
サイコパスという言葉が一般的に知られるようになってずいぶん経つが、言葉だけが独り歩きしてしまい、その本質を正確にとらえている人は意外と少ない。
一般的なイメージではサイコパスは冷淡で感情がないと思われている。
要するにサイコパスにも感情はあるが、目的達成にとって邪魔だと思えば、それを無視することがいとも簡単にできてしまうというわけだ。
サイコパスでも人によって特徴が異なる サイコパスは、アメリカの精神医学分類DSMに記載されている『反社会性パーソナリティ障害』の一種で、特徴としては「他人に冷淡、良心や罪悪感の欠如、共感のなさ、自己中心的、平気で嘘をつくなど」がある。
他にも、「自己の利益のために人をだます」、「衝動的で計画性がない」、「暴力的で攻撃性が高い」などがあるが、これらが全てあてはまる必要はない。
人によって特質が異なり、うまく偽装している場合もあるため、そう簡単に見分けられるものでもない。
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犯罪ドラマに登場する典型的なサイコパスは本当にいるのか? ステレオタイプなサイコパスはよく犯罪ドラマの中で演じられている。他人を傷つけても罪悪感を一切持たず、冷酷で淡々と殺人を犯していくあのタイプだ。
例え警察に追われて捕まったとしても、一切動じず責められれば正当化する。
こうした描写のおかげで、視聴者には、サイコパスは冷酷非情な手に負えない悪人であるという印象が植え付けられている。
だがこれまでの研究からは、このようなセンセーショナルな描写は逆効果であり、単純に間違っていることが明らかになっている。
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暴力はサイコパスの決定的特徴ではない アメリカでは、サイコパスは人口の1%を占めるとされており、有病率は統合失調症のおよそ2倍と言われている。
サイコパスになる原因は不明だが、遺伝と環境の両方が関係すると考えられている(環境要因の場合はソシオパスとも呼ばれる)
この人格障害は、個人にも社会全体にも大きな負担となる。
サイコパスは、他の反社会的人物に比べても2~3倍犯罪を犯し、受刑者の25%を占めているとされる。また釈放後や観察終了後の再犯率も非常に高い。
薬物にも早い段階で手を出す傾向がある。その一方、従来の治療が効きにくいとも言われている。
ただし現実のサイコパシーはもっとニュアンスに富んだもので、救いようのないドラマの描写とは違ってもっと希望を感じられるものだ。
少なくともサイコパスは決して暴力の代名詞などではない。サイコパスが一般人に比べて暴力犯罪を犯しやすいのは確かだが、サイコパシーと診断するのに暴力的である必要はない。
専門家の中には、サイコパスの主な特徴は暴力的なことではないという意見もある。むしろその特徴は、衝動的・リスキーな行動をしがちな傾向、あるいは他人を利用し、行動の結果にほとんど関心を示さないといった傾向であるという。
そうした特徴は、政治家や起業家、金融業者によく見られるものだ。
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サイコパスも感情を感じている 犯罪ドラマなどに登場するサイコパスは、感情がなく、とりわけ恐怖や後悔といったものが欠けた人物として描かれる。
おかげで視聴者は、死体のかたわらで冷酷な視線を送るサイコパスを、まるでロボットのように見ることに慣れてしまった。
サイコパスには感情がないというイメージは、一般人だけでなく、心理の専門家の間ですら広まっているくらいだ。
確かに当たっている部分もある。サイコパスが感情処理能力に乏しく、他人に共感できないことを示した研究はいくつもある。しかし実際のところ、サイコパスは条件が整ってさえいれば、感情を認識できるし、それを実際に経験するのだという。
たとえば、イェール大学のアリエル・バスキン=ソマーズ氏らは、サイコパスと感情の複雑な関係について研究を行っている。
その研究では、サイコパスの恐怖心について調べるために、画面に文字の「N」と色のついた箱を表示し、それを参加者に見てもらうという実験を行った。
この時、箱が赤いと電気ショックを受ける仕掛けになっていた。つまり箱の色が脅威のシグナルなのである(なお電気ショックはただ不快なだけで、危険はない程度のものだった)
実験には2パターンあり、1つは実験に先立って、表示された箱の色を回答するよう参加者に指示が出された(脅威に集中させるため)。
もう1つでは、Nが大文字と小文字のどちらか回答するよう指示された(脅威ではないものに集中させるため)。
