羊賢い。羊の群れはリーダーを定期的に交代することで集団的知性を発揮している
 羊の群れは、まるで1つの巨大な生き物かのようだ。そんな印象を裏付けるかのように、とある研究チームによれば、羊の群れには「集団的知性」が備わっているのだそうだ。


 群れ、すなわち動物の自己組織化プロセスは、各個体が絶えず自分の方向や速度を調整することで、集団運動が作られるとこれまでの研究では説明されていた。しかし、こうした理論には、そこに隠された「階層構造やリーダーの存在」を忘れている。

 『Nature Physics』(2022年10月20日付)に掲載された新たな研究では、物理学の理論を用いて、羊の群れの行動について分析した。

 それによると、羊の群れは、1日のうちに何度も、それを構成する個々の羊がリーダーとフォロワーの役割を交代しながら、「集合的知性」を獲得するのだそうだ。

動物の群れの集団行動に関する研究 フランス、コード・ダジュール大学フェルナンド・ペルアーニ氏によると、動物の群れは連続的なプロセスではなく、区切りのある1つの出来事なのだという。たとえば、ひとたび発生した群れも、休憩や食事のために中断される。

 だが、従来の集団行動の理論は、群れは最初から最後までずっと群れとして動き続けることを前提としている。さらに群れの個体は、どちらへ移動するのか絶え間なく交渉しているのだと想定されることもある。

 そこでペルアーニ氏らは、動物の集団行動に「始まりと終わり」という時間的要素を取り入れ、さらにそれを「集団相」の集合体と捉えることで、これまでとは違った視点から群れを分析しようと考えた。

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羊の群れにはリーダーがいて定期的に入れ替わっている 研究チームはまず、羊の小集団が見せる動きを、間隔を変えながら観察してみた。そして群れ全体の空間的な秩序と向きを計算するとともに、個々の羊の移動速度との相関を調べる。

 ここから、群れには「高度に階層化され相互作用ネットワーク」が形成されていることが判明したという。
さらに、このネットワーク内で伝達される情報が、群れにおける「羊の位置だけ」であることも明らかになった。

 こうした発見をもとに構築された集団運動モデルによれば、羊の群れには「全体を率いる”一時的”なリーダー」がいるのだという。

 このリーダーは階層的相互作用ネットワークを通じて、群全体を完全にコントロールする。しかし1日の内に非常に短いスパンで、また「別のリーダーに交代」する。

 つまり、羊の群れはリーダーとフォロワーが交互に入れ替わりながら移動するのだ。

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羊の群れは集団的知性を獲得 そのメリットは、リーダーが何か役立つことを知っていれば(迷路の出口やエサのありかなど)、群れ全体がその恩恵にあずかれることだ。

 個々の羊は交代でリーダーになり、その情報を群れに集積する。そうすることで、群れは「集団的知性」を獲得することができる。

 集団的知性は、その集団自体に知能、精神が存在するかのように見える知性のことだ。

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 今回の研究は、羊の小集団の運動を分析したものだ。ここでの発見がどの程度一般的なものなのか知るには、もっと大きな群れや異なる動物を用いたさらなる実験が必要であるとのことだ。

 だが交代するリーダーモデルは、自然に発生する動物の集団戦略が、階層的組織スキームと民主的組織スキームの両方を利用している可能性を示唆している。


 将来的には、これにインスパイアされた動物の集団行動に関する物理学や生物学が誕生するかもしれない。

References:Physics study shows that sheep flocks alternate their leader and achieve collective intelligence / written by hiroching / edited by / parumo

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