
空に轟く爆音と激しい稲光、地上へと放たれる放電。驚異の自然現象である「雷」は同時に自然災害ともなりうる。
雷から地上を守る手段といえば、250年以上前にベンジャミン・フランクリンが開発した、雷を呼び込み地面へと電流を逃すタイプの「避雷針」が今もなお使用されている。
だがついに画期的な落雷対策が可能になるかもしれない。”バルス!” ではなくて”パルス!”だ。
ヨーロッパの学際的研究チームが、高出力レーザーパルスを大気中に発射する新世代型の避雷針によって、雷を誘導する実証実験に成功したのだ。
驚異の自然現象「雷」 雷は、自然現象の中でもとりわけ過激なもので、雲から雲、雲から地上へと数百万ボルトもの電気が放出されている。
その様子は神々しくも美しいが、破壊的でもあり、停電・森林火災・インフラ損傷といった物的な被害だけでなく、毎年2万4000人もの人命が失われている。
だが、雷から守るための手段は昔ながらのものだ。1752年にベンジャミン・フランクリンが避雷針を発明して以来、雷対策はほとんど変わっていない。
金属で作られた避雷針の効果範囲は、その長さに等しい。つまり棒の長さが10メートルだとすれば、雷から守られる範囲は半径10メートルということになる。
もちろん長さを無限に伸ばすことはできないので、空港・風力発電所・原子力発電所など、広い場所を守るには物足りなさがある。
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現在使用されている避雷針は、保護対象とする建築物などの先端部分に設置される棒状の導体 photo by iStock強力なレーザーを大気に照射し雷を誘導する次世代型避雷針 ジュネーブ大学、パリ工科大学、スイス連邦工科大学ローザンヌ校などをはじめとするヨーロッパの学際的グループは、1999年から従来の避雷針にかわるレーザーを利用した避雷針を開発してきた。
その新世代避雷針を「レーザー・ライトニング・ロッド(レーザー避雷針)」という。レーザー避雷針は、強力なレーザーでイオン化した空気のトンネルを作り、そこに雷を誘導する。
レーザーは金属製の避雷針などよりずっと上空まで照射できるので、避雷針の長さを格段に伸ばすことができる。その分、雷から守れる範囲も広がるということだ。
ジュネーブ大学のジャン・ピエール・ウォルフ教授は、「高出力レーザーパルスを大気に照射すると、レーザー内に強力な光のフィラメントが形成されます」と説明する。
このフィラメントが空気にふくまれる窒素分子と酸素分子をイオン化し、電子を自由に動き回れるようにする。
このイオン化した空気を「プラズマ」というが、ここは電気が流れやすいため、避雷針かわりになってくれるのだ。
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高出力レーザーパルスを大気の照射し雷を誘導レーザー避雷針の実証実験に成功 このほど、ついにレーザー避雷針の実証実験に成功し、その成果が『Nature Photonics』(2023年1月16日付)で発表された。
その実験は、東スイスを代表する名峰、標高2502メートルのゼンティス山山頂にある通信塔で行われた。
ここは年間100回もの落雷がある雷の名所で、スイスコムが所有する通信塔はヨーロッパでも有数の雷の影響を受ける建物として知られている。
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スイスコムが所有する124メートルの通信塔で行われたレーザー避雷針実験 / Credit: Nature Photonics(2023)
レーザー避雷針は毎秒1000発のパルスを発射(周波数1kHz)する高出力レーザーだ。その発生装置を124メートルの通信塔のすぐ横に設置し、2021年6~9月にかけて嵐が予報されるたびに起動した。
その決定的瞬間はカメラにも収められている。研究チームが公開した画像には、レーザーにまとわりつくように落ちる落雷がはっきり映っている。
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レーザーに誘導される落雷(2021年7月24日撮影)。シュヴェーガルプ(a)とクロンベルク(b)に設置されたハイスピードカメラで撮影。青天時に撮影されたレーザーの軌道も重ねられている / Credit: A. Houard et al., Nature Photonics, 2023悪天候でも作動することも実証 レーザー避雷針が見事に雷を誘導できることは、この実験で集められた膨大なデータを1年かけて分析した結果からも証明されているという。
ウォルフ教授によると、雷は60メートル近くレーザーをたどることがわかったそうだ。つまり雷から保護できる範囲が、半径120メートルから180メートルにまで広がったということだ。
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雷誘導実験 / image credit:TRUMPF/Martin Stollberg
またレーザー避雷針が悪天候でもきちんと働いてくれることもわかったという。高出力レーザーは雲でさえ貫通する。そのため山頂では日常茶飯事である霧などが出ても普通に機能する。
研究チームの次の課題は、レーザーの照射高度をもっと高くすることであるそうだ。いずれは10メートルの避雷針をレーザー避雷針で500メートルまで延長できるようにしたいとのことだ。
References:Deflecting lightning with a laser lightning rod / Deflecting lightning with a laser lightning rod / written by hiroching / edited by / parumo
