
活火山の近くに住むのは、想像を絶する危険が伴うと考える人が多いのも無理はない。いつ噴火するかわからない活火山は、安全とは言えないからだ。
森林で覆われた丘の中腹をあっという間に生き物のいない荒廃地にしてしまい、溶岩が雪崩のように押し寄せ、大量の火山灰が生き物の肺をズタズタにする。火山は、人間の生活や財産を脅かす存在だ。
だが、現在世界中で5億人もの人たちが、活火山のすぐ足元で生活し、生計をたてている。
長年、多くの火山を研究してきた米リッチモンド大学の地質学准教授、デビッド・キッチン氏は、なぜ、人々はもっと危険の少ない場所に引っ越さないのだろうか?と疑問を抱くのは、愚直だと思うようになった。
彼らの動機はさまざまで、火山が経済的恩恵をもたらすこともあるようだ。
人が火山の近くで暮らす理由 人が火山の近くに暮らす理由はさまざまだ。ある者は、文化的な信仰や伝統のため、ある者は、火山が経済的チャンスを与えてくれるため。
また、貧困のために、危険な場所にあえて住まわざるを得ない、極めて弱い立場にある者もいる。
理由はどうあれ、多くの人々の暮らしや幸せは、火山と密接に結びついていて、どこかべつの場所に引っ越すなど、考えられないと思っているのだ。
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photo by iStock
火山を崇拝する文化 多くの文化と昔からそこに住む人々は、火山を崇めるべき神聖な場所とし、その豊かさ、生命力、生活の糧を寿ぐ儀式や伝統を行う場所と考えている。
数ある宗教的伝統の中で、日本の富士山は先祖の霊が集まる場所だ。何世紀にもわたって、巡礼者が目指す象徴的で神聖な場所でもある。
正確には火山を崇拝するというよりも山岳信仰だそうが、毎年夏には、大勢の人たちが、富士山の頂上を目指して、雲の上へと登っていく。
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富士山 photo by iStock
インドネシア、ジャワ島のテンゲリ族にとって、ブロモ山は神々が住まう極めて神聖な場所だ。
毎年、ヤドニャ・カサダ祭りのときに、人々は供物の農産物や家畜を背負って山に登る。巡礼者たちは、火口の縁に集まって感謝の意を唱え、祈り、供物を捧げて、祝福を願う。
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ブロモ山 photo by iStock
エクアドル、ケチュア族は、コロンブス以前とカトリック要素の合わさった宗教を信仰している。
トングラフア火山を、守護と導きを与えてくれる、親しみやすいが、気まぐれな女族長として見ている。
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トングラフア火山 photo by iStock
経済的機会- 活火山の周辺での農業と観光 火山周辺の土地は、大きな経済的チャンスを与えてくれることが多い。
火山土壌は、世界でももっとも肥沃な土壌のひとつだ。鉄、マグネシウム、カルシウム、カリウム、リンなど、植物の成長に欠かせない必須ミネラルや栄養素が含まれている。
有機物の含量が多く、pHバランスも良好で、多孔性が高く、保水力が強いため、農業に最適なのだ。
加えて、火山地形は、ブドウ、コーヒー、バナナなど高価な作物の栽培に理想的な、独特な小気候を生み出すことがよくある。
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スペイン、カナリア諸島ラ・パルマ島にあるクンブレ・ヴィエハ火山近くにあるバナナ農園 / image credit:iStock
また、驚くほど雄大な光景、独特な地質学的特徴、いつ噴火するかわからないスリルが、観光客を世界の活火山にひき寄せる。
ジャワ島のブロモ・テンゲル・スメル国立公園、ハワイのキラウエア火山、シチリア島のエトナ火山などを訪れる人々が、地域経済を活性化させ、地元住民の生計を潤わせる。
金、銀、アメジストなどの豊かな鉱物資源が得られることもある。
例えば、ペルー南部のエル・ミスティ周辺の火山地形は、銅やその他の金属が採掘され、工業的に高い価値がある。
インドネシアのジャワ島では、鉱山労働者がいまだに単純な手掘り道具を使って、カワ・イジェン火山の火口底から鮮やかな黄色の硫黄を採掘していて、掘り出した重たいブロックを、火口の険しい壁を登って手動で火口の縁まで運んでいるのだ。
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カワ・イジェン火山で硫黄を運び出す作業者 / image credit:iStock
こうした搾取は、経済成長を促し、雇用を創出することもあるが、多くの場合、富は外へ流れ、経済的に苦しい地元社会には還元されない。経済的理由からそこに住む選択しかなかった人々 火山近くに住んでいる人すべてが、自分の意思でそうしているわけではない。
世界でもっとも活動が盛んだと言われる、インドネシアのメラピ山や、フィリピンのマヨン山では、自給自足農家が急斜面で生活している。
彼らは、噴火現場のもっとも近くに住んでいるため、こうした集落はまるで無防備で、迅速な避難もできそうもない。
2010年のメラピ山の噴火では、灼熱のガス雲で250人が亡くなった。そんな悲劇にもかかわらず、生き残った人々は、生活のために作物を見捨てることなく、その場に留まった。
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インドネシア・メラピ火山からの溶岩流 / image credit:iStock火山噴火は正確に予測できるのか? 専門家による、噴火の時期や壊滅のおそれのある経路を予測する能力は向上しているため、良好なコミュニケーションや、しっかりした避難計画があれば、火山の危険が軽減できる場合もある。
このように、火山近くに住むことは、危険と利益が複雑に絡み合っており、すべての人がそれを避けるというわけにはいかないのだ。
References:Living near the fire – 500 million people worldwide have active volcanoes as neighbors / written by konohazuku / edited by / parumo
