コシオリエビに導かれ海底で新たな熱水噴出孔を発見
 ガラパゴス諸島の海底に伸びる、まるで巡礼路のような「コシオリエビの道」をたどった探検チームたちは、新たな「熱水噴出孔」にたどり着いたそうだ。

 シュミット海洋研究所をはじめとする研究チームは、熱水噴出孔を探し出すためにさまざまな高性能機材を使用したが、最後に彼らを宝のありかへと誘ったのは、幽霊のように白い「シンカイコシオリエビ」たちだった。


 そこに生息するユニークな生物たちは、熱水噴出孔周辺の生態系が時間とともにだんだんと変化している可能性を示唆しているそうだ。

海底から伸びる煙突、熱水噴出孔 熱水噴出孔は、プレートの縁やマグマが地表に上がってきているホットスポットの海底に、海水が染み込むことで作られる。

 染み込んだ海水はマグマによって加熱され、周囲にある岩石から鉱物が溶け出す。

 海水は熱されたことで今度は上昇し、海底の岩盤の亀裂から吹き出す。これによってチムニーやベントという煙突のような構造が形成される。

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ガラパゴス諸島近くの海底で発見された未知の熱水噴出孔の煙突 / image credit:Schmidt Ocean Institute

 世界ではおよそ550の熱水噴出孔が見つかっているが、その姿がきちんと確認されたのは、およそ半分に過ぎない。
残りは、海水の化学的特徴や温度からその存在が推測されている。

 今回、新たな熱水噴出孔が発見されたのは、ガラパゴス諸島から北に約400キロの地点にある「ガラパゴス拡散センター(Galapagos Spreading Center)」すなわちココスプレートとナスカプレートとが遠ざかる境界(発散境界)においてだ。

 この一帯は1977年に、世界で初めて熱水噴出孔が確認された地域だ。

 当時の発見はガラパゴス拡散センター東部でなされたが、今回シュミット海洋研究所をはじめとする研究チームは西部で調査を行った。

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ぼんやりと白く浮かぶ「シンカイコシオリエビ」たち。この「コシオリエビの道」の先に熱水噴出孔があった / image credit:Schmidt Ocean Instituteシンカイコシオリエビの道に導かれてたどり着く そこにある熱水噴出孔の大まかな位置を特定するため、研究チームはまず、2008年に化学的な異常な見つかった場所の捜索から開始した。


 探検隊の共同リーダーである化学海洋学者ジル・マクダーモット氏(米国リーハイ大学)は、「捜索対象となる異常の1つは、酸素が乏しい海水です。酸素は海底の循環によって完全に除去されます。だから海底の海水には酸素がありせん」と語る。

 研究チームは、この酸素が乏しく、化学的には濃密な海水を追えるところまで追い、そこから潜水ドローンで幽霊のように白い「シンカイコシオリエビ」が集まって作り出された「道」をたどった。

 ちなみにシンカイコシオリエビはエビと名がついているもののエビではない。長いハサミを持っているがカニの仲間でもなく、ヤドカリのグループに入る。


 するとその先にあったのだ!9178m2に及ぶ熱水噴出孔フィールドが。

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ガラパゴスハオリムシの大群は、研究者たちが疑いなく新しい熱水噴出孔フィールドにいることを証明した。チューブワームの一種、ガラパゴスハオリムシは、熱水噴出孔周辺の化学合成生態系における重要な種のひとつである / image credit:Schmidt Ocean Institute生態系が変化している可能性 熱水噴出孔フィールドの周辺には、その独特の環境に適応した生物が織りなす、そこならではユニークな生態系に出会うことができた。

 研究チームの1人、ロードアイランド大学の生物海洋学者ロクサーヌ・ベイナート氏は次のように語っている。

 「長さ数メートルにもなるガラパゴスチューブワーム(ガラパゴスハオリムシ)がいました。ディナープレート・クラムと呼ばれる非常に大きな貝や、ムール貝もいました」

 研究チームがとりわけ興味を惹かれたのは、チューブワームが”いた”ことだ。
というのも、今回調査された場所の中には、そうした生物がいないところもあったからだ。

 それの何が興味深いのかと言うと、熱水噴出孔フィールドの生態系がだんだんと遷移(ある地域の生態系が時間とともに変化していくこと)しているというサインかもしれないからだ。

 「ここで目撃されたのは、遷移の一連の段階なのかもしれません。ある熱水噴出孔フィールドがさらに遷移し、チューブワームがいなくなったのです」

 研究チームは、今後数年をかけて集められたデータを分析し、海底に広がるそのユニークな環境について理解を深めようとしている。

References:Squat Lobsters Guide Scientists To New Hydrothermal Vent Field - Schmidt Ocean Institute / written by hiroching / edited by / parumo

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