人間の体温でプラスチックゴミを食べるミルワームをサポートする「昆虫スーツ」(昆虫出演中)
 宇宙服や防護服を連想させるこのスーツは、人類を、あるいは地球を「プラスチック汚染」や「食糧問題」から守るためのものだ。

 建築家のパヴェルス・リーピンズ(Pavels Liepins)氏が開発する「Inxect Suit」には、プラスチックを食べる「ミルワーム」が内蔵されており、着用者はこの虫と共生関係を築くことになる。


 着用者はミルワームに体温とプラスチックを与え、ミルワームは人間のためにプラスチックを分解し、高品質な食用タンパク質を提供する。

 すなわちInxect Suitとは、人間の排熱とミルワームを動力源とする、着用可能な「プラスチック廃棄システム」兼「タンパク質生産システム」なのである。
プラスチック汚染と食糧問題を解決してくれる昆虫スーツ
 Inxect Suitの開発者リーピンズ氏がめざすのは、人間とミルワームの互恵的な共生関係を育むことで、「プラスチック汚染」と「食糧問題」という2つの世界的大問題を解決することだ。

 スーツはPVCメンブレンという素材でできており、裏地に羊毛を使うなど、人体から発生する熱の散逸を最小限に抑えるよう設計されている。

 そして着用者の体温と湿気は外部に逃げることなく、腹部に装着されているケースに送り込まれる。

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 ケースはミルワームを飼育するためのいわば虫籠だ。ミルワームは、ゴミムシダマシ科の甲虫の幼虫で、動物のエサとして利用されてきたが、最近では人間の食材としても注目されている。

 だが、このミルワームはただのミルワームではない。プラスチックを食べて消化し、高品質の「食用タンパク質」に分解することができる。

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 またInxect Suitの防護服のような見た目はダテではない。風雨・放射線・有害廃棄物・病原菌からなどから着用者を守ってくれるため、過酷な環境下でのオペレーションに最適だ。

 センサーを通じて温度・湿度・CO2濃度が常に記録されるので、周辺環境を継続的にモニタリングすることができる。


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ミルワームが人類の未来を救う切り札に
 ミルワームのプラスチック分解能力はきちんと実証済みだ。

 たとえば2019年にスタンフォード大学で行われた研究では、ポリスチレンに含まれる有毒成分まで、安全に分解してくれることが確認されている。

 しかもミルワームを処理すれば、二酸化炭素をあまり排出することなく、タンパク質が豊富な代替肉に加工することができる。その排泄物を、肥料やバイオプラスチックとして利用することも可能だ。

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nxect Suitの有効性も確認
 またInxect Suitの有効性も確認されている。

 2020年11月にデンマーク、フェロー諸島で実施されたプロトタイプの初試験では、人体の熱・湿気とミルワーム200gで1時間あたり3~5mgのポリスチレンを分解することに成功。ミルワームが100匹もいれば、1日でポリスチレン39mgを分解できることが実証された。

 なおInxect Suitは、世界的な建築デザインコンペ「Design Educates Award」の「ユニバーサルデザイン部門」で銀賞を受賞した。

References:'inxect suit' houses plastic-eating mealworm colonies / written by hiroching / edited by / parumo

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