目に見えないミラーユニバース(鏡像宇宙)が私たちの宇宙を拡大させている可能性
 まるで鏡で写したかのようにそっくりな宇宙が存在する。それはSF映画ではお馴染みの世界だが、物理学者の中にはその存在をまじめに研究する者がいる。


 それはなぜか? 鏡写しのミラーユニバース(鏡像宇宙)が存在するなら、「ハッブル定数(宇宙の現在の膨張率を表す定数)」が一致しないという宇宙の難問を解決してくれるかもしれないからだ。

ハッブル定数が一致しない謎 ハッブル定数とは、宇宙が膨張する速度を示す値のことだ。その名は、エドウィン・ハッブルがはじめて宇宙の膨張を実証したことにちなむ。

 その後の計測で、ハッブル定数は”だいたい"70km/sec・Mpcに落ち着いた(銀河と銀河が1メガパーセク(約326万光年)離れるごとに、秒速70km遠ざかる速度が速くなるということ)。

 ここまではいい。問題なのは、観測技術の精度が上がるほどに、ハッブル定数がバラけるようになってしまったことだ。これは「宇宙張力問題(cosmic tension problem)」とも知られている。

 現時点で、ハッブル定数は計測方法によって大まかに2つある。

 1つは、宇宙マイクロ波背景放射の揺らぎの計測から導いたもので、約67km/sec・Mpc。もう1つは、遠方にある超新星などの観測から導かれたもので、こちらは約73km/sec・Mpcだ。

 両者が食い違う理由はよくわからない。だが、「ミラーユニバース(鏡像宇宙)」が存在するならば、これを説明できるかもしれない。


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2つ1組の宇宙、ミラーユニバース説 理論物理学では突拍子もないアイデアが流行ることがある。ミラーユニバースもその一例だろう。

 この仮説は1990年代、主に「物質と反物質の対称性」の問題を扱うために研究が進めれた。これまで科学者たちは、物質の粒子を作ることに成功している。

 そうした実験では、物質の粒子が作られると同時に、反物質粒子も作られている。両者は必ずペアで存在するのだ。

 ならば宇宙が誕生したときに作られたはずの反物質はどこへ行ってしまったのだろうか? この疑問を解くアイデアが、宇宙も2つ1組で誕生したというものだ。

 これが正しければ、私たちがいるこの宇宙が物質宇宙で、その双子である反物質宇宙(すなわちミラーユニバース)がどこにかにあることになる。

 この仮説にはいくつか問題があり、今ではそれほど支持されていない。だが、新たな研究によれば、ハッブル定数の問題を解決する突破口になるかもしれないという。

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 この研究では、「無次元パラメーター」なるものに不変性があることを発見している。この類のパラメーターとして有名なのは、電磁相互作用の強さをあらわす「微細構造定数」だ。


 その特徴は、計測されたパラメーターを組み合わせることで、あらゆる単位を相殺し、扱う単位にかかわらず同じ数値を得られることだ。理論的な考察をするには都合がいい。

 今回の研究が指摘するのは、観測された膨張率に適合するよう宇宙モデルをいじるとき、値が変わらない無次元パラメーターがいくつかあるということだ。

 これは宇宙の根本的な対称性を示している。この対称性をより広く応用すれば、重力自由落下や光子・電子散乱速度のスケーリングが可能になり、異なる方法で計測されたハッブル定数もより一致した値になる。

 そして、この不変性が本当にあるのだとすれば、それはミラーユニバースの存在をも示唆するのだという。それは微かな重力で、私たちの宇宙に影響していると考えられる。

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どこかにあなたの生写しがいる? この研究は、概念実証的なものでしかない。宇宙の不変性がハッブル定数問題を解決してくれる可能性を示してはいるが、それが本当に正しいのかどうかはわからない。

 理論を実証するには、より詳しいモデルが必要になるだろう。だがもし本当なのだとしたら、この世のどこかにはあなたの鏡写の存在がいて、弱々しい重力であなたに干渉しているのかもしれない。

 現在『arXiv』(2022年5月25日投稿)で、この研究の査読前論文を閲覧できる。


References:Does a "Mirror World of Particles" Explain the Crisis in Cosmology? - Universe Today / written by hiroching / edited by / parumo

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