キノコには意識がある。学習し、短期記憶を持つとする科学的根拠
 近年、様々な生物の意識に関する研究が活発に行われている。意識とは、自分の今ある状態や、周囲の状況などを認識している状態のことで、魚やタコ、イカなどの頭足類、エビ、カニなどの甲殻類から、植物に至るまで、意識や感覚があるとする研究結果が多く報告されている。


 更にキノコ(真菌類)を扱った研究もある。それによると、キノコにも意識があり、学習して記憶をつくり、個体として意思決定を行うというのだ。

キノコの持つ意識とは? オックスフォード大学の生物学者ニコラス・P・マネー教授は、『Psyche』誌に、キノコの意識について説明している。

 まず最初に断っておくと、ここで言うキノコの「意識」とは知覚を有しているときの状態のことだ。つまり周囲の環境を「感知」して「反応」できることである。

 ただの反応なら意識があるとは思えないかもしれないが、実際のところ、きちんとした意識と単なる反応をはっきり区別することはほとんど不可能なのだという。

 だが、それらは意識レベルが違うだけで、地続きになっていると考えるのなら、ある種の反応も意識と呼ぶことができる。

 もちろん、あらゆる生物が知覚あふれる生活を送っているというわけではない。だが、少なくともキノコ(または菌類)にはその原型らしきものが見られるというのだ。

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そもそもキノコとは? そもそも「キノコ」とはどんな生物か? これもそう単純な話ではない。

 じつはキノコは「菌類」が作る生殖器官だ。その本体である菌類は、一生のうちの大半は土の中で細かい繊維のような姿、すなわち「菌糸」として暮らしている。


 この菌糸は「菌糸体」と呼ばれるコロニーを形成し、水を吸収し、木々や動物の死体などを食べつつ、土や落ち葉の中で立体的に広がる。

 菌糸体を構成する菌糸の1本1本は、圧力が加えられた液体で満たされており、先端が伸びて成長する。

 成長に必要な物質は、「小胞」という包みによって運ばれてくる。小胞はタンパク質の働きによって運ばれるのだが、このパターンが菌糸の伸びる速度や方向、分岐の形成といったことを決める。

 そして、この成長メカニズムは、温度の変化、水の有無、その他の要因によって、刻一刻と変化している。

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キノコも人間の体のように情報処理する たとえば菌類は、表面の凹凸を感知し、障害物を迂回するように成長する。傷付けば、その修復を試みる。

 どこかに閉じ込められれば、成長速度が遅くなり、分岐する頻度が低下。土の質感や動植物の組織構造などに反応することもできる。

 こうした活動は、タンパク質センサーとシグナル伝達経路が外部からの物理的・化学的刺激を細胞反応に変換することで行われる。細胞の電気活動が環境の変化に反応するため、動物の神経インパルスにも例えられることもある。

 菌類は私たちがしているような意味で「思考」するわけではないが、人体と同じように情報を処理することができるのだ。


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キノコは意思決定する 意識や知能からは、しばしば「意志」や「意図」が連想される。つまり意識があるのならば、何らかの結果を求めて意思決定もするだろうと想像される。

 本当に自由意志があるかどうかは置いておくとして、少なくとも私たち人間は意志や意図を持って1人1人が行動しているように見える。

 そして菌類でも、もっとシンプルなものだが、個人主義的な行動が観察されている。

 分岐を形成するパターンは、その好例だ。若いコロニーはそれぞれユニークな形をしているが、これは遺伝的な違いによるものではない。単一の親から生まれた完全なクローンですら、独自の形状を作り上げるからだ。

 菌糸体の全体的な形なら大雑把に予測することができる。だが、個性があるおかげで、細かい部分まで前もって知ることはできない。まるで雪の結晶のように、菌糸体の形は、この世にたった1つしかない。

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キノコは学習して記憶する 菌類は学習し、物事を記憶することができる。

 たとえば、彼らが温度の変化に対してどのように反応するのか調べた研究がある。
この研究では、菌糸体を数時間ほど熱した。すると成長が止まる。温度を戻せば、一応は回復するのだが、以前とは成長の仕方が変わってしまう。

