便移植で双極性障害の症状の改善に成功。世界初
 オーストラリアで「双極性障害」の便移植(便微生物移植)を行ったところ、症状が改善されることが確認されたそうだ。

 便移植による双極性障害の治療は、今回を含めてまだ2例目だが、今回報告されたケースでは、便移植を受けた患者は、双極性障害の改善のみならず、不安障害やADHDも改善されたという。


 まだ事例が少ないため、一般的な治療として普及するかどうかはわからないが、便移植が多くの精神疾患の治療に役立つ可能性があるという。

1例目の便移植による双極性障害の改善 双極性障害はかつて躁うつ病と呼ばれていたものでいろいろなタイプがある。特徴的なのは、「躁状態」と「うつ状態」が繰り返されることだ。

 一般的に、この病気になると、症状を抑えるために薬を飲み続ける必要がある。精神安定剤や抗精神薬などだが、種類によってはリスクも副作用(体重増加、鎮静、運動障害など)もある。

 便移植(便微生物移植)で双極性障害が治ったという最初の事例は、2020年3月に報告された。

 患者は20代の女性で、当時治療として1ダース(12個)もの薬を飲んでいた。その副作用で肥満になり生活に支障をきたすようになったことから、10度も入院経験があった。

 ところが、健康体である夫のから提供された便を使った移植を受けたところ、それから5年間症状が消え、33キロ減量することにも成功。もはや薬は不要となり、仕事も軌道に乗ったという。

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今回報告された2例目の便移植では不安障害やADHDにも効果 2人目の事例は、オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のグループが行ったもので、。2022年2月に報告された。


 患者は10代の男性で、さまざまな薬を試したものの、副作用に耐えられなくなっていた。

 しかし便移植後、1年かけて徐々にすべての薬をやめることができ、気分の激しい揺れは基本的になくなった。

 更にまた注目すべきことに、不安障害やADHDにも改善が見られたと報告されている。

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便移植とは? 人間の腸内には無数の細菌が暮らしている。こうした「腸内細菌叢(腸内フローラ)」は、私たちの健康全般に大きな影響を及ぼしているという。

 腸内細菌叢の構成の違いが、肥満・糖尿病・過敏性症候群に関連しているとする研究結果も報告されている。

 便移植(便微生物移植)の基本的な考え方は、この腸内細菌叢を変えることだ。健康な人の便を体に入れて、そこに潜む健康な細菌を一緒にもらうのである。

 やり方としては、トップダウン式とボトムアップ式がある。

 トップダウン式はカプセルを飲んだり、鼻からチューブを挿れて、胃や腸に便を送り届ける。ボトムアップ式は浣腸で腸へ直接送り込む。あるいは全身麻酔をして、大腸上部にチューブを挿入し、そこからうんちを流し込むこともある。


 こうした便移植は、「クロストリジウム・ディフィシル感染症」のような命にかかわる腸の病気を治療するために行われている。

 また「過敏性腸症候群」「潰瘍性大腸炎」「HIV」「肝炎」などでも治験が行われており、それぞれに有望な結果が得られている。

 使用される便はきちんと検査されており、副作用は稀だ。あったとしても大抵の場合は、内視鏡を使うための全身麻酔など便の投与法に起因する。

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なぜ便移植は精神疾患にも効果があるのか? 腸内細菌叢の異常は、双極性障害・うつ病・統合失調症に関連していると言われている。

 たとえば、うつ病患者の便をラットに移植すると、ラットもまたうつ病らしき症状を示すようになるのだ。同様に、統合失調症の患者から便をもらったラットには、統合失調症のような症状が現れる。

 これは直接の因果関係を証明したものではないが、それでも便移植でいくつかの精神疾患を治せる可能性を示唆するものだ。

 そもそも腸内細菌はどうやってメンタルに影響を与えているのだろうか? その手段はいくつもあるが、それぞれが複雑で、相互に作用している。

 たとえば、細菌は腸壁に直接働きかけ、迷走神経を介して脳にシグナルを送る。また大量の化学物質(短鎖脂肪酸など)を作って、免疫系も含め、事実上全身に作用する。ちなみに脳は免疫細胞に大きく依存している。


 ただし、今の時点で、便移植がうつ病や双極性障害に効きそうだという証拠は、事例が少なすぎる為、裏付けに乏しい。

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必ず医師の指導の元で検査済みの便で 最近注目を集めていることから、自己流で便移植を行う人もいるそうだ。

 有名な人としては、オーストラリアのフォークバンド「Boy & Bear」のボーカリスト兼ギタリスト、デイブ・ホスキンスがいる。彼は「うんちローディー」なるスタッフを雇っており、ツアー中にスタッフから便移植を受け、不安や気分の落ち込みをコントロールしているという。

 だが、いくら効きそうだからといって自己流では危険だ。便移植をやるなら、きちんとした医師による指導の下、検査された便を使用しなければならない。

 赤の他人からもらった便など、どんな病原菌や寄生虫が含まれているかわかったものではないのだ。

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便移植は普及していくのか? 便移植の効果を確かめるには、きちんと設計された大規模な調査を行う必要がある。それによって治療効果が、ほかの要因によるものではないことを立証しなければならない。

 また効果が期待できるかどうか予測できるような、細菌マーカーのようなものも探すべきだろう。こうしたマーカーがあれば、治療を最適化し、より効果的な治療が可能になる。

 オーストラリアやカナダでは、双極性障害やうつ病患者などを対象に、より大規模な便移植の実験が進められている。


 もし効果があることが証明されれば、今後精神疾患の治療法が変わっていくかもしれない。

References:A Poo Dose a Day May Keep Bipolar Away. When It Comes to Mental Health, What Else Could Poo Do? - Neuroscience News / written by hiroching / edited by parumo

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