世界一辛い唐辛子「ペッパーX」の試食会が壮絶、痛みと胃痙攣
 さて先日、激辛唐辛子の開発を行っているエド・カリー氏が生み出した「ペッパーX」が、スコヴィル値269万をたたき出し、「世界一辛い唐辛子」としてギネス世界記録を更新したという話をお伝えした。

 ちなみにこれまでのギネス記録は「キャロライナ・リーパー」でこれもカリー氏が生み出したものだ。
カリーだけに、とか言っている場合じゃない。

 唐辛子は世界中で大人気だが、限度というものがある。人はなぜ、兵器レベルの辛いものを食べたがるのだろうか?

 ペッパーXの威力は壮絶で胃痙攣が14時間止まらなかった人もいるほどだという。

世界一辛い唐辛子、ペッパーXの試食会 世界一辛い唐辛子を栽培したのは、米サウスカロナイナ州でパッカーバッド・ペッパー・カンパニーを創設・経営する"スモーキン"・エド・カリー氏だ。

 自分も激辛好きだが、彼は他の人にもこの激辛を味わってもらいたいと考えた。「ぼくは唐辛子が大好きだが、唐辛子で人をヒーヒー言わせるのも好きなんだ」

 この超激辛唐辛子「ペッパーX」の試食会の様子が、世界でもっとも辛い唐辛子としてギネスに正式認定されたことを記念して撮影された。


 この番組は、普段はホストのショーン・エヴァンズが、どんどん辛さが増していくスパイシーチキンを食べる有名人相手にインタビューし、だんだん冷静さを失っていく彼らが、しどろもどろになりながら回答していくという、人気YouTubeシリーズ「Hot Ones」のスペシャル版だ。

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Pepper X: Sean Evans, Chili Klaus & Smokin' Ed Currie Eat the New World's Hottest Pepper | Hot Onesあまりの辛さに身もだえる試食者、胃痙攣をおこす人も このペッパーXを味わった哀れな参加者たちは、たちまちパニック状態に陥った。

 あまりの辛さになにもできなくなり、胃痙攣を起こし、身悶えし、言葉も出なくなった。カリー氏だけは、表面的にはなんの影響も受けていないように見え、腕を組んで平然としていた。

 「あの番組のラストを見れば、ぼくが徐々に苦しみ始めているのがわかるでしょう」カリー氏は語る。

 「足をバタバタと落ち着きなく動かし、前屈みにすらなっています。
ほかの人がキテるのと同じように、ぼくにも相当キテたんですよ」

 人体は、唐辛子を危険物と認識し、闘争・逃走反応を起こすという。

「ぼくは長い間、アルコール依存症だったので、体は自動的に闘争反応を起こすのです。だから、なにが起こっているのか説明することができます。ほかのみんなに起こっている生理的なことが、ぼくにも起こっているんです」

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激辛唐辛子に関心を持つ人は3タイプ カリー氏は、1980年代から唐辛子を栽培していて、彼のホームページでは、自社で作っているたくさんのチリソースを提供している。

 そのネーミングも、ブードゥー・プリンス・デス・マンバ、カーブストンプ・エクストリーム、バッド・アップルなど、今にも火を噴きそうなものばかりだ。

 パッカーバッドの従業員はおよそ30人だが、唐辛子農場では100人が従事することもある。
2013年以降、世界一激辛唐辛子は、キャロライナ・リーパーだったが、これもカリー氏が作り出したものだ。

 パッカーバットで働いている多くは、なんらかの依存症から回復しつつある人たちだ。

 カリー氏曰く、激辛唐辛子に関心をもつ人には3つのタイプがあるという。

 1.スリルを求める人、2.新しいトレンドを見つけたいと願うヒップスター、3.中毒から回復しつつある人、だそうだ。

 「人間というものは、愚かなことをするものです。でも、そこから学ぶのです。
そのことに、とても興味があります」唐辛子の辛さのランクづけ 唐辛子の辛さのランクづけは、20世紀始めにマサチューセッツ州ボストンの薬理学者だった、ウィルバー・スコヴィルの働きなくしては、実現しなかった。

 スコヴィルは、リニメント剤や錠剤を常に調製できるよう、唐辛子のおもな辛み成分であるカプ
サイシン濃度を判断する信頼性の高い方法を模索していた。

 1912年の論文で、スコヴィルは乾燥させた唐辛子サンプルをアルコールに浸して、舌で辛みが感じられなくなるまで砂糖水で連続して希釈していく方法を提案した。

 5000分の1の希釈率に達するまで検出できたサンプルは、5000スコヴィルということになる。

 この尺度は、主観的なもので、人の味覚によって大きく左右されるが、許容範囲だった。この数値は、スコヴィル・ヒート・ユニッツ(SHUs)として知られている。


 最近は、唐辛子中のカプサイシンの量は、高性能液体クロマトグラフィーを使用して測定され、熱量100万分の1(ppmH)の単位で表されるが、比較のためSHUに換算される。

