
大抵の脳科学者は、脳は古典力学的なプロセスで動作すると考えている。だが、実は脳が量子力学的なプロセスによって動作しているのだとしたら、脳がこれほど高性能な理由を説明できるかもしれない。
ダブリン大学トリニティ・カレッジの研究チームは、ある検査を通じて、脳で「量子もつれ」が起きている瞬間を目撃したのかもしれない。
それは脳の活動の一部や、もしかしたら意識までもが、量子レベルで動いているという証明である可能性があるという。
脳のスーパーパワーの秘密は量子プロセスにある? コンピューターは人間には不可能な膨大な計算を瞬時にやってのけ、今や将棋や囲碁といった複雑なゲームでも人間を打ち負かすようになった。
一方、どんな高度なコンピューターよりも生身の脳のほうが優れていることもある。
出来事・状況の解釈や、想像力・創造性・問題解決といったことだ。不思議なことに私たちの脳は、ある場面ではスーパーコンピューターを上回る強力な力を発揮することができる。
もう1つ不思議なのが「意識」だ。ニューロン(神経細胞)とシナプスの集合体からなぜこのようなものが生じるのか? 脳は複雑な器官かもしれないが、それでも分子と電気パルスを混ぜた袋のようなものでしかないのに、だ。
一部の研究者は、そうした脳の圧倒的なパワーと意識の背後には、「量子もつれ」などの量子的なプロセスがあるのではと疑っている。
「量子力学」的に見ると、「量子もつれ」は常識外れの現象である。
量子もつれは、粒子同士に強い結びつきができる現象だ。いったん二つの粒子に量子もつれの関係ができると、どんなに遠く引き離されても、なぜか互いのことが分かる。
片方の粒子の状態が変化すると、それに応じてもう一方の粒子も瞬時に変化する。
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脳内の量子プロセス 人間の脳内で、量子プロセスが起きていることを示すヒントはいくつかある。そうしたプロセスは、感覚として伝わってくる入力を通じて、脳が周囲の世界を認識する手助けをしているのかもしれない。
また、脳の中に特定の同位体が存在し、そのスピンが体や脳に作用するらしいことも知られている。
たとえば、核スピンが2分の1のキセノンには麻酔効果がある一方、それは核スピンがなければ消えてしまう。さらにリチウム同位体のスピンの違いが、ラットの発達や育児能力を左右する。
とはいえ、仮に脳内で本当に量子プロセスが起きているとしても、それがどう動作し、何をしているのか観察するのは簡単なことではない。そもそも探し物が何かもわからないのだ。
ダブリン大学トリニティ・カレッジのクリスチャン・カースケンス氏は、「もし脳が量子演算をしているのなら、それらの量子演算子は、原子系の演算子とは違うかもしれません」と語っている。
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photo by iStock
重力と量子をつなぐ鍵「量子重力」 よくわからない代物といえば、「量子重力」もそうだ。
物理学は大きく「重力」と「量子」の2つの領域に分けることができる。重力は、星々の動きを支配し、私たち人間を地球にへばりつかせている力の領域だ。
そして量子は、原子や粒子など、私たちが普段見ている世界とは少々違った振る舞いをするミクロの世界について語る。
今の時点でこの2つの領域はすこぶる相性が悪いが、もしも両者を統合することができれば、宇宙を支配する根本的な力を理解できるようになる。その鍵を握るとされるのが量子重力だ。
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脳内の量子もつれを観察 脳内の量子的プロセスも量子重力も、どちらも未知の領域だ。
脳が量子プロセスによって動作しているという仮説を確かめるために、カースケンス氏らは、量子重力の解明を試みる研究者のやり方を真似ることにした。
量子もつれを検出できるMRIを使い、脳内の陽子スピンが未知の媒介物を通じて相互作用し、もつれ合うかどうかを調べるのだ。
その狙いについてカースケンス氏は、こう説明する。
その結果、心臓が鼓動するときに生じる「心拍誘導電位(HEP)」が、陽子スピン間の相互作用を表すシグナルに対応していることがわかったのだ。
このシグナルは量子もつれの結果として生じたものである可能性がある。もしそうなら、脳内に存在する非古典的な仲介物を示唆しているのかもしれない。
また意識と量子もつれとの関係も示唆されている。
そもそもHEPは意識と結びついているが、それと同様、量子もつれを示唆するシグナルもまた、被験者に意識があるときしか発生しないのだ。MRI検査中に被験者が眠ると消えてしまう。
今回の結果は、脳がこれまでの常識のような古典的なシステムではなく、むしろ量子的なシステムであることを示している可能性がある。
この研究はもしかしたら、脳の圧倒的なパワーや意識といった難問を解明する、最初の第一歩なのかもしれない。
References:Consciousness may rely on quantum entanglement - Big Think / Our brains use quantum computation - News & Events | Trinity College Dublin / written by hiroching / edited by / parumo
追記(2022/12/23)誤字を訂正して再送します。
『画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。』
ダブリン大学トリニティ・カレッジの研究チームは、ある検査を通じて、脳で「量子もつれ」が起きている瞬間を目撃したのかもしれない。
