北極の深海で死骸を食べて繁殖、300年以上生きる海綿動物が発見される
 北極海の下にある海山には、何世紀も前に死んだ生物の死骸が大量に残されている。そんな海の墓場でひっそりと300年も暮らしている生物がいる。


 中央北極海、水深500~600メートルの海底に横たわる海嶺で、無数の巨大な「海綿動物」が発見された。その姿はエイリアンの卵を彷彿とさせる。

 栄養に乏しい極寒の海で暮らすその海綿は、大昔に死に絶えた生物の死骸を食べて生きていると考えられるそうだ。

北極海の深海に潜む数千もの様々な海綿動物 ドイツ、マックス・プランク海洋生物学研究所などのグループは、カメラとセンサーのネットワーク・システムや潜水ロボットで海底の様子を調査し、その結果を『Nature Communications』(2022年2月8日付)で報告している。

 そして発見されたのが、かつての海底火山の山頂を15平方キロにわたっておおう無数の海綿動物だ。

 海綿は、壺状、扇状、杯状などバラエティ豊かな形状を持ち、大きさも様々だ。

 研究グループのテレサ・モルガンティ氏によれば、海綿は数千もの群を形成していただけでなく、かなり大きく成長しており、最大のものは直径1メートルもあったという。

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image credit: T. M. Morganti et al., Nature Communications(2022)

海底墓場の死骸を食べて繁殖 栄養が乏しい深海では、しばしば生態系は「熱水噴出孔」がもたらす熱と食糧を頼りに織りなされている。

 ところが、北極のラングセス海嶺の火山は数千年前に活動をやめてしまった。しかも生憎、海流によってどこからか栄養が運ばれてくるようなこともなかった。

 そのような環境で海綿はいったいどのようにして生きているのか? モルガンティ氏らの仮説によると、彼らの食糧は大昔の生物の死骸であるそうだ。

 海綿が発見された海底にはバイオマスが大量に積もっている。
そのほとんどは、2000~3000年前に海底火山が活動を停止したときに死に絶えたチューブワームや二枚貝といった生物の死骸だ。

 海綿はそうした死骸を共生菌の力を借りて食べている。ともに暮らすクロロフレクサス門の細菌が化石化した死骸を分解する。海綿はこうして放出される溶けた有機物を口にしているのだ。

 墓場に残されている海綿の轍からは、そこで海綿が食事をして、それから今いるまだ死骸が残された山頂に落ち着いただろうことが示されている。

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image credit: T. M. Morganti et al., Nature Communications(2022)

代謝が遅いため海底墓場の死骸で十分生き延びることが可能 海綿の多くは非常に長生きで、少なくとも300年は生きている。だが、そんなにも長生きする間に、海底墓場の死体を食べ尽くしてしまうことはないのだろうか?

 モルガンティ氏によると、おそらく今のところその心配はないようだ。というのも、彼らの代謝が非常に遅いからだ。

 一般に水温が低い北極圏で生きる大きな動物は、代謝速度がかなり遅い。そのため大量のエサを必要とすることもない。このことから考えれば、海底墓場には今でも豊富な死骸が残されていると考えられる。

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image credit: T. M. Morganti et al., Nature Communications(2022)

気候変動により生息環境が破壊される可能性 彼らの脅威は別のところにある。
それは地球温暖化によってラングセス海嶺の海面をおおっている氷が解けてしまうことだ。

 氷が解けると、豊富な栄養が流れ込み、海底に降り積もるようになる。そうした栄養を目当てに他の生物が進出してくれば、海綿の生息環境が破壊されてしまう恐れがある。

 海綿は海底墓場で幽霊のようにひっそりと生きている。生物で賑やかなった海に、彼らの居場所はないのである。

References:300-year-old Arctic sponges feast on the corpses of their decaying, extinct neighbors | Live Science / written by hiroching / edited by parumo

追記:(2022/02/24)本文を一部訂正して再送します。

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