いじめた側が罰せられるべき。フランスで加害者を転校させることができる措置を実施
 学校でのいじめは世界中でおきている。多くの場合、いじめを受けた側が不登校となり、命まで奪われることもある。

 フランスでは、近年発生した「いじめによる生徒の死」を重く受けとめ、今年9月以降、被害者の保護を強化するため、教育法が改正された。

 いじめの加害者は、親または法的保護者の同意なくとも、現在の学校から転校させることが可能となったのだ。

新たな法令実施でいじめの加害者を転校させることが可能に 多くの国の学校でいじめが問題になっているが、学校に通えなくなり、転校を余儀なくされていたのは、いじめを受けた被害者である。

 だがフランスでは9月以降、ガブリエル・アタル教育大臣が発令した新たな法令により、いじめの加害者を、別の学校に転校させることが可能になった。

 フランス政府は、いじめを「言葉、身体的、精神的な暴力を繰り返すこと」と定義していて、学校ではいかなる形態であっても容認しないという考えだ。

 そこで当局は、「意図的かつ反復的な行動が、他の生徒の安全や健康に危険をもたらすことが証明された」場合、学校はその生徒を現在の学校から退学させることができるという新たな措置を導入することになった。

 この制度は、小学生から高校生までのあらゆる年齢層に適用される。ネットいじめの場合には、他の学校の生徒に対しても手続きを開始することも可能だ。

 この新法律の措置のおかげで、被害者の保護を強化し、罰せられるべき加害者を排除する道を開くものとなった。

 これまで問題解決に向けて重ねられてきた努力が、実行されることになったのだ。

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いじめ加害者に対し、段階を踏んだ転校要請 この措置は、加害者を転校させることを義務化するものではなく、必要に応じて実施できるというものだ。

 よって、学校側はいじめを認識した段階で、まず関係する保護者や生徒と協力して、いじめが解消されるように努めなければならない。

 それでも解決しない場合、政府職員が現場チームと協力して状況を把握し、さらなる解決策を講じることとなる。

 これらのステップを踏んでも解決しない場合、第3のステップとして、学校は子供の親または法的保護者の同意なしに、いじめ加害者を転校させることが可能となる。

 加害者の転校を完了する前に、その要請を町長が承認する必要がある。また、学校長は退学した加害者の生徒が、同じ自治体の他の学校に入学できるよう市長に要請することもできるそうだ。

 また、被害者の学校とは別の学校に通う生徒で、ネットを介していじめをしている者でも、同様に処罰される可能性がある。

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過去のいじめの事例を受けて「ゼロ容認」に この法令が下された背景には、5月にフランス北部パ・ド・カレーの学生リンジーさん(13歳)の自殺がある。この悲劇以降、フランスでは学校内のいじめは、国の解決すべき優先課題となった。

 学校いじめ反対運動を展開する団体は、長年にわたってより強力な対策を待ち望んでいた。

 いじめや児童虐待と闘うALCHM協会のディレクター、ウィルフリッド・イサンガ氏は、この新たな措置は、「国の教育制度と親たちに強いシグナルを送る」と語っている。

 以前彼らは、「被害者に転校を強制することは、子供も親も悪いことをしていないのに、まるで懲罰を受けているような感じを与え、かつ引っ越しに伴う二重の苦難を強いている」と主張していた。

 一部の田舎では、被害者が自宅からはるかに離れた学校に通わなければならず、耐えがたい状況が生じることもあるとウィルフリッド・イサンガ氏は話している。
状態の良いトマトが入った箱の中に腐ったトマトがあった場合、取り除かなければならないのは腐ったトマトのほうです。良いトマトは取り除くことはしません。

いじめの加害者の親たちには、いじめは暴力であり、犯罪であるという強いメッセージを送る必要があります。

学校は親の代わりにはなれません。問題に対処する責任は親にあります。 現大臣は厳しい態度を取ったと思います。
いじめは犯罪とみなす フランス政府は近年、いじめによる一連の行為を厳しく非難している。

 アタル大臣は、学校でのいじめへの処罰は「容赦なく」行われなければならないと述べていて、すでにこの措置については何度か言及していた。

 2022年3月以降、学校でのいじめは刑事犯罪とみなされ、その対処は教育青少年省が定めた一連の厳格なガイドラインに定められている。
・いじめによって被害者に8日間以下の不登校を引き起こした場合、3年以下の懲役および4万5000ユーロ(約712万円)の罰金が科される。

・8日間を超えて被害者が完全不登校となった場合は、5年以下の懲役および7万5000ユーロ(約1200万円)の罰金が科される。

・被害者が自殺または自殺未遂をした場合には、最高10年の懲役と最高15万ユーロ(約2400万円)の罰金が科される。
 フランス教育省の最近の調査によると、フランスの中等教育生徒の6.7%が、2022年の春に5回以上の繰り返し暴力事件にさらされたと報告した。

 いじめは、“沈黙”が解決の障害となることが往々にしてある。
多くの家族が沈黙の中で苦しんでいますが、私たちにはその声が聞こえません。

いじめられて、孤独に苦しんでいる子供たちがたくさんいるのです。

この法令は素晴らしい前進ですが、現場で実際に何が変わるのかを見守る必要があるでしょう。(ウィルフリッド・イサンガ氏)


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フランスではいじめに対する様々な処置を実施中 昨年、フランスでは「ハラスメントおよびサイバーハラスメント防止プログラム(pHARe)」が導入された。

 今年以降、初等・中等教育・高等教育に拡大させている同プログラムでは、学校長から報告されたいじめの状況への対処として、ネットワークの管理を実施していくという。

 被害者の生徒を保護する専門家やスタッフが、いじめの状況に効果的に介入し、同時に保護者や学校、教育支援団体、また教育環境委員会などを動員させて、対策実施の進捗状況をモニタリングするというものだ。

 さらに、当局は、いじめ問題について学生たちに「声を出す」ことが大切であることを思い出させるため、全国的ないじめホットライン3018と、被害者の話を聞いてサポートする番号3020という2つの緊急電話番号を指定するよう推進している。

 教師と管理者は、実際に状況が発生したときに的確に対処できるよう、スタッフトレーニングも強化されているようだ。

 ちなみに、フランスのウェブサイト『Atlasocio』によると、世界中で13歳から15歳までの約1億3000万人の生徒 (3人に1人以上) が、学校でのいじめの被害者となっているそうだ。

 被害者を守るための措置の第一歩として、フランスの新法律が世界各国でも導入されることを望む声は、少なくないかもしれない。

References:French school bullies now face a move, not the victims, thanks to new law / written by Scarlet / edited by parumo

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