この実験では、サイコパスであっても脅威に意識を集中している時は、恐怖を感じられることが生理反応と脳の反応から確認されている。
ところが文字に意識を集中していた場合はそうではなかった。
普通の人でもこうした部分はある。何か大切な物事を判断しなければならない時、私たちは感情をそれほど意識しないだろう。だが、サイコパスはそれが極端に働いている。
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感情は感じでも、目的達成のためにそれを無視する このことはサイコパスがある意味、精神的な近視であることを示唆している。感情はあるが、目的達成の障害になると思えば、無視してしまうのだ。
こうした研究は、感情的な場面や顔を目にすれば、サイコパスでもそうした感情を察知し、実際に経験できることを裏付けている。
誰かが苦しんでいれば、それがわかるし、後悔することだってある。ところが、何かをやる上で感情を二の次にしていいものならば、それを感じなくなる。
サイコパスは情報の扱いに長けており、何か達成したい目的があれば、自らの行動を律することができる。たとえば、他人を騙すために魅力的に振る舞い、感情を無視することができる。
しかし意識が情報に向いていないと、衝動的な行動(突然仕事を辞めるなど)や馬鹿なこと(指名手配されているのに犯罪を喧伝するなど)をしでかす嫌いがある。
確かに感情処理が下手かもしれないが、ドラマのサイコパスとは違い、生まれつきの冷血漢ではない。
怖いもの知らずのシリアルキラーというイメージは、サイコパスについての時代遅れの見方の名残だ。サイコパスにだって感情がある。ただ目的に集中すると、それが押しのけられてしまうだけなのだ。
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サイコパスも治療は可能 ドラマや小説でも特に有害な誤解は、サイコパスが絶対に変わらないというものだろう。これは勧善懲悪の物語には便利だろうが、最新の研究はそれが嘘であることを伝えている。
サイコパシーの特徴は、多くの場合、思春期から大人にかけて徐々に薄らいでいく。たとえば、フロリダ国際大学のサミュエル・ホーズらは、子供から成人するまで1000人以上を追跡し、彼らのサイコパス度を繰り返し測定した。
すると、最初はサイコパス度が高くても、少年の半数は次第にそうした傾向が和らぎ、思春期後半になるとまったく見られなくなったのだ。
また、適切な治療を行えば、サイコパシー傾向が変わることも明らかになりつつある。
サイコパス傾向のある若者に、感情を知り、それに反応するよう学習させることが、問題行動の抑制に有効であることが証明されている。
親の心の温かさに意識を向けるよう強化すると、感情を上手く識別できるようになり、症状の緩和につながるのだ。
バスキン=ソマーズ氏らの一連の実験では、テレビゲームでサイコパスの脳の情報統合機能を改善する方法が探られている。
たとえば、参加者に人の顔を見せ、そこに浮かぶ表情や視線の先にあるものなどに応じて反応するよう指示する。こうすることで、顔から読み取れる情報をまとめる方法を学習させるのだ。
途中でルールが変わるカードゲームをプレイさせるという方法もある。ルールの変更は直接告げられないので、参加者は微妙な状況の変化に常に気を配る必要がある。
あくまで予備的なデータではあるが、こうした方法によってサイコパスの脳や現実での行動が変化することが示されている。
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サイコパスについての見方を変えるべき時がきている こうした研究は、サイコパシーによる個人的・社会的問題を緩和できる可能性を窺わせる。
バスキン=ソマーズ氏は、生まれつき暴力的で、感情がなく、変わることもできないというサイコパスに貼られたレッテルをそろそろ剥がすべきだと語る。
サイコパスの振る舞いはそもそも魅力的で、物語の筋書きを書くためにあえて誇張する必要などない。サイコパスがもっと周囲の情報を受け止め、人間の感情を利用できるよう手助けするべきだと、バスキン=ソマーズ氏は述べている。
References:Psychopaths Can Feel Emotions and Can Be Treated - Neuroscience News / written by hiroching / edited by / parumo
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一般的なイメージではサイコパスは冷淡で感情がないと思われている。
