一般的なキノコに1万7千以上の性別があることが判明
 人間の場合、生物学的には男性と女性の2種に分けられるが(ただし様々な性自認がある)北半球で一般的にみられるキノコ「ハカワラタケ」には、なんと1万7千種を超える性別があることが判明したそうだ。

 『PLOS Genetics』(2022年3月31日付)に掲載された研究は、性生殖の進化について理解を深めるヒントになるだけでなく、ゲノム配列決定技術の威力を再認識させてくれるものだ。


地味なキノコに隠された秘密 とんでもない数の性別があることが判明したのは、シハイタケ属の「ハカワラタケ(歯瓦茸)」というキノコだ。

 北半球の涼しい地域にある木や倒木、切り株などに生える姿は、通年を通してごく一般的にみられるもの。

 オスロ大学の菌類学者インガー・スクレーデ氏は、「キレイだが、派手さはない」と語る。だが一見地味でも、詳しく調べてみると、とんでもない秘密が隠されていたのだ。

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ハカワラタケに1万7750種の性別があることが判明 今回の研究グループは、世界各地からハカワラタケ3種の標本を180点ほど収集。その胞子を寒天プレートで数週間育ててDNAを解析したほか、胞子を組み合わせて、交配できるかどうか確かめてもみた。


 私たち人間の場合、両親からそれぞれ1セットずつゲノムを受け継ぐため、合計2セットのゲノムを持つ。

 つまり、私たちの体には、同じ遺伝子座を占めることができる遺伝子が2つあるということだ。こうした同じ遺伝子座を占めることができる遺伝子それぞれを「対立遺伝子(アレル)」という。

 これまでの研究で、ハカワラタケの性別は2ヶ所のゲノム領域(MATAとMATB)によって決まっており、両領域にはいくつもの対立遺伝子があるだろうことがわかっていた。

 ハカワラタケが子孫を残すには、両領域の対立遺伝子が自分とは違う相手(すなわち異性)と交配せねばならない。

 こうした多様性は、研究者の興味をかき立てるだろうが、悩みのタネでもある。
多様ゆえにこれまでは遺伝子の解析が難しかったのだ。

 しかし遺伝子解析技術が進歩したおかげで、数多くの個体のゲノムを比較的安価に解析できるようになった。

 今回の研究グループはそうした次世代技術を用いて、MATAとMATBの具体的にどこがハカワラタケの性別を決めているのか突き止めるとともに、これら2領域を占めている遺伝子のバリエーションの数を調べてみた。

 その結果、ハカワラタケには対立遺伝子の組み合わせ(性別)が1万7750もあることが明らかになったのだ。

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image credit:DOI: 10.1371/journal.pgen.1010097

膨大な性別がある理由 なぜこれほどの性別が必要なのか、はっきりしたことは不明だ。

 だが研究グループのデビッド・ペリス氏(オスロ大学)は、キノコが固着性(木にくっついて移動しない)であることと関係するのではと推測する。


 いくつもの性別があることで、周辺に自生している仲間と交配できる可能性(ペリス氏によれば、最大98%)が高くなる。

 さらに近親交配を防ぎやすいほか、環境の変化に適応し、長期的には種の生存率を高めるというメリットもあるだろうという。

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平衡選択の格好の例 またオランダ、ヴァーヘニンゲン大学の進化生物学者ドゥアー・アーネン氏は、この研究は「平衡選択(balancing selection)」の格好の例だと、第三者の立場から説明する。

 何らかの理由で珍しい遺伝子が選択されるようになると、異なる対立遺伝子の組み合わせ(ヘテロ結合)が増えるが、今回のキノコはその極端な例だと考えられるようだ。

 だがよくわからないのは、多様性が生存に有利だったとしても、ここまで多様になった理由だ。

 「対立遺伝子が100あればかなりの互換性があると言える。
それ以上に増やす理由は何だろうか?」と、アーネン氏は語っている。

References:Trichaptum mushrooms found to have more than 17,000 gender alleles / This Fungus Has More Than 17,000 Sexes / written by hiroching / edited by / parumo

追記:(2022/07/15)本文を一部訂正して再送します。

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