大型ハドロン衝突型加速器が3年ぶりに再稼働、まずはウォーミングアップ
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 高エネルギー物理実験を目的として建設された、世界最大の衝突型円形加速器「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」が3年のメンテナンスを終え、ついに再稼働されたそうだ。

 「金曜正午すぎ、大型ハドロン衝突型加速器の27キロのリングを、2本の陽子ビームが反対方向に周回した」と、欧州原子核研究機構(CERN)が声明を発表した。


 スイスとフランスの国境の地下100メートルに埋められたLHCは、メンテナンスとアップグレードのために2018年12月に一時閉鎖された。14年の歴史で2番目に長い停止期間だ。

まずはウォーミングアップ 大型ハドロン衝突型加速器(LHC)は、世素粒子物理学の研究所である欧州原子核研究機構(CERN)が建設した世界最大の衝突型円形加速器だ。スイス・ジュネーブ郊外、フランスとの国境をまたいで設置され、2008年9月10日に稼動開始した。

 約3年ぶりとなる再稼働のため、まずはウォーミングアップとして、比較的少量の陽子を4500億電子ボルトのエネルギーで循環させたという。

 より高強度・高エネルギーでの稼働は、数ヶ月先になる。

 13兆6000億電子ボルトという新記録を打ち立てるために、スタッフは24時間体制で加速器の準備を進めることになるという。

 この前代未聞のエネルギーでの衝突実験は、その後4年にわたって行われる集中的なデータ収集と分析のスタートを告げる号砲だ。

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LHC restartsLHCの研究は新たなステージに LHCの実験で「ヒッグス粒子」が観察されたことで、宇宙の基本的な構成単位やそれを司る力を説明する現代最高の理論、「素粒子の標準模型」は、その正しさがまたも裏付けられたと考えられてきた。

 ところがその後、理論的枠組みに一致しないものが観察されたことで、標準模型の信頼が揺らぎ始ている。加速器による研究は、まさに新しいステージに突入したのだ。

 今月初め、400人以上の科学者が10年にわたって計測を続けた結果、標準模型から導かれるものよりずっと大きな質量を持つ「ウィークボソン」が発見された。


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5番目の力が存在するのか? ケンブリッジ大学の素粒子物理学者ハリー・クリフ氏は、LHCのアップグレードのおかげで「エキサイティングな数年になるでしょう」と語る。

 クリフ氏は、LHCで「ビューティクォーク」や「ボトムクォーク」と呼ばれる粒子を研究している。奇妙なことに、それは標準モデルから予測される振る舞いをしないのだ。

 クリフ氏によれば、こうした異常はたった1つの新しい力によって説明できる可能性があるという。

 現在この自然界には、「重力」「電磁気力」「強い力」「弱い力」の4つの基本的な力があるとされている。だが、もしも5番目の力があったとすれば、「とんでもないこと」だとクリフ氏は言う。

 標準モデルに一致しないものが観測されるまた別の理由としては、人類がまだまだ知識不足であるという線も考えられる。

 「全体像の一角しか見ておらず、もっと大きな絵があるのかもしれません」と、クリフ氏は言う。

 いずれにせよ、宇宙の基本的成り立ちについてより統一された理解へ向けた第一歩にはなるだろうとのことだ。

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ダークマターの謎 標準模型の最大の欠陥の1つは、宇宙の大部分を占めているとされる「ダークマター(暗黒物質)」を説明できないことだ。

 これまでのところ、LHCでダークマターの存在を示す痕跡は発見されていない。

 質量はあるが、光で直接観察できないという性質のために、検出が難しいのだ。


 「もしダークマターの粒子を発見できれば、大きなブレークスルーになることでしょう」と、クリフ氏は語った。

References:Large Hadron Collider restarts after three-year break / Large Hadron Collider restarts | CERN / written by hiroching / edited by / parumo

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