ハエをゾンビ化させる菌類、健康なオスのハエを誘惑してメスの死体と交尾させる
 ハエをゾンビ化させる菌類は、死者をいっそう美しく魅力的に演出することで、次々と犠牲者を増やしていく。

 「ハエカビ(Entomophthora muscae)」に感染されたハエのメスは、死後も魅惑的なフェロモンのような香りを発し、オスは死体と交尾せずにはいられなくなる。
うかつにも死体と交わったオスもまた、この菌類に感染されてしまうのだ。

  学術誌『ISME Journal』(2022年7月13日付)で発表されたハエカビの生存戦略は、恐ろしくも、どこか魅惑的だ。ただ学術的に妙味深いだけでなく、捕虫器などへの応用も考えられるとのことだ。

 以降ハエカビに感染されたハエの画像が使用されてます。

逃れられない死のループ ハエカビは、胞子をハエに感染せて生きる病原性のカビだ。ただ感染するだけではない。感染したメスの体を乗っ取り、オスを魅了する

 これに魅入られたオスのハエは、死が待っているというのにメスの死体に心奪われる。すべてのハエをゾンビ化させる恐ろしい菌類なのだ。

 この死のループは、ハエカビがメスに感染するところから始まる。感染されたメスは、生きながらにしてじわじわと体を食われながら飛び回り、胞子を撒き散らす。

 それだけではない。
6日もすると体が乗っ取られてしまう。メスはハエカビに操られ、植物の先端や壁のような高いところを目指し、そこで息絶える。すると今度は「セスキテルペン」という化学物質を放出し始める。

 コペンハーゲン大学環境・植物科学学部のヘンリック・H・デ・ファイン・リヒト准教授は、「これがフェロモンとして作用し、オスを魅了する。するとオスに死体と交尾したいという強い衝動が生じる」とプレスリリースで説明する。

 だが、それは死への誘いだ。死体と交尾を遂げたオスもまた危険な胞子に感染し、メスと同じ運命を辿ることになる。ハエカビはこうして新たな犠牲者に感染し、生き続ける。

 デ・ファイン・リヒト准教授准教授は、「観察からは、これがハエカビの意図的な戦略であることが示唆されている」と説明する。

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メスの死体と交尾しようとするハエのオス。死体のお腹に見える白い帯状のものがハエカビで、ここから死の香りを放つ胞子が放出される/Credit: Filippo Castelucci死後ますます魅力的になるメス 恐ろしくも、ハエカビに命を奪われたメスのハエは、死後ますますオスを魅了するようになる。

 ハエカビに感染したオスのうち、死後3~8時間経過した死んだメスと交尾をしたオスは15%。
圧倒的多数となる73%のオスは健康体で、死後25~30時間経過した死んだメスと交尾をしたことで死のカビに感染しているのだ。

 つまり健康なオスは、死後時間が経過したメスの死体にいっそう心奪われるということだ。その理由は、死体の中で胞子が増加して、危険な香りを強く放つようになるからだという。

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死の香りでハエを誘う捕虫器に役立つ可能性 ハエカビの死へ誘う香りは人間の役にも立ってくれそうだ。この香りの素である化学物質を捕虫器に応用するのだ。

 「ハエは不衛生で、大腸菌をはじめとする病気を人間や動物にうつす。だから食品工場などではハエを抑制する必要があるが、そのうえでハエカビが有効かもしれない」と、デ・ファイン・リヒト准教授は説明する。

References:Zombie fly fungus lures healthy male flies to mate with female corpses – University of Copenhagen / written by hiroching / edited by / parumo

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