三葉虫の目は方解石というクリスタルでできていた。いまだ謎めいた存在の古生物
 古生物の化石のシンボルとなっている三葉虫は、横で3部に分かれた硬い外骨格を背面にもつ古生代を代表する海生動物だ。

 これまで5回あった地球の大量絶滅のうちの、初めの2回(オルドビス紀とデボン紀)を生き延びたほどタフな節足動物であり、数々の不思議な特徴がある。


 その1つが目だ。その目は現代の昆虫のような複眼でありながら、素材は「方解石」というクリスタルだったようなのだ。

 それどころか、複眼の下に複眼があったり第三の目まで発見されていたりと、未だ様々な発見がなされている。

古生代の海で繁栄した三葉虫の特徴的な目 三葉虫はカンブリア紀に誕生し、ペルム紀に絶滅した節足動物だ。その間、2回の大量絶滅を生き延びている。

 古生代(約5億4000万~2億5000万年前)と呼ばれる時代の海では代表的な生物で、その化石もたくさん発見されている。

 大昔の生物ではあるが、その目は「方解石」という結晶でできていたために、今もなお化石として残っている。彼らの目が古生物学者を魅了するのは、そのおかげでもある。

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三葉虫の仲間「Walliserops trifurcatus」の目。3億5000万年前、現在のモロッコにあたる地域で生きていた / image credit:Chip Clark/Smithsonian

 方解石とは主に石灰岩でできた鉱物で、不純物が混ざっていないものは透明か白(じつは大理石も方解石の1種)だ。

 だから理論上は目のレンズとして使うことができる。そんなクリスタルの目を持つ三葉虫は、おそらくそれほど詳細な映像は見えなかっただろうが、動きには敏感だったと考えられている。



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くるりと丸まった三葉虫の化石 / image credit:Bryan Jones/Flickr/CC BY-NC-ND 2.0三葉虫の3種類の目 これまでの研究で、三葉虫には3種類の目があったことがわかっている(ちなみに3つ目があったこともわかっている)。

 一番古く、かつ一番一般的なのが「ホロクローアル眼(holochroal eye)」と呼ばれるものだ。これは小さなレンズがびっしりと並んだ複眼が、1枚の角膜でおおわれている。

 「アベーソクローアル眼(abathochroal eye)」は、エオディスクスの仲間にだけ見られるもので、小さなレンズそれぞれが薄い角膜でおおわれている。

 3つ目が、ファコピナ亜目だけにある「スキソクローアル眼(schizochroal eye)」。角膜におおわれた大きなレンズが間隔を開けて並んでいる。

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「スキソクローアル眼」のアップ / image credit:Clarkson et al., Arthropod Struct. Dev., 2006

 この中で現代の昆虫や甲殻類のものに一番よく似ていたのがホロクローアル眼だ。

 おそらくは機能も同じようなもので、個々のレンズが働き、それらを組み合わせたモザイクのような映像を作り出していたと考えられる。

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Erbenochile erbeniの目/ / image credit:Moussa Direct Ltd./Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0二重に見える「複屈折」がある方解石 じつは方解石には、目の素材としては不向きではないかと思わせる特徴がある。それはこの石には自然界でもっとも強い「複屈折」があることだ。屈折率が2つあるのだ。

 水に入った光が、屈折するのは知っているだろう。
そのせいで水の中の指が曲がって見えたりする。

 方解石の場合、そこに入った光は2種類の屈折率のせいで2つに分かれ、それぞれ違うスピードで進む。だから二重の像ができる。

 ホロクローアル眼のような小さなレンズの場合、これはあまり問題にならない。光のズレは小さく、ほとんど感知されないからだ。

 だがスキソクローアル眼のような大きなレンズでは、困ったことになるかもしれない。

 そもそも方解石にしなやかさはない。だから目の焦点を合わせて、光のズレの影響を和らげることもできない。

 だが自然とはよくできたもので、三葉虫はそれを補うまた別の仕組みを備えている。

 スキソクローアル眼は、いわゆる「ダブレット(2枚構造)レンズ」なのだ。つまり、屈折率が異なるレンズを2枚合わせて、複屈折を補正できたらしい。

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デボン紀の三葉虫 / image credit:Dr Brigitte Schoenemannまだまだ謎に包まれた三葉虫の目 とはいえ、スキソクローアル眼が具体的にどのように機能していたのかよくわかっていない。


 じつは最近の研究で、スキソクローアル眼が想像以上に複雑であることがわかっている。それを構成している個々のレンズの下には、小さな複眼が隠されていたのだ。

 三葉虫の視覚については完全に誤解されている可能性すらある。クリスタルの目は、もともとあったものではなく、長い年月のうちに形成されたものではないかという仮説もあるのだ。

 本当のところはどうなのか? 三葉虫の目はまだまだ古生物学者たちを惹きつけて離さないようだ。

追記(2023/07/16)ホロクローラル眼の表記をホロクローアル眼に変更して再送します。
(2023/07/17)本文を一部訂正して再送します。

References:Ancient Trilobites Had Crystal Eyes, And They're Still a Mystery / written by hiroching / edited by / parumo

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