
イルカやクジラ、シャチといった海洋哺乳類たちは、もともとは陸上で暮らしていた。だが、彼らの祖先はいつしか水の環境に適応し、今では完全に水の中で暮らすように進化している。
ならばいつの日か、再び地上で暮らすように進化することもあるのだろうか?
フリブール大学(スイス)とヨーテボリ大学(スウェーデン)の研究チームによると、どうやらその可能性は「事実上ゼロ」であるそうだ。
彼らは、数千もの海洋哺乳類を比較しながら「進化の不可逆性」について調べている。
その結果、陸から水への適応には後戻りできない一線があり、イルカやクジラはそれを越えてしまっていることが判明したという。
かつて水中から陸上に移動した脊椎動物 最初の魚たちが水中から陸にはい上がったのは、3億5000万年前から4億年前のことだ。その脊椎動物は、やがて手足を発達させ、長い進化の末に現在のような四肢動物になった。
四肢動物とは、つまり4本の手足とはっきりとした指がある脊椎動物のこと。つまりは私たち哺乳類がそうだし、両生類や爬虫類なんかもそうだ。
ちなみにその後の進化で手足を失った動物もいる。だからヘビも四肢動物に分類されるし、パッと見は手足がないクジラやイルカなどもそうだ。
水からはい上がった哺乳類のほとんどは陸上にとどまった。
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魚と四肢動物の特徴を併せもつ「ティクターリク」。3億7500万年前のデボン紀後期に生息した彼らは、水生生物と陸生生物をむすぶミッシングリンクかもしれない / image credit:public domain/wikimedia現在水中で暮らす哺乳類が再び陸に上がる可能性はあるのか? ところが、なぜだか2億5000万年前頃になると、せっかく上がった陸からまたも水中に戻り、その環境に適応する仲間が現れた。
生物の歴史を振り返ると、水から陸への進化はたった1度きりなのに対して、陸から水への進化は何度か起きているようようだ。
すると、ふと疑問が浮かんでくる。陸から水への適応が繰り返し起きているのなら、そうした水中に戻った動物たちがまた陸に上がってくることはあるのだろうか?
『Proceedings of the Royal Society B』(2023年7月12日付)に掲載された今回の研究は、この疑問について探っている。
そして、その結論は「ノー」だ。数千種の哺乳類を調査したところ、陸から水への移動は「不可逆的」であるらしいことがわかったのだ。
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photo by iStock
進化は不可逆的である 「進化は不可逆的である」最初にこの仮説を唱えたのは、19世紀ベルギーの古生物学者ルイ・ドロだ。
「不可逆」とは、あるプロセスや変化を元の状態に戻すことができないという意味だ。つまり、一度行われたら、後戻りはできないということだ。
彼によれば、進化によって一度失われた構造や器官は、その後の進化で再び獲得されることはないのだという。これを「ドロの不可逆則」という。
フリブール大学のブルーナ・ファリーナ氏らは、この仮説を確かめるために、まず5600種以上の哺乳類を4つのカテゴリーに分けてみた。
すなわち、「完全に陸上で暮らす種」、「水中で暮らすが、陸上でも活動できる種」「水中で暮らしており、陸上での活動は限定的である種」、そしてクジラのように「完全に水中で暮らす種」だ。
そのうえで、こうしたカテゴリーごとに見られる体の特徴や、それぞれの種の進化上の関係を調べてみた。そうすることで、特定の特徴が進化する確率を推定するのだ。
その結果、半水生の種と完全水生の種との間には、越えると二度と戻れなくなる一線があることがわかったという。ここを越えて水の暮らしに適応してしまうと、もう二度と陸上の暮らしに戻れなくなるのだ。
そうした水中への適応の例としては、冷たい環境で体温を保ちやすいような「体重の増加」、代謝をアップさせる「肉食生活」といったものがある。
ファリーナ氏によると、こうした適応があまりにも水の環境寄りになってしまうと、陸上での生存競争を勝ち抜くのが難しくなると考えられるそうだ。
まあでも、ワニやカワウソのように、半水生となって陸と海を行き来することは可能なようなので、遠い未来、シャチが浜辺を這いまわるといった光景がみられる可能性はなきにしもあらずだ。ちょっとそれ怖いけど。
References:Dollo meets Bergmann: morphological evolution in secondary aquatic mammals | Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences / Dolphins and orcas have passed the evolutionary point of no return to live on land again | Live Science / written by hiroching / edited by / parumo
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ならばいつの日か、再び地上で暮らすように進化することもあるのだろうか?
