
動物の感情や思考過程の研究はまだ始まったばかりだ。かつては人間をトップに、霊長類、哺乳類、鳥、爬虫類、昆虫と完全に階層を分けることができると考えられていた。
だが「知能」の定義はあまりにも人間特有のもので、研究者らは、そのとらえ方に偏りがあることに気が付いた。
動物はそれぞれまったく異なる進化を経て今にいたる。だから彼らが獲得した知能は、人間を絶対の基準としたものではなく、もっと相対的な観点から測られるべきであろうというのだ。
こうした知能という概念の変化に加えて、ドローンやAIといったさまざまなテクノロジーは、動物を邪魔することなく、彼らの普段の様子を長時間にわたり観察することを可能にした。
それらを駆使した研究からは、動物の知能は従来考えられてきた以上にずっと洗練されており、しかもバラエティ豊かであることが明らかにされている。
人間と同じような行動を見せる動物たち 知能についての概念が大きく変化したとはいえ、それを一番はっきりと感じられるのは、やはり動物が私たち人間に似た行動を見せたときだ。死の意味を知り、仲間を弔う象 たとえばゾウは、群れの仲間が死んだ場所を覚えており、そこへ戻ることが知られている。仲間の死体に強い関心を示し、それは死体が腐敗して完全に分解されるまでずっと続く。
このことはゾウが死に特別な関心を抱いており、いずれ自分が死ぬことを意識している可能性すらほのめかしている。
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Photo by Bisakha Datta on Unsplash
お互いの名前を呼び合うイルカ またイルカは仲間を名前で呼んでいる可能性がある。名前といっても人間のそれとは違い、固有の周波数の口笛だ。
どうも彼らは、仲間それぞれに専用の周波数を割り当ててコミュニケーションを交わしているようなのだ。
コミュニケーションという点について言えば、昆虫もまたフェロモンを介して仲間とやりとりを交わすことがある。しかし昆虫のコミュニケーションでは、ある信号に対していつも決まった反応が返ってくる。
一方、イルカのそれは人間の言語のように、もっと柔軟で文脈に応じて変化するようだ。たとえば、ブラジル南部のラグーナに生息するイルカは、100年以上にわたって漁師と交流した結果、特有の訛りができたことで知られている。
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photo by iStock
複雑な社会グループを形成する鳥類 こうしたまるで人間を思わせる知能は、哺乳類だけのものではない。
オウムなどの多くの鳥類は、複雑な社会グループを形成するが、その中では相手との関係によって扱い方が変わってくる。
このような習性は、鳥たちは高い知能を示すものとされる「連合学習」(2つの物事の関連性を学習すること)ができるらしいことを示唆している。認知能力を持つ昆虫 また昆虫は小さな脳しかないながら、道具の使用から顔の認識まで、驚くほど豊富な認知能力を発揮する。ものを計算できるし、何かを観察して学習することだってできる。
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Photo by Vandan Patel on Unsplash
動物の知能と進化の関係 こうした動物たちの知能は人間のそれを連想させるが、しかしそれが発達した進化の道筋は私たちとはまるで違ったものかもしれない。収斂進化によってもたらされた知能 最近まで、高度な認知能力はヒトがたどってきた進化ならではのものと考えられてきた。しかし現在では、この説は疑問視されている。
たとえば、タコなどの頭足類は人間とはまったく異なる進化をたどってきた生物だが、両者の脳の構造には類似点があることが明らかになっている。
このことから、どうも知能は「収斂進化(収束進化)」(まったく別の生物が同じ機能や性質を進化させること)の賜物らしいことがうかがえる。つまり、環境から適切な圧力を長期間にわたって受けさえすれば、どんな種であっても知能を身につけられるということだ。
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Photo by Diane Picchiottino on Unsplash
特定の分野で突出した認知能力を持つ また知能には、人間のそれを頂点とするヒエラルキーのようなものはなく、種それぞれにユニークなものであるらしいことも明らかになりつつある。
というのも、何もかもをソツなくこなせないのだとしても、ほとんどの動物には1つの分野ならば傑出した認知能力があるからだ。
