人間は宇宙服なしで宇宙空間でどのくらい生きていられるのか?
 人間が宇宙服を着ないで宇宙に飛び出せば、”すぐ”に死んでしまうことはわかる。そこに酸素がないのだから窒息してしまうのは明らかだ。


 だが、”すぐ”とはどのくらい”すぐ”なのだろう?

 近い将来、宇宙旅行は今よりも身近なものになるはずだ。誤って宇宙服なしで宇宙空間に飛び出してしまったら、助かる可能性はあるのか?

 欧州宇宙機関ESAの専門家ステファン・デ・メイ氏の解説によると、わずか10~15秒で意識を失うことになるという。その理由を見ていこう。

宇宙服は気圧で体を守っている 水中での息止めは一般的な人なら平均1分程度、肺活量が多い人なら2分以上とめられる。ならばもう少し長くいられるのでは?と思うかもしれない。

 そう思うのは、宇宙服が「酸素」だけでなく、「気圧」でも人体を守っていることを見落としているからだ。

 宇宙服に気圧がない場合、いつもなら私たちが生きるために不可欠なはずの酸素が大問題となる。

 酸素が膨張して肺を破裂させてしまうのだ。血液が運んでいる酸素は、血液をぶくぶくと沸騰させて、その泡が血管を詰まらせる。どちらも人体には致命的なダメージになる。

 なおこうした現象は、水中深くに潜ったダイバーが浮上して、水圧が下がったときにも起こりうる。だからダイバーはゆっくりと浮上するのだ。


 そうしたわけで、人間が宇宙服を着ないまま宇宙空間に出てしまったら、肺をできるだけ空っぽにしておかないといけないわけだが、その場合当然ながらあっという間に酸欠になる

 血液に含まれる酸素が完全に消費されて気を失うまで10秒程度しか猶予がないのだ。それから数分のうちに脳も死んでしまう。

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ジェミニ4号の船外で浮かぶエド・ホワイト/Image credit: NASA/Jim McDivitt宇宙服がないと唾液や涙などの体液が沸騰してしまう ちなみに人体に圧力がかからない状態は、そこまで即座にではないものの、致命的な問題を引き起こす。

 たとえば唾液や涙などの体液が沸騰し始める。ついでに体も膨張するだろうが、皮膚は十分に柔軟なので、こうした圧力の変化にうまく対応できる。

 あるSF映画で描かれていたように真空の宇宙で人体が爆発するようなことはないそうだ。

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温度・放射線・宇宙ゴミからも人体を守る 宇宙服は、酸素と気圧を保って人体を守っているだけではない。地上ではあり得ない極端な「温度」や「放射線」、あるいは「微小隕石」といったものから、物理的に人体を守っている。

 宇宙の温度を想像できるだろうか? なんだかとても寒いというイメージがあるが、それでは半分しか正解していない。

 地球低軌道の場合、日向にいるか日陰にいるかで、-150℃から120℃もの極端な温度にさらされる。生身の体が耐えられるものではない。

 人体は大火傷を負うか、凍りついてしまう(後者はすぐではない。
体の熱が真空になかなか伝わらないからだ)。

 また宇宙にはさまざまなタイプの放射線も飛び交っている。たとえば太陽からの電磁波に長い間さらされていると、放射線症やがんになるリスクが高まる。

 紫外線は皮膚を火傷させるほど強力だし、運悪く太陽フレアに直撃されるようなことがあれば、さらに酷い目にあう。

 さらに微小隕石やスペースデブリ(宇宙ゴミ)も人間を脅かす。

 微小隕石とは、普通は1グラムもないとても小さな岩石のかけらなのだが、そのスピードは秒速数kmから数十kmと、銃弾(ライフルでさえ秒速600~1000mだ)どころではない猛スピードで飛んでいるのだ。

 宇宙服なしの人間が宇宙で生きていられるのはほんの短時間だけなので、それが命中して致命傷を受ける可能性はほとんどない。

 だがいずれにせよ、宇宙服はそうした宇宙をぶっ飛んでいる石ころや宇宙ゴミから宇宙飛行士を守るため、いくつもの層で作られている。

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 まあそんなわけで、生身の人間にとって宇宙空間はあまりにも過酷すぎるところなのだ。

 なんかいけそうと思ったとしても、宇宙空間にダイブするのはおすすめできないし、誤って落ちてしまったら、今のところ諦めるしかなさそうだ。

追記(2024/02/06)
 最近宇宙服を着ないで宇宙に放り出された時の様子をシミュレーションしたアニメーションが公開されていたので、追記しておくね。

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References:How long could you survive in space without a spacesuit? | Space / written by hiroching / edited by / parumo

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