古代ペルー時代の幻覚剤入りビールを発見。この酒で国民をコントロールしていた
 南米原産の幻覚作用を引き起こす植物の種子が含まれたビールが、古代ペルー時代の帝国の政治秩序を保つのに役立った可能性があるという。

 『Antiquity』誌に掲載された新たな研究によると、コロンブス以前の西暦600年から1000年に、現在のペルーにあった「ワリ帝国」では、幻覚剤庵のビールを作り、大量消費していたことが明らかとなった。


 大規模な宴会を催して、国民全体に向精神体験を共有させ、彼らをコントロールしやすくしたのではないかと推測されている。

古くからアンデス利用されていた幻覚作用のある植物 アンデス高地の古代文明では、フェネチルアミン系の幻覚剤、メスカリンを含むサンペドロサボテンや、ビルカと呼ばれるアナデナンテラ・コルブリナの種子など、幻覚作用のある植物が活用されていた。

 後者には、非常に強力な幻覚性化合物「ジメチルトリプタミン(DMT)」に似た成分が含まれていて、少なくとも4000年前から、南米のシャーマンは嗅ぎタバコにして吸入していた。

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アナデナンテラ・コルブリナ(ビルカ) / photo by iStock
ビールにビルカを混ぜ、向精神作用で国民を政治支配 DMTは、胃の中でモノアミン酸化酵素(MAO)によって分解されてしまうため、MAO阻害剤と併用しない限り、経口摂取したビルカによる幻覚作用はそれほどない。そのため、伝統的にこれは吸入接種されることが多い。

 だが、ワリ族が住んでいたキルカパンパの発掘で、ビルカの種を、今に伝わる「チチャ」というビールに似たお酒と混ぜたと思われる痕跡を発見した。これがこの種子の幻覚効果を高めた可能性があるという。

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 研究によると、チチャは、穏やかなMAO阻害剤の役割を果たしたのではないかという。この醸造酒にビルカを加えて、一種の幻覚パンチのようなものを作り、大規模な集まりでふるまったようだ。

 このようにして、これまでは高官や統治者など、一部のエリートしか手に入れることができなかった薬物を、伝統にとらわれずに、地域社会全体で共有したと思われる。

 鼻からビルカを吸引すると、個性的な体験をより強める、鋭く強烈な向精神作用を引き起こす。経口摂取だと、その効果は弱まるが、より持続性が保たれ、集中的に楽しむことができる。


 こうした向精神体験を大衆と共有することで、ワリの高官たちは地域社会のメンバー同士の絆を深め、集団としての結束を強化したかったのかもしれない。

 同時に、大宴会を主催して、この神の酒を提供することで、統治者が自分たちの優越性を維持し、このような体験をしたことのない、庶民の心に恩義の意識を生じさせたのかもしれない。

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帝国を組織する方法の転換点 古代アンデスの地政学において、薬物使用のこうした変化は、帝国を組織する方法の根本的な変化につながる重要な転換点と見ることができる。

 初期のアンデス王朝は、幻覚作用をもたらす神聖な植物の使用を高官に限定することで、自分たちの階級構造を維持し、こうした特権的な人々に、霊的な領域に独占的に到達できる権利を許すことで、その権威を保証した。

 だが、インカ帝国のようなのちの文明は、社会の結束を保つために、トウモロコシのビールを大勢で消費していたことが知られている。

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 ワリ族がビルカ入りのチチャを採用したことは、より多くの参加者が幻覚剤の効果を集団体験することができた、アンデスの政治的発展の支点になったと、指摘されている。

「結果的に得られる向精神体験が、ワリの帝国としての権力を強化し、排他的、組織的政治戦略の間の、中間的な段階を表わしているといえる」

 つまり、庶民に薬物を提供することで、ワリの指導者は、自分たちの高い地位を正当化し、維持することができたと思われる。

References:Hallucinogens, alcohol and shifting leadership strategies in the ancient Peruvian Andes | Antiquity | Cambridge Core / Tripping On Psychedelic-Infused Beer Together Helped Ancient Andean Empire Thrive | IFLScience / written by konohazuku / edited by parumo

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