生命は目に見えない小さな塵に乗って宇宙に広まっているとする新理論が発表される
 新しい研究によると、どこかの惑星で誕生した原始的な生命は広大な宇宙へと旅に出て、銀河にあまねく拡散する可能性があるそうだ。

 地球の生命の始まりは、この宇宙にただよう生命の素であるという仮説を「パンスペルミア説」という。


 『arXiv』(2024年2月8日投稿)では、どこかの惑星で誕生した生命が宇宙に広まる可能性を検討し、その速度を計算した未査読論文が閲覧できる。

 それによると、生命は塵のような粒子に乗って高速で宇宙に拡散し、すでにこの天の川銀河全体を満たしていると考えられるという。

生命の起源は宇宙を漂う塵にあるとする説 これまでの研究からは、地球には生命がかなり早くから存在していたらしいことがわかっている。

 地球の今の年齢はおよそ45億歳だ。そして単純な生命なら、少なくとも35億年前には存在していたようだ。それどころか、それよりもっと以前、地球の誕生から5億年後にはもういた可能性すらある。


 だが、それは生命が地上で誕生したということを必ずしも意味しない。一部の研究者たちは、そんな短期間で生命が”自然”に誕生するなどあり得ないだろうと考えている。

 生命が地球生まれでないのだとすれば、それはどこからやってきたのか?

 その答えはもしかしたら、宇宙かもしれない。宇宙には生命かその”素”がただよっており、それが地球に降り注ぎ、私たちの祖先となる最初の生命が誕生した。このような仮説を「パンスペルミア説」という。

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地球の生命の始まりは、宇宙にあまねく存在する生命の素であるという仮説を「パンスペルミア説」という / image credit:NASA/Jenny Mottor生命は微小な塵に乗って宇宙へと旅立つ だがここではもう少し具体的に、その生命(あるいは生命の素)は、地球以外の惑星で誕生したと考えよう。


 それがどうにかして故郷である惑星を脱出し、長い長い旅を経て地球にたどり着いた。

 グルジア、トビリシ自由大学の物理学者ザザ・Z・オスマノフ氏は、このような生命の旅がどのようなものか考察している。

 そもそもどこかの惑星で誕生した生命が、故郷を脱出して、宇宙へ旅立つことなどあり得るのだろうか?

 もちろん高度に発達した超文明ならたやすいかもしれない。だがここで想定しているのはもっと原始的な生命のことだ。

 これについてオスマノフ氏は、2017年の研究を参照している。

 この研究では、地球の大気上空をただよう塵が、超高速で動く宇宙の塵と相互作用し、強力な流れを作り出すダイナミズムについて解説している。


 この作用によって、地球の塵粒子の一部は、その重力から逃れられるくらいに加速することができる。

 ならば、どこかの惑星で誕生した生命は、塵粒子に乗って、故郷を脱出できるかもしれない。

 こうして塵粒子に乗って母なる惑星から脱出した生命は、今度は恒星が放つ電磁放射の圧力にさらされる。これによって、生命はその星系からも脱出し、広大な宇宙へと旅に出る。

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始生代の地球はこのように紫色をしていたと考えられている。これほどの初期から生命は存在した / image credit:Oleg Kuznetsov天の川銀河は生命の素で満ちている!? その後の長い長い旅路に生命がどうやって耐えるのかについては、ひとまず置いておこう(生命そのものには無理でも、複雑な分子のような生命の素なら可能かもしれない)。


 その上でオスマノフ氏は、生命を乗せた塵粒子がどれほどの速さで宇宙に広まるのか計算してみた。

 それによると、「50億年の間に、塵粒子は数百光年の距離を移動」するという。さらに「恒星の分布密度を考慮すると、惑星各々から放出される塵粒子は105の恒星系に到達する」と推定される。

 それがどれだけの速さかは、もう少し身近な宇宙で考えてみれば実感しやすい。

 たとえば、もしも最初の惑星が地球だったとすれば、そこから塵粒子が火星に到達するのに20日しかかからない。

 海王星なら14ヶ月だ。
さらにケンタウルス座アルファ星なら9000年という速さだ(スペースXの大型ロケットならば10万年以上かかる)。

 これを踏まえると、もしこの宇宙に”十分な”生命を宿す惑星があるならば、直径10万光年の天の川銀河は生命の素であふれていることになる。

 ただし、その十分な数の惑星が問題だ。「ドレイクの方程式」に基づくと、この結論を導くためには、天の川銀河の中で生命が誕生した惑星の数が「3×10^7」、つまり3000万個も必要になる。

 それはごく自然な仮定かもしれないが、残念なことにその証拠はちっとも見つかっていない。

 確かに、これだけ広大な宇宙なのだから、地球以外の場所にも生命がいるように思える。


 だが、現実に生命が確認されているのはこの地球だけだ。そうである以上、オスマノフ氏の考察はただの机上の空論に過ぎない。

 それでも、この話にまったく意味がないわけではない。いつの日か、火星、木星の衛星エウロパ、あるいは土星の衛星エンケラドスなどで生命の痕跡が見つかることだってあるかもしれない。その時、この考察は大きく輝き出すことだろう。

追記:(2024/02/24)本文を一部訂正して再送します。
References:The possibility of panspermia in the deep cosmos by means of the planetary dustgrains / Cosmic Dust Could Spread Life from World to World Across the Galaxy - Universe Today / Life Could Spread Across The Galaxy On Cosmic Dust, Wild New Paper Suggests | IFLScience / written by hiroching / edited by / parumo

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