だが、実際にはサイコパスにも感情はあるという。ただし、何か別のものに意識が向いていると感情が鈍くなる。
要するにサイコパスにも感情はあるが、目的達成にとって邪魔だと思えば、それを無視することがいとも簡単にできてしまうというわけだ。
サイコパスでも人によって特徴が異なる サイコパスは、アメリカの精神医学分類DSMに記載されている『反社会性パーソナリティ障害』の一種で、特徴としては「他人に冷淡、良心や罪悪感の欠如、共感のなさ、自己中心的、平気で嘘をつくなど」がある。
他にも、「自己の利益のために人をだます」、「衝動的で計画性がない」、「暴力的で攻撃性が高い」などがあるが、これらが全てあてはまる必要はない。
人によって特質が異なり、うまく偽装している場合もあるため、そう簡単に見分けられるものでもない。
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犯罪ドラマに登場する典型的なサイコパスは本当にいるのか? ステレオタイプなサイコパスはよく犯罪ドラマの中で演じられている。他人を傷つけても罪悪感を一切持たず、冷酷で淡々と殺人を犯していくあのタイプだ。
例え警察に追われて捕まったとしても、一切動じず責められれば正当化する。
こうした描写のおかげで、視聴者には、サイコパスは冷酷非情な手に負えない悪人であるという印象が植え付けられている。
だがこれまでの研究からは、このようなセンセーショナルな描写は逆効果であり、単純に間違っていることが明らかになっている。
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暴力はサイコパスの決定的特徴ではない アメリカでは、サイコパスは人口の1%を占めるとされており、有病率は統合失調症のおよそ2倍と言われている。
サイコパスになる原因は不明だが、遺伝と環境の両方が関係すると考えられている(環境要因の場合はソシオパスとも呼ばれる)
この人格障害は、個人にも社会全体にも大きな負担となる。
サイコパスは、他の反社会的人物に比べても2~3倍犯罪を犯し、受刑者の25%を占めているとされる。また釈放後や観察終了後の再犯率も非常に高い。
薬物にも早い段階で手を出す傾向がある。その一方、従来の治療が効きにくいとも言われている。
ただし現実のサイコパシーはもっとニュアンスに富んだもので、救いようのないドラマの描写とは違ってもっと希望を感じられるものだ。
少なくともサイコパスは決して暴力の代名詞などではない。サイコパスが一般人に比べて暴力犯罪を犯しやすいのは確かだが、サイコパシーと診断するのに暴力的である必要はない。
専門家の中には、サイコパスの主な特徴は暴力的なことではないという意見もある。むしろその特徴は、衝動的・リスキーな行動をしがちな傾向、あるいは他人を利用し、行動の結果にほとんど関心を示さないといった傾向であるという。
そうした特徴は、政治家や起業家、金融業者によく見られるものだ。
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サイコパスも感情を感じている 犯罪ドラマなどに登場するサイコパスは、感情がなく、とりわけ恐怖や後悔といったものが欠けた人物として描かれる。
おかげで視聴者は、死体のかたわらで冷酷な視線を送るサイコパスを、まるでロボットのように見ることに慣れてしまった。
サイコパスには感情がないというイメージは、一般人だけでなく、心理の専門家の間ですら広まっているくらいだ。
確かに当たっている部分もある。サイコパスが感情処理能力に乏しく、他人に共感できないことを示した研究はいくつもある。しかし実際のところ、サイコパスは条件が整ってさえいれば、感情を認識できるし、それを実際に経験するのだという。
たとえば、イェール大学のアリエル・バスキン=ソマーズ氏らは、サイコパスと感情の複雑な関係について研究を行っている。
その研究では、サイコパスの恐怖心について調べるために、画面に文字の「N」と色のついた箱を表示し、それを参加者に見てもらうという実験を行った。
この時、箱が赤いと電気ショックを受ける仕掛けになっていた。つまり箱の色が脅威のシグナルなのである(なお電気ショックはただ不快なだけで、危険はない程度のものだった)
実験には2パターンあり、1つは実験に先立って、表示された箱の色を回答するよう参加者に指示が出された(脅威に集中させるため)。
もう1つでは、Nが大文字と小文字のどちらか回答するよう指示された(脅威ではないものに集中させるため)。
この実験では、サイコパスであっても脅威に意識を集中している時は、恐怖を感じられることが生理反応と脳の反応から確認されている。