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雷から地上を守る手段といえば、250年以上前にベンジャミン・フランクリンが開発した、雷を呼び込み地面へと電流を逃すタイプの「避雷針」が今もなお使用されている。
だがついに画期的な落雷対策が可能になるかもしれない。”バルス!” ではなくて”パルス!”だ。
ヨーロッパの学際的研究チームが、高出力レーザーパルスを大気中に発射する新世代型の避雷針によって、雷を誘導する実証実験に成功したのだ。
驚異の自然現象「雷」 雷は、自然現象の中でもとりわけ過激なもので、雲から雲、雲から地上へと数百万ボルトもの電気が放出されている。
その様子は神々しくも美しいが、破壊的でもあり、停電・森林火災・インフラ損傷といった物的な被害だけでなく、毎年2万4000人もの人命が失われている。
だが、雷から守るための手段は昔ながらのものだ。1752年にベンジャミン・フランクリンが避雷針を発明して以来、雷対策はほとんど変わっていない。
金属で作られた避雷針の効果範囲は、その長さに等しい。つまり棒の長さが10メートルだとすれば、雷から守られる範囲は半径10メートルということになる。
もちろん長さを無限に伸ばすことはできないので、空港・風力発電所・原子力発電所など、広い場所を守るには物足りなさがある。
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現在使用されている避雷針は、保護対象とする建築物などの先端部分に設置される棒状の導体 photo by iStock強力なレーザーを大気に照射し雷を誘導する次世代型避雷針 ジュネーブ大学、パリ工科大学、スイス連邦工科大学ローザンヌ校などをはじめとするヨーロッパの学際的グループは、1999年から従来の避雷針にかわるレーザーを利用した避雷針を開発してきた。
その新世代避雷針を「レーザー・ライトニング・ロッド(レーザー避雷針)」という。レーザー避雷針は、強力なレーザーでイオン化した空気のトンネルを作り、そこに雷を誘導する。
レーザーは金属製の避雷針などよりずっと上空まで照射できるので、避雷針の長さを格段に伸ばすことができる。その分、雷から守れる範囲も広がるということだ。
ジュネーブ大学のジャン・ピエール・ウォルフ教授は、「高出力レーザーパルスを大気に照射すると、レーザー内に強力な光のフィラメントが形成されます」と説明する。
このフィラメントが空気にふくまれる窒素分子と酸素分子をイオン化し、電子を自由に動き回れるようにする。
このイオン化した空気を「プラズマ」というが、ここは電気が流れやすいため、避雷針かわりになってくれるのだ。
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高出力レーザーパルスを大気の照射し雷を誘導レーザー避雷針の実証実験に成功 このほど、ついにレーザー避雷針の実証実験に成功し、その成果が『Nature Photonics』(2023年1月16日付)で発表された。
その実験は、東スイスを代表する名峰、標高2502メートルのゼンティス山山頂にある通信塔で行われた。
ここは年間100回もの落雷がある雷の名所で、スイスコムが所有する通信塔はヨーロッパでも有数の雷の影響を受ける建物として知られている。
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スイスコムが所有する124メートルの通信塔で行われたレーザー避雷針実験 / Credit: Nature Photonics(2023)
レーザー避雷針は毎秒1000発のパルスを発射(周波数1kHz)する高出力レーザーだ。その発生装置を124メートルの通信塔のすぐ横に設置し、2021年6~9月にかけて嵐が予報されるたびに起動した。
その決定的瞬間はカメラにも収められている。研究チームが公開した画像には、レーザーにまとわりつくように落ちる落雷がはっきり映っている。
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レーザーに誘導される落雷(2021年7月24日撮影)。シュヴェーガルプ(a)とクロンベルク(b)に設置されたハイスピードカメラで撮影。青天時に撮影されたレーザーの軌道も重ねられている / Credit: A. Houard et al., Nature Photonics, 2023悪天候でも作動することも実証 レーザー避雷針が見事に雷を誘導できることは、この実験で集められた膨大なデータを1年かけて分析した結果からも証明されているという。
ウォルフ教授によると、雷は60メートル近くレーザーをたどることがわかったそうだ。つまり雷から保護できる範囲が、半径120メートルから180メートルにまで広がったということだ。
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雷誘導実験 / image credit:TRUMPF/Martin Stollberg
またレーザー避雷針が悪天候でもきちんと働いてくれることもわかったという。高出力レーザーは雲でさえ貫通する。そのため山頂では日常茶飯事である霧などが出ても普通に機能する。
研究チームの次の課題は、レーザーの照射高度をもっと高くすることであるそうだ。いずれは10メートルの避雷針をレーザー避雷針で500メートルまで延長できるようにしたいとのことだ。
References:Deflecting lightning with a laser lightning rod / Deflecting lightning with a laser lightning rod / written by hiroching / edited by / parumo
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