フリブール大学(スイス)とヨーテボリ大学(スウェーデン)の研究チームによると、どうやらその可能性は「事実上ゼロ」であるそうだ。
彼らは、数千もの海洋哺乳類を比較しながら「進化の不可逆性」について調べている。
その結果、陸から水への適応には後戻りできない一線があり、イルカやクジラはそれを越えてしまっていることが判明したという。
かつて水中から陸上に移動した脊椎動物 最初の魚たちが水中から陸にはい上がったのは、3億5000万年前から4億年前のことだ。その脊椎動物は、やがて手足を発達させ、長い進化の末に現在のような四肢動物になった。
四肢動物とは、つまり4本の手足とはっきりとした指がある脊椎動物のこと。つまりは私たち哺乳類がそうだし、両生類や爬虫類なんかもそうだ。
ちなみにその後の進化で手足を失った動物もいる。だからヘビも四肢動物に分類されるし、パッと見は手足がないクジラやイルカなどもそうだ。
水からはい上がった哺乳類のほとんどは陸上にとどまった。
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魚と四肢動物の特徴を併せもつ「ティクターリク」。3億7500万年前のデボン紀後期に生息した彼らは、水生生物と陸生生物をむすぶミッシングリンクかもしれない / image credit:public domain/wikimedia現在水中で暮らす哺乳類が再び陸に上がる可能性はあるのか? ところが、なぜだか2億5000万年前頃になると、せっかく上がった陸からまたも水中に戻り、その環境に適応する仲間が現れた。
それがクジラやイルカの先祖たちだ。
生物の歴史を振り返ると、水から陸への進化はたった1度きりなのに対して、陸から水への進化は何度か起きているようようだ。
すると、ふと疑問が浮かんでくる。陸から水への適応が繰り返し起きているのなら、そうした水中に戻った動物たちがまた陸に上がってくることはあるのだろうか?
『Proceedings of the Royal Society B』(2023年7月12日付)に掲載された今回の研究は、この疑問について探っている。
そして、その結論は「ノー」だ。数千種の哺乳類を調査したところ、陸から水への移動は「不可逆的」であるらしいことがわかったのだ。
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photo by iStock
進化は不可逆的である 「進化は不可逆的である」最初にこの仮説を唱えたのは、19世紀ベルギーの古生物学者ルイ・ドロだ。
「不可逆」とは、あるプロセスや変化を元の状態に戻すことができないという意味だ。つまり、一度行われたら、後戻りはできないということだ。
彼によれば、進化によって一度失われた構造や器官は、その後の進化で再び獲得されることはないのだという。これを「ドロの不可逆則」という。
フリブール大学のブルーナ・ファリーナ氏らは、この仮説を確かめるために、まず5600種以上の哺乳類を4つのカテゴリーに分けてみた。
すなわち、「完全に陸上で暮らす種」、「水中で暮らすが、陸上でも活動できる種」「水中で暮らしており、陸上での活動は限定的である種」、そしてクジラのように「完全に水中で暮らす種」だ。
そのうえで、こうしたカテゴリーごとに見られる体の特徴や、それぞれの種の進化上の関係を調べてみた。そうすることで、特定の特徴が進化する確率を推定するのだ。
その結果、半水生の種と完全水生の種との間には、越えると二度と戻れなくなる一線があることがわかったという。ここを越えて水の暮らしに適応してしまうと、もう二度と陸上の暮らしに戻れなくなるのだ。
そうした水中への適応の例としては、冷たい環境で体温を保ちやすいような「体重の増加」、代謝をアップさせる「肉食生活」といったものがある。
ファリーナ氏によると、こうした適応があまりにも水の環境寄りになってしまうと、陸上での生存競争を勝ち抜くのが難しくなると考えられるそうだ。
完全な陸生から半水生になることはできます。ですが、あまりにも水に適応しすぎると、戻れなくなる一線があるのですクジラやイルカ、シャチといった海の哺乳類は、すでにこの一線を越えている。だから、彼らが再び陸上に戻ってくる可能性は「事実上ゼロ」であるとのことだ。
まあでも、ワニやカワウソのように、半水生となって陸と海を行き来することは可能なようなので、遠い未来、シャチが浜辺を這いまわるといった光景がみられる可能性はなきにしもあらずだ。ちょっとそれ怖いけど。
References:Dollo meets Bergmann: morphological evolution in secondary aquatic mammals | Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences / Dolphins and orcas have passed the evolutionary point of no return to live on land again | Live Science / written by hiroching / edited by / parumo
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