 バーズアイ(Bird’s eye chillies:鳥瞰唐辛子)のSHU値は、15000~20000で、カリー氏が栽培しているペッパーXは、平均263万SHUに達する。だが、食べたことのない人が、そんな辛さを想像するのは難しいだろう。

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ペッパーXを試食した人の感想は?「15分から20分間、死んでいるようなもので、いったいなにが起こったのかを説明するのはとても難しいです」デンマークの唐辛子愛好家で、ユーチューバーのクラウス・ピルガード氏は語る。

 ピルガード氏は、4回もHot Onesに出演していて、ペッパーXの世界一達成を祝う動画にも登場している。カリー氏以外で、この唐辛子を全部食べられた者は、ピルガード氏だけだ。


「激痛がどんどん強くなっていくんだ」ピルガード氏は言う。

「20秒くらいたつと、やっとフルーティな風味を味わうことができるようになる。そして、電車がこちらに向かって突っ込んでくるような感覚に襲われる。それは、ただの小さな電車などではないんだ」

 12時間たっても、ペッパーXの影響はまだ消えないというが、その後は最悪の事態は消えるらしい。「数時間後には、またもとの普通の生活に戻れると思うよ」

 彼は16万7000人も登録者のいる人気ユーチューバーとなり、デンマークのセレブたちとトウガラシを試食する動画を提供し続けている。

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拡大する唐辛子市場 唐辛子市場は、年間12億3000万ポンド(日本円でおよそ2275億円)で、2028年には16億5000万ポンドまで成長すると言われている。

 そして、ヨーロッパがもっとも成長著しい市場だ。

 英国での唐辛子の売り上げは、この10年で着実に増加しており、レストランが閉鎖に追い込まれたコロナパンデミックの始め頃に大きく飛躍した(テスコの激辛唐辛子、スコッチボネットの売り上げは、3ヶ月で170%も伸びた)。

 チリソースの種類も増加し、ウエットローズ(英国のスーパーマーケット)では、売り上げが前年比の55%も増えている。現在、ナンドは、ハインツ、ヘルマンズ、HPに次いで4番目に人気の高いチリソースブランドだ。

 しかし、スパイシーフード好きと、とてつもない激辛への欲求は同じものではない。

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激辛チャレンジがあらゆるメディアで人気に 超激辛唐辛子は、TikTokやYouTubeのチャレンジ動画で、命知らずの消費というトレンドを生み出し、タイトルには、"大失敗"とか、"始末に負えない"とか、"嘔吐注意"といった挿入句がつけられている。

 また、激辛唐辛子を食べて、我慢するのを競う忍耐スポーツまで生まれた。

 こうした競技会はたいてい、各ラウンドで出場者がトウガラシをまるごと食べ、全部食べられる人がひとりになるまで、スコヴィル度を上げていく。

 カプサイシンがこんな辛みをもつように進化したその目的は、哺乳類に食べられるのを防ぎ、辛みを感じる受容体をもたない鳥類に有利に働くためと考えられている。

 トウガラシの種子は、そのまま鳥類の消化管を通じて拡散され、その一方で、哺乳類の臼歯は、種子を噛み砕くことができる。

 研究によると、カプサイシンは代謝を高め、心臓病の特定危険因子を減らす可能性があるというが、それでも化学的な刺激物で、神経毒の一種ともいえる。

 唐辛子を食べた者は、必ず激痛に苛まれて苦しみ、競技などで食べ過ぎると、14時間以上胃痙攣を起こすこともあるという。

 おそらく、こうした状態こそが、競技者たちにとって真の"チャレンジ"なのかもしれない。優勝したのはいいが、彼らは祝福を受ける中、顔で笑って心で泣きながら、苦しみを我慢しつつトイレを探さなくてはならないのだから。

「悲惨な顔で、涙をポロポロ流しながら、体を震わせているのに、人々からはスターのように見られるているの。なんとも、ありがたいことなんだけどね」

 こうした大会が拡大するにつれ、競技用唐辛子の世界は、チャンピオンが海外でタイトルを防衛するのに十分なスポンサーを確保するなど、新たな課題に直面している。

 また、辛いものがまったく大丈夫な遺伝的に有利な人が、上位を独占する可能性もある。競技の土俵では男女の差はないかもしれないが、一部の人にとってはより公平かもしれない。

 大会の主催者は、カプサイシン受容体を持たない人を発掘しているという。

 こうした人たちは、そこに座ってまるでイチゴを食べるみたいに、なんの苦しみも感じずに激辛唐辛子を食べることができるのだという。

References:The shocking, stupendous rise of superhot chillies: ‘The stomach cramps can last for 14 hours’ | Food | The Guardian / written by konohazuku / edited by / parumo

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