それは脳の活動の一部や、もしかしたら意識までもが、量子レベルで動いているという証明である可能性があるという。
脳のスーパーパワーの秘密は量子プロセスにある? コンピューターは人間には不可能な膨大な計算を瞬時にやってのけ、今や将棋や囲碁といった複雑なゲームでも人間を打ち負かすようになった。
一方、どんな高度なコンピューターよりも生身の脳のほうが優れていることもある。
出来事・状況の解釈や、想像力・創造性・問題解決といったことだ。不思議なことに私たちの脳は、ある場面ではスーパーコンピューターを上回る強力な力を発揮することができる。
もう1つ不思議なのが「意識」だ。ニューロン(神経細胞)とシナプスの集合体からなぜこのようなものが生じるのか? 脳は複雑な器官かもしれないが、それでも分子と電気パルスを混ぜた袋のようなものでしかないのに、だ。
一部の研究者は、そうした脳の圧倒的なパワーと意識の背後には、「量子もつれ」などの量子的なプロセスがあるのではと疑っている。
「量子力学」的に見ると、「量子もつれ」は常識外れの現象である。
量子もつれは、粒子同士に強い結びつきができる現象だ。いったん二つの粒子に量子もつれの関係ができると、どんなに遠く引き離されても、なぜか互いのことが分かる。
片方の粒子の状態が変化すると、それに応じてもう一方の粒子も瞬時に変化する。
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脳内の量子プロセス 人間の脳内で、量子プロセスが起きていることを示すヒントはいくつかある。そうしたプロセスは、感覚として伝わってくる入力を通じて、脳が周囲の世界を認識する手助けをしているのかもしれない。
また、脳の中に特定の同位体が存在し、そのスピンが体や脳に作用するらしいことも知られている。
たとえば、核スピンが2分の1のキセノンには麻酔効果がある一方、それは核スピンがなければ消えてしまう。さらにリチウム同位体のスピンの違いが、ラットの発達や育児能力を左右する。
とはいえ、仮に脳内で本当に量子プロセスが起きているとしても、それがどう動作し、何をしているのか観察するのは簡単なことではない。そもそも探し物が何かもわからないのだ。
ダブリン大学トリニティ・カレッジのクリスチャン・カースケンス氏は、「もし脳が量子演算をしているのなら、それらの量子演算子は、原子系の演算子とは違うかもしれません」と語っている。
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重力と量子をつなぐ鍵「量子重力」 よくわからない代物といえば、「量子重力」もそうだ。
物理学は大きく「重力」と「量子」の2つの領域に分けることができる。重力は、星々の動きを支配し、私たち人間を地球にへばりつかせている力の領域だ。
そして量子は、原子や粒子など、私たちが普段見ている世界とは少々違った振る舞いをするミクロの世界について語る。
今の時点でこの2つの領域はすこぶる相性が悪いが、もしも両者を統合することができれば、宇宙を支配する根本的な力を理解できるようになる。その鍵を握るとされるのが量子重力だ。
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脳内の量子もつれを観察 脳内の量子的プロセスも量子重力も、どちらも未知の領域だ。
脳が量子プロセスによって動作しているという仮説を確かめるために、カースケンス氏らは、量子重力の解明を試みる研究者のやり方を真似ることにした。
量子もつれを検出できるMRIを使い、脳内の陽子スピンが未知の媒介物を通じて相互作用し、もつれ合うかどうかを調べるのだ。
その狙いについてカースケンス氏は、こう説明する。
未知の系は、陽子スピンのような既知の系と相互作用するかもしれません意識と量子もつれとの関係も示唆 『Journal of Physics Communications』(2022年10月7日付)に掲載された研究では、被験者40名の脳をMRIで検査し、その結果と心拍数との関連が調べられている。
もし未知の系が既知の系に量子もつれを仲介するなら、未知の系は量子的なものであるはずです
その結果、心臓が鼓動するときに生じる「心拍誘導電位(HEP)」が、陽子スピン間の相互作用を表すシグナルに対応していることがわかったのだ。
このシグナルは量子もつれの結果として生じたものである可能性がある。もしそうなら、脳内に存在する非古典的な仲介物を示唆しているのかもしれない。
また意識と量子もつれとの関係も示唆されている。
そもそもHEPは意識と結びついているが、それと同様、量子もつれを示唆するシグナルもまた、被験者に意識があるときしか発生しないのだ。MRI検査中に被験者が眠ると消えてしまう。
今回の結果は、脳がこれまでの常識のような古典的なシステムではなく、むしろ量子的なシステムであることを示している可能性がある。
この研究はもしかしたら、脳の圧倒的なパワーや意識といった難問を解明する、最初の第一歩なのかもしれない。
References:Consciousness may rely on quantum entanglement - Big Think / Our brains use quantum computation - News & Events | Trinity College Dublin / written by hiroching / edited by / parumo
追記(2022/12/23)誤字を訂正して再送します。
『画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。』
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