 だが、また別の菌糸体を先ほどより軽く熱してから、前回同様に加熱してみた。つまり菌糸体に温度変化の「予習」をさせたわけだ。すると加熱されても菌糸体の成長は変化しなかった。

 つまり菌類が学習し、その記憶をもとに防御を整えたということだ。この記憶は予習してから24時間ほど保たれるという。

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キノコは成功体験を繰り返す さらに驚くべきことに、菌類はうまくいった記憶を使って、成功体験を繰り返そうとする。

 ある実験では、土を入れたトレイの中で、菌糸の行動が観察された。トレイの中にはブナの木が置かれており、これに触れた彼らは木の表面をおおうように成長する。

 ただ木をおおうだけでなく、酵素を分泌しながら木を分解して、それを食べる。
そして食べ終われば、新たなエサを求めて再び四方八方に成長を始める。

 この菌糸体をまた別のブナの木に乗せてみる。すると最初の木に接触したまったく同じ面から成長する。つまり木の特定の部分から栄養を得た記憶があり、その成功体験を繰り返そうとするのだ。

 これは、菌類には記憶だけでなく、空間を認識する力があるということでもある。まさに意識的な生物なのだ。粘菌にも備わっている学習能力と記憶 ちなみにこうした単純な学習と記憶は、長年にわたり「粘菌」で研究されてきた。

 粘菌は菌類ではなく、アメーバの親戚だ。彼らは腐った木の上に滲み出して、細菌を食べながら、脈打つネットワークのような構造を成長させる。

 2010年の研究では、粘菌のエサを東京とその周辺の都市と同じように配置してみた。すると驚いたことに、東京近辺の鉄道網とそっくりなネットワークが張り巡らされたのだ。

 すなわち、粘菌はエサとエサとの間を最短距離で結ぶことで、人間による都市計画と同じような経済性を実現できるということだ。


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木と共存する菌根菌 菌類は、ただ枯れた木を分解して食べるだけではない。生きている木々とのやりとりを通じて、さらに行動を複雑化させる。

 両者の関係は、敵対的であることも、友好的であることもある。たとえば病原性のある菌類は、極めて狡猾に植物の防御メカニズムをかいくぐり、それを餌食にしてしまう。

 だが「菌根菌」ははるかに協力的だ。木の根に入り込み、光合成で作られた栄養をもらう見返りに、水と分解したミネラルを木に提供する。

 木にとって菌根菌は根っこのオプション装備のようなものだ。菌糸が広がってくれるおかげで、自分の根だけでカバーできるよりずっと広い範囲に勢力を拡大できる。

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 こうした菌類と木々の共生関係は、生態系全体の生産性を支えている。このため、中には森林を菌類のインターネットで接続された「超生命体」ととらえる人たちもいる。

 ただし、こうした見解にはいくつか問題がある。まず菌類は、植物のパートナーと活発に相互作用することで独自に情報を作り出す。
これはインターネットにはない機能だ。

 そして、何よりこうした考え方のおかげで、菌類の行動学が科学の傍流に追いやられてきた歴史がある。

 と言うのも、菌類をインターネットに例える人たちは、キノコに超自然的な性質があるなどとあまり科学的でない考え方をしがちだったのだ。

 どこかの研究者がミバエの行動を調べていると話ても何の問題もなかろうが、キノコの認知能力を研究していると口にすれば、眉をひそめられることだろう。キノコには注目する価値がある だが、そうした状況も変わりつつあるかもしれない。

 菌類が表現している意識は、確かにとてもシンプルなものだ。だが、それは細胞メカニズムにおいて典型的なものであるという、最近形成されつつあるコンセンサスと整合的だ。

 こうした意識の研究は、菌類生物学が対象とする余地を大きく広げることだろう。地球の生態系の欠かすことができない一員として、キノコには注目されるだけの価値があるのだ。

 いや既に注目されているのかもしれない。プラスチックを食べるキノコ放射線を食べる真菌が、地球を救う救世主として期待されているのだから。

References:The fungal mind: on the evidence for mushroom intelligence | Psyche Ideas / written by hiroching / edited by parumo

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