
元海軍ダイバーという経歴をもつアメリカ人研究者が、現在、水中滞在の世界記録に挑戦している。
ジョセフ・ディトゥリ氏は、南フロリダ大学のバイオ医療工学の准教授だ。
だが、この「プロジェクト・ネプチューン100」の本当の目的はギネス記録を破ることではない。水中の高圧環境が人体に与える影響を自らの体で確かめることだ。
彼の仮説によるなら、高圧下で長期間過ごせば「超人類」になれる可能性があるのだそうだ。
100日間の水中滞在記録に挑戦する研究者
水中滞在記録といっても水の中に直接滞在するわけではない。
現在55歳のディトゥリ氏は、3月1日から6月9日までの100日間、フロリダ州キー・ラーゴにある世界唯一の水中ホテル「ジュールズ・アンダー・ロッジ」の水深9メートルの部屋で過ごすことになる。
部屋の中とはいえ、宇宙ステーションさながらの隔離された狭い環境で長時間過ごすのだ。水圧がかかるため地上とは環境が異なる。
専門の医療チームが編成され、心身の健康状態が定期的に検査される。
「人体がこれほど長時間水中にいるなど前代未聞なので、私は入念にチェックされることになります」と、ディトゥリ氏はプレスリリース[https://www.usf.edu/news/2023/usf-researcher-attempts-to-set-world-record-by-living-underwater-for-100-days-hopes-to-emerge-super-human.aspx]で語る。
水中生活で超人類に進化する可能性?
こんなことに一体何の意味がとも思えるが、ディトゥリ氏の仮説によるなら、水圧のおかげで潜る前より健康になると考えられるのだそう。
その根拠はある研究結果にある。
その研究では、細胞に圧力をくわえてみたところ、5日以内に2倍に増えたのだ。これは圧力が高まると、人間の寿命が伸びて、老化による病気も予防される可能性を示している。
「だから、自分は超人類になっちゃうかもです」と、ディトゥリ教授は言う。
ディトゥリ準教授は、研究者になる以前、米海軍で飽和潜水のダイバーだった異色の経歴の持ち主だ。
飽和潜水とは、それ以上人体にガスが溶けなくなるほど水圧がかかる水深まで深く潜ることだ。
危険な職務で、脳に損傷を負う仲間を目にするとともに、高圧が脳の血流をよくすることも知っていた。
そうした経験から、高圧をうまく利用して外傷性脳損傷の治療に役立てられるのではと思い付いたのだそうだ。
体を張った実験でもある
なおプロジェクト・ネプチューン100の期間中、ディトゥリ氏は水中でただダラダラと時間を過ごすわけではない。
大学の講義はそこから配信されるし、自分の体を実験台にして同僚が開発した健康診断用の人工知能のテストも行われる。
また、海の保全や若返りの方法といったテーマをいろいろな科学者と議論し、その様子を水中からYouTubeで配信する予定もあるという。
さらに子どもや大人を招いて、海の中を探索したり、今回の研究を学んでもらったりする企画もある。わざわざこうしたことをするのも、次世代の研究者を育てるためなのだそうだ。
「私たちが生きるために必要なものは、この地球上にすべてあります。いろいろな病気を治す方法だって、海で暮らす未知の生物に隠されているかもしれません。それを知るために、もっと研究者が必要なんです」
ちなみに現在時点での水中生活の世界記録は2014年にテネシー州の教授2名が樹立した73日であるそうだ。
100日間水中生活、見事達成しギネス記録更新
ディトゥリ氏は2023年6月9日、無事地上に戻ったことが報告された。
ディトゥリ氏によると、水中にいる100日間の間に、185.4cmあった身長が約1.3cm縮んだそうだ。
このチャレンジが外傷性脳損傷など、さまざまなけがや病気の治療に役立つことを願っているという。
References:USF researcher attempts to set world record by living underwater for 100 days – hopes to emerge ‘super-human’[https://www.usf.edu/news/2023/usf-researcher-attempts-to-set-world-record-by-living-underwater-for-100-days-hopes-to-emerge-super-human.aspx] / written by hiroching / edited by / parumo