男女の戦いは子宮の中で始まっていた。父と母の遺伝子が栄養をめぐって争っていることが判明
 いつの時代になっても人間同士の対立が絶えることはない。それが宿命とでもいうのだろうか?すでに子宮の中にいるときから、男女の戦いが始まっているという。


 英ケンブリッジ大学の研究グループがマウスの胎児が成長する様子を調べてみたところ、母由来の遺伝子と父由来の遺伝子が、しれつな栄養の争奪戦を繰り広げていることが明らかになった。

 この発見により、子宮内であまり成長できない赤ちゃんがいる理由も説明できるかもしれないという。

子宮内の胎児はどのように栄養を取るのか? お腹の中の胎児は、自分と母親両方の細胞が混ざった「胎盤の血管」を通じて、母体から栄養をもらっている。

 大きくなるにつれ、たくさんの栄養を必要とする。だから成長したら、「へその緒(臍帯)」から母親にサインを送って、栄養が欲しいとせがむ。

 おねだりされた母体は、我が子にもっと栄養を与えられるよう胎盤の血管を広げ、さらに細胞も変化させる。

 たとえば人間の場合、胎盤の血管は妊娠中期から後期にかけて一気に拡大し、出産間近になれば総延長320キロにまで広がるという。

 ところが中には発育の悪い胎児もいる。そうした赤ちゃんでは、胎盤の血管の発育も悪いことがしばしばだ。胎盤の血管の大きさが、それだけ重要であるということだ。

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 ちなみに胎児が出す「おねだりサイン」の正体は、へその緒を介して胎盤に伝えられる「インスリン様成長因子2(IGF2)」というホルモンだ。

 人間の場合、へその緒に含まれるIGF2濃度は徐々に上昇し、妊娠29週から満期で最大になる。


 これは多すぎても、少なすぎてもいけない。多すぎれば赤ちゃんが大きくなりすぎるし、少なければ発育が悪くなる。

 赤ちゃんは大きすぎても小さすぎても、お産が大変になる。また大人になってからも糖尿病や心臓病にかかるリスクが高いと言われている。栄養をめぐって、子宮内で母方遺伝子と父方遺伝子が夫婦喧嘩 『Developmental Cell』(21年12月27日付)に掲載された研究では、遺伝子操作されたマウスを使って、この「おねだりサイン」が観察された。

 そして明らかになったのは、子宮の中で、父方と母方の遺伝子が胎児に与える栄養をめぐって夫婦喧嘩をしているということだ。

 胎児からIGF2が送られてくると、母体は「IGF2受容体(IGF2R)」を媒介にして、その増加に反応する。

 IGF2もIGF2Rも、それぞれの情報を保存する遺伝子によって作られているのだが、じつはこれらの遺伝子には父母どちらからもらったのかの記録もある。そして、母由来か父由来かでスイッチの入り方が違う。

 IGF2を作る遺伝子でスイッチが入るのは、父親からもらったものだけだ。その反対にIGF2Rを作る遺伝子でスイッチが入るのは、母親からもらったものだけだ。

 このように母由来か父由来かで発現の仕方が変わることを「ゲノム刷り込み」や「ゲノム・インプリンティング」という。


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image credit:Ionel Sandovici

父由来の発現遺伝子が貪欲である可能性 今回の研究の主執筆者ミゲル・コンスタンシア博士は、「一説によると、このようなことが起きるのは、父由来の発現遺伝子が貪欲で、利己的だからであるそうです」と説明する。

 そうした父由来の遺伝子は、母体からできる限り多くの資源を手に入れようとする。すると母由来の遺伝子が、バランスを取ろうとそれに対抗する。

 今回の研究からは、父由来の遺伝子が、より大きな血管と多くの栄養を求めるよう胎児にうながす一方、胎盤にある母由来の遺伝子が、母体から提供される栄養の量を調整していることが明らかになっている。

 「ゲノムレベルで男女間の綱引きが行われています」と、コンスタンシア博士は話す。胎児の発育不良の治療に 研究グループによると、こうした発見のおかげで、お腹の中の胎児・胎盤・母体が互いに連絡を取り合う方法について、理解を深めることができるとのこと。

 また、胎児が持つIGF2を測定する方法や、薬でIGF2の量を適切に調整し、胎盤の血管の正常な発育をうながす方法を考案できる可能性もあるそうだ。

References:“Battle of the Sexes”’ Begins in Womb – Father’s and Mother’s Genes Tussle Over Nutrition / written by hiroching / edited by parumo

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