の磁場に影響を与え、生命が生存できる条件にも関係していると考えられるそうだ。
高温・高圧の状態で出現する超イオン氷 超イオン氷は、まったく未知の相だったわけではなく、海王星や天王星といった惑星の奥深くにある高温・高圧環境で形成されている。
ただし、これまでは水滴に衝撃をくわえたときチラッと目にできるだけだった。
だが米シカゴ大学のヴィタリ・プラカペンカ教授らは、超イオン水を人工的に作り、それを維持しつつ内部構造を調べることに成功した。
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粒子加速器とダイヤモンドとレーザーで惑星内部の環境を再現 遠く離れた火星を目指そうという時代であっても、足元の地球内部にはそう簡単に辿りつけそうもない。地表から12キロも掘り進めば、凄まじい熱と圧力のために機械が溶けてしまうからだ。
こうした環境では、岩石がプラスチックのように振る舞い、水のような基本的分子の構造でさえ変わり始める。
もしそれを研究したいのなら、その場所までいけない以上、超高温・高圧環境を人工的に再現し、その上できちんと調べる方法を考案しなければならない。
プラカペンカ教授らは、それをアルゴンヌ国立研究所にある巨大な粒子加速器を使って実現している。
まずダイヤモンドの間に水をはさみ、高圧をくわえる。次にダイヤモンド越しにレーザーを照射して加熱。これで高圧・高温環境を再現する。
そのときの水の状態を調べるには、粒子加速器で電子を光速近くにまで加速する。するとX線が生じるので、これをやはりダイヤモンド越しに照射。X線が散乱する様子を解析することで、内部の原子構造と特性をマッピングする。
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image credit:UNIVERSITY OF CHICAGO水素の海に浮かぶ酸素の格子 プラペンカ教授は、予想外の構造が現れたので、何か余計な化学反応でも起きたのではと疑ったという。水の実験ではよくあることだからだ。
「でも、レーザーを止めて、水が常温に戻ると、黒い水が元に戻ったのです。つまり化学反応ではなく、可逆的な構造変化だったということです」と同教授は説明する。
まず格子状の立方体を思い浮かべてほしい。
その角には酸素原子があり、それぞれが水素原子で結ばれている。
超イオン氷になると、この格子が膨らんで、酸素はそのままの位置にありながら、水素が移動するようになる。
プラペンカ教授によると、「浮遊する水素原子の海に、酸素の格子があるようなもの」だ。超イオン氷が水なのに黒い秘密 この状態になると、氷の振る舞いも変わってくる。密度が下がり、光との相互作用が変化するのだ。だから色が暗くなる。
ただ超イオン氷の振る舞いや特性は完全には解明されていない。新しい物質の状態なので、従来の予想とは違っている可能性もある。
というのも、超イオン氷は50ギガパスカル以上の圧力(ロケット打ち上げ時の燃料内部のそれに相当)がなければ出現しないと考えられていたのだ。
ところが、今回それが出現したとき、予想外にも20ギガパスカルしかかかっていなかった。つまり、まだまだ知られていない性質があるということだ。
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地球外生命の探査にも関係 さまざまな氷の相が出現する条件をきちんと把握することは、とりわけ惑星の形成を理解する上で重要なことだ。
それは地球外生命の探査にも関係する。
超イオン氷が作られる環境は、海王星や天王星などの内部にもあり、磁場の形成に大きな影響を与えていると考えられている。
磁場は、生命にとってとても大切なものだ。たとえば私たちが地球で暮らせるのは、地球の磁場が有害な宇宙線や放射線を防いでくれるからだ。一方、そうしたバリアがない火星や水星には、それらが直接降り注いでいる。
磁場が形成される条件を知ることは、宇宙のどこかにある生命を宿す惑星を探すときのヒントになるのだ。
References:Scientists find strange black ‘superionic ice’ that could exist inside other planets | University of Chicago News / written by hiroching / edited by parumo
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