たとえばチンパンジーの「短期記憶」は、実は人間よりも優れている。そのような力を身につけることができたのは、次々と生死に関わる決断を迫られる野生で生き延びるには、短期記憶の方が使い勝手がいいからだろうと考えられる。
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Photo by satya deep on Unsplash
動物は意味を記憶できる 動物の知能に関する研究は、神経科学からもたらされた知見にも大きな影響を受けている。
たとえば、かなりの数の動物が、「意味記憶」を持っていることが知られている。物事を別の物事に結びつける力のことで、あなたがハチを見て、刺されたら痛いと連想できるのはこのおかげだ。
さらに最近の研究からは、ラットやハトといった動物には「エピソード記憶(長期記憶のうち、個人的経験に基づくもの)」すらあることが示唆されている。つまり頭の中で過去の経験をさっと再現して思い出せるということだ。
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Photo by dadalan real on Unsplash
動物は自己を認識しているのか? 知能はしばしば、感情や自意識といった精神的な機能と結び付けられる。これは人間ならではとされる特性だが、動物でもこれらは観察されている。
類人猿の多くは、鏡に映る自分を自分と認識(鏡像認知)できるが、それはイルカやゾウもそうである。
アカゲザルは自然の状態では無理だが、過去の実験では鏡像認知させることに成功している。このことは自己認識は訓練で身につけられる能力であろうことを示唆している。
だが、そんな彼らが「どう感じているか」を知ることは、「どう考えているか」を知るよりも難しい。
たとえば、すべての脊椎動物は神経系が似ているために、十中八九、痛みを感じている。一方でこの類の研究のほとんどは、ネガティブな感情にのみ焦点を当てたものだ。
それはつまり、それ以外の感情についてはまだまだよくわかっていないということだ。
研究の積み重ねやテクノロジーの発達によって、動物には驚くほど洗練された知能が備わっていることが明らかになってきた。そこから言えるのは、私たちと動物はこれまで考えられてきた以上にずっとよく似ているということだ。
References:Animal intelligence is far deeper than we ever imagined - Big Think / written by hiroching / edited by parumo
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だが「知能」の定義はあまりにも人間特有のもので、研究者らは、そのとらえ方に偏りがあることに気が付いた。
動物はそれぞれまったく異なる進化を経て今にいたる。だから彼らが獲得した知能は、人間を絶対の基準としたものではなく、もっと相対的な観点から測られるべきであろうというのだ。
こうした知能という概念の変化に加えて、ドローンやAIといったさまざまなテクノロジーは、動物を邪魔することなく、彼らの普段の様子を長時間にわたり観察することを可能にした。
それらを駆使した研究からは、動物の知能は従来考えられてきた以上にずっと洗練されており、しかもバラエティ豊かであることが明らかにされている。
人間と同じような行動を見せる動物たち 知能についての概念が大きく変化したとはいえ、それを一番はっきりと感じられるのは、やはり動物が私たち人間に似た行動を見せたときだ。死の意味を知り、仲間を弔う象 たとえばゾウは、群れの仲間が死んだ場所を覚えており、そこへ戻ることが知られている。仲間の死体に強い関心を示し、それは死体が腐敗して完全に分解されるまでずっと続く。
このことはゾウが死に特別な関心を抱いており、いずれ自分が死ぬことを意識している可能性すらほのめかしている。
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お互いの名前を呼び合うイルカ またイルカは仲間を名前で呼んでいる可能性がある。名前といっても人間のそれとは違い、固有の周波数の口笛だ。
どうも彼らは、仲間それぞれに専用の周波数を割り当ててコミュニケーションを交わしているようなのだ。
コミュニケーションという点について言えば、昆虫もまたフェロモンを介して仲間とやりとりを交わすことがある。しかし昆虫のコミュニケーションでは、ある信号に対していつも決まった反応が返ってくる。
一方、イルカのそれは人間の言語のように、もっと柔軟で文脈に応じて変化するようだ。たとえば、ブラジル南部のラグーナに生息するイルカは、100年以上にわたって漁師と交流した結果、特有の訛りができたことで知られている。
