農薬が不要に?害虫駆除の可能性を秘めた新種の線虫を発見
 線虫の標本から新種が発見された。それは昆虫キラーとして有名な昆虫病原性線虫の仲間で、害虫から農作物を守る人間の味方になるだろうと期待されている。


 この線虫の仲間は、植物につく害虫に寄生して殺してしまう一方、人間のような動物には無害なので、農薬の代わりとして以前から使われてきた。

 だが今回の新種は特に、他の仲間が苦手とする高温多湿の環境にうまく適応しているのだ。つまり、熱帯のスペシャリストとして、害虫から作物を守ってくれる可能性があるということだ。

標本から偶然発見された高い殺虫活性を持つ新種の線虫 今回、「Steinernema adamsi」と命名された新種は、「昆虫病原性線虫(Steinernema)」という線虫の仲間だ。

 カリフォルニア大学リバーサイド校の線虫学者アドラー・ディルマン教授によると、昆虫病原性線虫は100種類以上もいるという。だが、特定の気候や昆虫など、それぞれに得意分野がある。


 ディルマン教授らは、そうした昆虫病原性線虫をもっとよく知るために、タイから標本を取り寄せていた。ところが、DNA検査によってその標本が注文したものとは違う種類であることがわかったのだ。

 商品の間違いなど普通ならクレームものだが、今回ばかりはそうではなかった。何しろそのDNAは、これまでに知られている昆虫病原性線虫のどれとも違っていたのだ。

 こうして発見された新種「Steinernema adamsi」は、『Journal of Parasitology』(2024年2月9日付)に報告された。その名は、ディルマン教授の恩師で、線虫を研究するきっかけをくれたバイロン・アダムスにちなんだものだ。


 ほとんど肉眼では見えず、長さは1mmもない。人間の髪の毛の太さの半分ほどだ。「フラスコの中に数千匹と入れると、まるで塵のようです」と、ディルマン教授は話す。

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新たに発見された線虫「Steinernema adamsi」 / image credit: Adler Dillman / UCR昆虫に侵入し細菌を排泄して殺す 好奇心をもって見れば、昆虫病原性線虫はとても魅力的な生き物だ。とりわけ、そのライフスタイルは興味深い。

 この線虫は幼虫のとき、口を閉じて土の中で生活し、発育が止まった状態にある。
そして、その状態で感染する昆虫を探して地中をさまよう。

 適当な相手を見つけると、口や肛門から侵入し、今度は病原性の高い細菌を排泄する。これが昆虫を速やかに殺すのだ。
感染すると、48時間以内に昆虫は死にます。昆虫はドロドロに溶け、かつては昆虫の体だった袋が残ります。

宿主に10~15匹の線虫が感染したとすれば、10日後には8万匹の新しい線虫が、土の中で新しい犠牲者を探していることでしょう(ディルマン教授)
新種の殺虫能力は驚くほど高かった ちなみに新種の殺傷能力を試したところ、ごく少数が寄生しただけで、2日間で蛾を殺せることが確認されている。


 熱・紫外線・乾燥など、新種がどのような環境で生きていけるのか、まだまだ不明なことは多い。感染できる昆虫の種類もわかっていない。

 だが新種は、何百種類もの昆虫を抹殺してしまう昆虫病原性線虫の一員なのだ。

 動物には無害なので、有毒な農薬を使うより地球環境にもやさしい。有効活用できれば人間の心強い味方となってくれそうだ。

References:Surprise discovery of tiny insect-killing wor | EurekAlert! / “Fascinating” New Animal Discovery Could Protect Crops Without Pesticides / written by hiroching / edited by / parumo

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