恐竜を絶滅させた小惑星は巨大津波を引き起こし48時間で世界中の海岸に到達していた
 6600万年前、巨大な小惑星が地球に衝突し、恐竜を含む生物の75%を絶滅に追いやった。この時、高さ1.5キロの巨大津波が発生し、たった48時間で地球上のほぼすべての海岸に到達しただろうことが明らかになった。


 この事実は、ユカタン半島の「チクシュルーブ・クレーター」を作り出した小惑星の衝突をシミュレーションし、さらに世界中100か所以上から採取された地質データを分析した結果、明らかになったことだ。

 それによると、そのとき生じた津波の威力は、地球の裏側にある海盆の堆積物を撹乱・侵食するほどに強力だったそうだ。

6600万年前、恐竜を絶滅させた小惑星の威力 今回の研究はミシガン大学のモリー・レンジ氏の修士論文で、『AGU Advances』(2022年10月4日付)にも掲載されている。

 6600万年前、現在のメキシコ湾とカリブ海との間にある、ユカタン半島に衝突した小惑星は、当時地球に存在した動植物の約4分の3を一掃。

 当時地上を支配していた恐竜は、空を飛ぶもの以外はすべて絶滅し、現在まで生き残ったのは、恐竜の子孫である鳥だけだ。

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小惑星衝突から4時間後の津波の高さを表したシミュレーション結果。赤い部分は50メートルの高さがある / image credit:Range et al. in AGU Advances, 2022

 隕石の威力は凄まじく、猛烈な火災で動物を焼き殺したり、硫黄を含んだ岩石を粉々にして危険な酸性雨を降らせたり、地球を長期に渡り寒冷化させたりしたことが知られている。

 レンジ氏の研究テーマは、その時に発生した津波だ。

 衝突で発生した巨大な津波を探るために、幅14キロの小惑星が時速43,500キロ(音速の35倍の速さ)で地球に衝突したと想定して、当時の状況をシミュレーションした。

 これと併せて、恐竜を含む地球上の生物の70%を滅亡に追いやった、白亜紀末に起きた5度目の大量絶滅「K-Pg境界」前後の海底堆積物も分析している。津波の瞬間的な高さは4.5キロに及んでいた この分析によると、衝突によって発生した津波の初期エネルギーは、23万人以上の死者を出した2004年12月のスマトラ島沖地震津波のそれの3万倍と膨大なものだった。

 小惑星が地球に衝突すると、直径100キロのクレーターが生じ、その衝撃で大気中に高密度の塵と煤の雲が巻き上がった。


 衝突のわずか2分半後、放出された物質のカーテンが海水を外側へと押し出し、波の高さは一時的に4.5キロにもなって、再び地表へ降り注いだ。

 10分後、衝突地点から約220キロ離れた湾内を、高さ1.5キロの津波が縦横無尽に駆け巡った。さらに1時間が経過すると、津波はメキシコ湾から離れ北大西洋に進出。

 4時間後、津波は「中央アメリカ海路」(当時、北米と南米を隔てていた海路)を抜けて、太平洋にまで到達した。

 小惑星の衝突から丸一日が経過した頃には、太平洋と大西洋の大部分を横断し、インド洋には東西から津波が押し寄せた。そして48時間後、津波は地球のほとんどの海岸線に到達した。

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こちらは衝突から24時間経過後の津波の高さ。5メートルの波が現代の日本があるあたりまで押し寄せている / image credit: Range et al. in AGU Advances, 2022

 津波は主に東と北東に広がり、北大西洋へ到達。また中央アメリカ海路を経て、南西に流れ込み、南太平洋にも広がっている。

 こうした地域では水の流れが速く、時速0.6キロを超えていたと推定されている。これは海底の細かい堆積物を侵食する速度だ。

 一方、南大西洋・北太平洋・インド洋・現在の地中海など、津波の影響をほとんど受けなかっただろう地域もある。
シミュレーションによると、これらの地域の水流は時速0.64キロ以下だった。

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津波の最大振幅(単位センチメートル)/Image credit: Range et al. in AGU Advances, 2022

 さらに、「チクシュルーブ・クレーター」から12,000キロ以上離れたニュージーランド東部の島々でも、衝突の痕跡が見つかっている。

 それは「露頭」と呼ばれる岩石が露出したものだ。

 これまでこうした露頭は局地的な地殻変動によるものだと考えられてきたが、年代と津波のルートにあるという事実から、小惑星の巨大な波が残したものであることが判明した。

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Dinosaur-killing asteroid triggered global tsunami世界各地を10メートルの波が襲う レンジ氏は、「これらの堆積物は、衝突による津波の影響を記録したものだと感じています。おそらく、この出来事が世界に与えた大きな影響を確認できるもっとも有力な証拠でしょう」と述べている。

 なお今回の研究では、沿岸部で起きただろう洪水の影響までは調べられていない。しかしメキシコ湾外洋の波は高さ100メートルを超え、北大西洋や南米太平洋側の沿岸部付近でも10メートル以上あっただろうことがわかっている。

 そうした波は、水深が浅い海岸に近づいたとき、劇的に高くなったと考えられる。

 歴史を通じてさまざまな津波が記録されてきたが、小惑星による地球規模のインパクトはまさに桁外れだったようだ。

References:Dinosaur-killing asteroid triggered global tsunami that scoured seafloor thousands of miles from impact site / Tsunami from dinosaur-killing asteroid had mile-high waves and reached halfway across the world | Live Science / written by hiroching / edited by / parumo

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