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複雑な社会グループを形成する鳥類 こうしたまるで人間を思わせる知能は、哺乳類だけのものではない。
オウムなどの多くの鳥類は、複雑な社会グループを形成するが、その中では相手との関係によって扱い方が変わってくる。
このような習性は、鳥たちは高い知能を示すものとされる「連合学習」(2つの物事の関連性を学習すること)ができるらしいことを示唆している。認知能力を持つ昆虫 また昆虫は小さな脳しかないながら、道具の使用から顔の認識まで、驚くほど豊富な認知能力を発揮する。ものを計算できるし、何かを観察して学習することだってできる。
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動物の知能と進化の関係 こうした動物たちの知能は人間のそれを連想させるが、しかしそれが発達した進化の道筋は私たちとはまるで違ったものかもしれない。収斂進化によってもたらされた知能 最近まで、高度な認知能力はヒトがたどってきた進化ならではのものと考えられてきた。しかし現在では、この説は疑問視されている。
たとえば、タコなどの頭足類は人間とはまったく異なる進化をたどってきた生物だが、両者の脳の構造には類似点があることが明らかになっている。
このことから、どうも知能は「収斂進化(収束進化)」(まったく別の生物が同じ機能や性質を進化させること)の賜物らしいことがうかがえる。つまり、環境から適切な圧力を長期間にわたって受けさえすれば、どんな種であっても知能を身につけられるということだ。
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特定の分野で突出した認知能力を持つ また知能には、人間のそれを頂点とするヒエラルキーのようなものはなく、種それぞれにユニークなものであるらしいことも明らかになりつつある。
というのも、何もかもをソツなくこなせないのだとしても、ほとんどの動物には1つの分野ならば傑出した認知能力があるからだ。
たとえばチンパンジーの「短期記憶」は、実は人間よりも優れている。そのような力を身につけることができたのは、次々と生死に関わる決断を迫られる野生で生き延びるには、短期記憶の方が使い勝手がいいからだろうと考えられる。
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動物は意味を記憶できる 動物の知能に関する研究は、神経科学からもたらされた知見にも大きな影響を受けている。
たとえば、かなりの数の動物が、「意味記憶」を持っていることが知られている。物事を別の物事に結びつける力のことで、あなたがハチを見て、刺されたら痛いと連想できるのはこのおかげだ。
さらに最近の研究からは、ラットやハトといった動物には「エピソード記憶(長期記憶のうち、個人的経験に基づくもの)」すらあることが示唆されている。つまり頭の中で過去の経験をさっと再現して思い出せるということだ。
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動物は自己を認識しているのか? 知能はしばしば、感情や自意識といった精神的な機能と結び付けられる。これは人間ならではとされる特性だが、動物でもこれらは観察されている。
類人猿の多くは、鏡に映る自分を自分と認識(鏡像認知)できるが、それはイルカやゾウもそうである。
アカゲザルは自然の状態では無理だが、過去の実験では鏡像認知させることに成功している。このことは自己認識は訓練で身につけられる能力であろうことを示唆している。
だが、そんな彼らが「どう感じているか」を知ることは、「どう考えているか」を知るよりも難しい。
たとえば、すべての脊椎動物は神経系が似ているために、十中八九、痛みを感じている。一方でこの類の研究のほとんどは、ネガティブな感情にのみ焦点を当てたものだ。
それはつまり、それ以外の感情についてはまだまだよくわかっていないということだ。
研究の積み重ねやテクノロジーの発達によって、動物には驚くほど洗練された知能が備わっていることが明らかになってきた。そこから言えるのは、私たちと動物はこれまで考えられてきた以上にずっとよく似ているということだ。
References:Animal intelligence is far deeper than we ever imagined - Big Think / written by hiroching / edited by parumo
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