ところが文字に意識を集中していた場合はそうではなかった。
つまり明らかにサイコパスは感情を感じられる。ところが、何か別のものに意識が向くと感情反応が鈍くなるのだ。
普通の人でもこうした部分はある。何か大切な物事を判断しなければならない時、私たちは感情をそれほど意識しないだろう。だが、サイコパスはそれが極端に働いている。
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感情は感じでも、目的達成のためにそれを無視する このことはサイコパスがある意味、精神的な近視であることを示唆している。感情はあるが、目的達成の障害になると思えば、無視してしまうのだ。
こうした研究は、感情的な場面や顔を目にすれば、サイコパスでもそうした感情を察知し、実際に経験できることを裏付けている。
誰かが苦しんでいれば、それがわかるし、後悔することだってある。ところが、何かをやる上で感情を二の次にしていいものならば、それを感じなくなる。
サイコパスは情報の扱いに長けており、何か達成したい目的があれば、自らの行動を律することができる。たとえば、他人を騙すために魅力的に振る舞い、感情を無視することができる。
しかし意識が情報に向いていないと、衝動的な行動(突然仕事を辞めるなど)や馬鹿なこと(指名手配されているのに犯罪を喧伝するなど)をしでかす嫌いがある。
確かに感情処理が下手かもしれないが、ドラマのサイコパスとは違い、生まれつきの冷血漢ではない。
怖いもの知らずのシリアルキラーというイメージは、サイコパスについての時代遅れの見方の名残だ。サイコパスにだって感情がある。ただ目的に集中すると、それが押しのけられてしまうだけなのだ。
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サイコパスも治療は可能 ドラマや小説でも特に有害な誤解は、サイコパスが絶対に変わらないというものだろう。これは勧善懲悪の物語には便利だろうが、最新の研究はそれが嘘であることを伝えている。
サイコパシーの特徴は、多くの場合、思春期から大人にかけて徐々に薄らいでいく。たとえば、フロリダ国際大学のサミュエル・ホーズらは、子供から成人するまで1000人以上を追跡し、彼らのサイコパス度を繰り返し測定した。
すると、最初はサイコパス度が高くても、少年の半数は次第にそうした傾向が和らぎ、思春期後半になるとまったく見られなくなったのだ。
また、適切な治療を行えば、サイコパシー傾向が変わることも明らかになりつつある。
サイコパス傾向のある若者に、感情を知り、それに反応するよう学習させることが、問題行動の抑制に有効であることが証明されている。
親の心の温かさに意識を向けるよう強化すると、感情を上手く識別できるようになり、症状の緩和につながるのだ。
バスキン=ソマーズ氏らの一連の実験では、テレビゲームでサイコパスの脳の情報統合機能を改善する方法が探られている。
たとえば、参加者に人の顔を見せ、そこに浮かぶ表情や視線の先にあるものなどに応じて反応するよう指示する。こうすることで、顔から読み取れる情報をまとめる方法を学習させるのだ。
途中でルールが変わるカードゲームをプレイさせるという方法もある。ルールの変更は直接告げられないので、参加者は微妙な状況の変化に常に気を配る必要がある。
あくまで予備的なデータではあるが、こうした方法によってサイコパスの脳や現実での行動が変化することが示されている。
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サイコパスについての見方を変えるべき時がきている こうした研究は、サイコパシーによる個人的・社会的問題を緩和できる可能性を窺わせる。
バスキン=ソマーズ氏は、生まれつき暴力的で、感情がなく、変わることもできないというサイコパスに貼られたレッテルをそろそろ剥がすべきだと語る。
サイコパスの振る舞いはそもそも魅力的で、物語の筋書きを書くためにあえて誇張する必要などない。サイコパスがもっと周囲の情報を受け止め、人間の感情を利用できるよう手助けするべきだと、バスキン=ソマーズ氏は述べている。
References:Psychopaths Can Feel Emotions and Can Be Treated - Neuroscience News / written by hiroching / edited by / parumo
『画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。
』
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