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森林で覆われた丘の中腹をあっという間に生き物のいない荒廃地にしてしまい、溶岩が雪崩のように押し寄せ、大量の火山灰が生き物の肺をズタズタにする。火山は、人間の生活や財産を脅かす存在だ。
だが、現在世界中で5億人もの人たちが、活火山のすぐ足元で生活し、生計をたてている。
長年、多くの火山を研究してきた米リッチモンド大学の地質学准教授、デビッド・キッチン氏は、なぜ、人々はもっと危険の少ない場所に引っ越さないのだろうか?と疑問を抱くのは、愚直だと思うようになった。
彼らの動機はさまざまで、火山が経済的恩恵をもたらすこともあるようだ。
人が火山の近くで暮らす理由 人が火山の近くに暮らす理由はさまざまだ。ある者は、文化的な信仰や伝統のため、ある者は、火山が経済的チャンスを与えてくれるため。
また、貧困のために、危険な場所にあえて住まわざるを得ない、極めて弱い立場にある者もいる。
理由はどうあれ、多くの人々の暮らしや幸せは、火山と密接に結びついていて、どこかべつの場所に引っ越すなど、考えられないと思っているのだ。
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火山を崇拝する文化 多くの文化と昔からそこに住む人々は、火山を崇めるべき神聖な場所とし、その豊かさ、生命力、生活の糧を寿ぐ儀式や伝統を行う場所と考えている。
数ある宗教的伝統の中で、日本の富士山は先祖の霊が集まる場所だ。何世紀にもわたって、巡礼者が目指す象徴的で神聖な場所でもある。
正確には火山を崇拝するというよりも山岳信仰だそうが、毎年夏には、大勢の人たちが、富士山の頂上を目指して、雲の上へと登っていく。
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富士山 photo by iStock
インドネシア、ジャワ島のテンゲリ族にとって、ブロモ山は神々が住まう極めて神聖な場所だ。
毎年、ヤドニャ・カサダ祭りのときに、人々は供物の農産物や家畜を背負って山に登る。巡礼者たちは、火口の縁に集まって感謝の意を唱え、祈り、供物を捧げて、祝福を願う。
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ブロモ山 photo by iStock
エクアドル、ケチュア族は、コロンブス以前とカトリック要素の合わさった宗教を信仰している。
トングラフア火山を、守護と導きを与えてくれる、親しみやすいが、気まぐれな女族長として見ている。
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トングラフア火山 photo by iStock
経済的機会- 活火山の周辺での農業と観光 火山周辺の土地は、大きな経済的チャンスを与えてくれることが多い。
火山土壌は、世界でももっとも肥沃な土壌のひとつだ。鉄、マグネシウム、カルシウム、カリウム、リンなど、植物の成長に欠かせない必須ミネラルや栄養素が含まれている。
有機物の含量が多く、pHバランスも良好で、多孔性が高く、保水力が強いため、農業に最適なのだ。
加えて、火山地形は、ブドウ、コーヒー、バナナなど高価な作物の栽培に理想的な、独特な小気候を生み出すことがよくある。
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スペイン、カナリア諸島ラ・パルマ島にあるクンブレ・ヴィエハ火山近くにあるバナナ農園 / image credit:iStock
また、驚くほど雄大な光景、独特な地質学的特徴、いつ噴火するかわからないスリルが、観光客を世界の活火山にひき寄せる。
ジャワ島のブロモ・テンゲル・スメル国立公園、ハワイのキラウエア火山、シチリア島のエトナ火山などを訪れる人々が、地域経済を活性化させ、地元住民の生計を潤わせる。
金、銀、アメジストなどの豊かな鉱物資源が得られることもある。
例えば、ペルー南部のエル・ミスティ周辺の火山地形は、銅やその他の金属が採掘され、工業的に高い価値がある。
インドネシアのジャワ島では、鉱山労働者がいまだに単純な手掘り道具を使って、カワ・イジェン火山の火口底から鮮やかな黄色の硫黄を採掘していて、掘り出した重たいブロックを、火口の険しい壁を登って手動で火口の縁まで運んでいるのだ。
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カワ・イジェン火山で硫黄を運び出す作業者 / image credit:iStock
こうした搾取は、経済成長を促し、雇用を創出することもあるが、多くの場合、富は外へ流れ、経済的に苦しい地元社会には還元されない。経済的理由からそこに住む選択しかなかった人々 火山近くに住んでいる人すべてが、自分の意思でそうしているわけではない。
世界でもっとも活動が盛んだと言われる、インドネシアのメラピ山や、フィリピンのマヨン山では、自給自足農家が急斜面で生活している。
彼らは、噴火現場のもっとも近くに住んでいるため、こうした集落はまるで無防備で、迅速な避難もできそうもない。
2010年のメラピ山の噴火では、灼熱のガス雲で250人が亡くなった。そんな悲劇にもかかわらず、生き残った人々は、生活のために作物を見捨てることなく、その場に留まった。
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インドネシア・メラピ火山からの溶岩流 / image credit:iStock火山噴火は正確に予測できるのか? 専門家による、噴火の時期や壊滅のおそれのある経路を予測する能力は向上しているため、良好なコミュニケーションや、しっかりした避難計画があれば、火山の危険が軽減できる場合もある。
このように、火山近くに住むことは、危険と利益が複雑に絡み合っており、すべての人がそれを避けるというわけにはいかないのだ。
References:Living near the fire – 500 million people worldwide have active volcanoes as neighbors / written by konohazuku / edited by / parumo
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