イカとヒトの脳に共通点。脳が同じように発達していることが判明
 私たち人間とイカは、5億年前に分岐し、まったく違う生物となった。にもかかわらず、脳は今も同じようなプロセスで成長することが明らかになったそうだ。


 この事実は、高解像度カメラで「アメリカケンサキイカ(Doryteuthis pealeii)」の胚の網膜を観察して確認されたものだ。

 人間と、頭足類であるイカやタコはお互いに遠く離れた生物だ。だが複雑な脳と神経系を発達させた進化の設計図は、共通しているのかもしれない。彼らの知能が高いのもうなずける。

イカ(頭足類)の高い知能にヒトと共通の秘訣 タコやイカなどをはじめとする「頭足類」の知能には、以前から多くの研究者が惹かれてきた

 彼らの頭の良さは本当にハンパではない。

 無脊椎動物としては例外的なほど処理能力も優れ道具を使い、カモフラージュで巧みに身を隠し、好奇心があり、ちょっとイタズラしてみたり、眠っているときには夢まで見る

 『Current Biology』(2022年11月9日付)に掲載された研究は、そうした賢さの秘訣は、重要な部分でヒトと共通している可能性をほのめかしている。

 ハーバード大学の分子生物学者クリステン・ケーニグ氏は、「脊椎動物の神経系で見られる発達の多くが、この系統の動物に特有のものだと考えられていたので、驚きました」と、プレスリリースで説明する。

 ところがイカと人間の脳の発達プロセスがよく似ているという事実から、この2つの系統がそれぞれ「独自に同じ仕組みを利用して大きな神経系を進化させた」のではと、ケーニグ氏は推測する。その仕組みこそが、大きな神経系を作り上げるうえで鍵を握っていると考えられるという。

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発生の後期段階にあるアメリカケンサキイカの胚 / image credit:Kristen Koenigイカの脳の発達は脊椎動物に匹敵 今回の研究では、イカ胚の脳の発達を調べるために、蛍光色素で網膜の幹細胞(神経前駆細胞)を色付け、これを顕微鏡カメラで観察した。


 すると脊椎動物と同じように、イカの幹細胞は「長く密度が高い構造(偽重層上皮)」に変化したのだという。

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イカの網膜。観察しやすいように蛍光色素で細胞膜を色付けてある

 この構造は、大きくて複雑な組織に成長するための大切なステップなのだが、その核の大きさ・組織・動きが脊椎動物とそっくりだったのだ。

 そうした特徴は、高度な脳と目を発達させる脊椎動物ならではとされていたものだ。

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photo by Pixabay
頭足類が多様性の鍵を握る ちなみに頭足類が私たちと同じような神経の設計図をもつだろうことは、以前にも報告されている。

 例えば、タコやイカは神経組織の中にさまざまな「マイクロRNA」(遺伝子のスイッチを制御する小さな分子)をもつが、これは私たち人間と共通している。

 研究チームは今後、イカの神経が成長する過程で、各種細胞がいつ、どのように出現するか調べ、それを脊椎動物と比較する予定であるそうだ。

 もしも基本的な設計図が同じなのだとしたら、そうしたタイミングも同じかもしれない。

 「こうした研究からわかることの1つは、生命の多様性を研究することがどれだけ大切かということです」とケーニグ氏は語る。

 多様性を追究することで、私たち自身についての疑問にも答えられるようになるとのことだ。

References:How squid and octopus get their big brains / written by hiroching / edited by / parumo

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