火星で発見された謎めいた穴。将来宇宙飛行士のシェルターや住処となるかもしれない
 宇宙界隈はこのところ、火星の火山脇に開いている謎めいた穴に興奮しているようだ。

 アルシア山山腹に開いているこのほんの数メートルほどの穴は、火星軌道を周回中のNASAの探査機「マーズ・リコネッサンス・オービター」が、2022年8月15日に撮影したものだ。


 研究者たちが興味を示している理由は、この穴が過酷な火星の放射線を遮ってくれるおかげで、宇宙飛行士たちの将来の住処になるかもしれないからだ。それどころか、この天然のシェルターが過去あるいは現在において火星の生命を守っていた可能性まである。

 さらにこの穴は、火星の火山活動を理解する重要なヒントにもなるかもしれない。知らない人にはただの穴だが、専門家にとっては可能性がギュッと詰まった夢のある穴なのだ。

火星の火山平原にあるいくつかの穴 実は穴はひとつではなく、火星の赤道の巨大な火山平原「タルシス」にある3座の火山の側面に、こうしたものがいくつも開いているという。

 写真の穴は、「アルシア山」(5000 万年前頃まで活動)の溶岩流の上にあり、その空間はまっすぐ下まで続いているように見える。

 問題は、それが単なる狭い穴なのか、それとも洞窟のようなもっと大きな空間につながっているのか、ということだ。

 その答えが重要な理由はいくつかある。穴はシェルターとして使用できる可能性 1つには、将来的に人類が火星へ降り立ったとき、そこが宇宙飛行士のシェルターになってくれるかもしれないからだ。

 火星は大気が薄く、全体を包むような磁場もないため、地球のように宇宙からの放射線から守られていない。

 そのため、火星の地表は地球の40~50倍もの放射線を受ける。だが、今回発見されたような穴ならそれを防いでくれるかもしれない。


 さらにこうした穴は人類だけでなく、火星の生命にとっても過去(あるいは現在もなお)シェルターとして機能していた可能性があるかもしれない。

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地形性の雲が火山の山頂付近に見られるタルシス地域のカラー画像 / image credit:public domain/wikimedia火星の火山活動を理解する手がかりが得られる さらに、火星の火山活動を理解する貴重な手がかりでもある。

 溶岩は火山の地下から流れ出て、火山が活動しなくなるとその流れ道が空っぽになる。そして残されるのが長い地下トンネルだ。こうしたものは、地球や月にもある。

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タルシス地域にある古い火山「アルバ・パテラ」の南西斜面にある地下空洞が陥没してできた複数の穴 / image credit:ESA/DLR/FU Berlin (G. Neukum)

 そうしたトンネルの天井が薄ければ、やがて崩れて長い溝のような地形(リル)が形成される。

 ところが、崩れたのが狭い範囲だけだと、もっと小さな穴になる。

 それがアルシア山で撮影されたものだ。火星の火山では、地下トンネルに沿って真っ直ぐにできたらしい複数の穴が見つかっている。

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火星にある別の穴。こちらもマーズ・リコネッサンス・オービターが撮影したもの / image credit: NASA/JPL–Caltech/UArizona穴の内部はどうなっているのか? こうした穴の深さは不明だ。それが大きな洞窟に通じているのか、それともただの窪みなのかどうかもわからない。


 太陽が高く昇っているときに撮影されたいくつかの穴の画像の中には、壁らしきものが映っているものもあった。

 このことは、穴が大きな洞窟や通じている可能性は低いだろうことを示している。だとするなら、それはハワイの火山にあるような陥没火口に似ているのかもしれない。

 一方、月の穴の場合、底に岩石が散らばっており、大きな地下空間につながっている可能性があるものもあるようだ。

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NASA の月探査機「ルナー・リコネッサンス・オービター」が撮影した月の穴。穴の底には岩が見られ、より広い裂け目へと続いているようにも見える / image credit:NASA/Goddard/Arizona State University

 なお、こうした穴が形成される仕組みはほかにもある。たとえば、地殻変動による力で地表が破壊されて穴ができることがあり、この場合は大きな洞窟につながる可能性は低い。

 あるいは、何十億年もの大昔に流れていた地下水に沿って穴が開いたのかもしれない。

 地球の似たような現象として、石灰岩のような水に溶けやすい大地が侵食されて、地下水につながる陥没穴が口を開けることがある。こうしてできる地形をカルスト地形という。

 もしも火星にこうした地形があり、かつて生命が存在したとしたら、その生物はカルスト地形に隠れていた可能性もある。

 活火山の山腹を流れる水は温かく、放射線からも守られていたとすれば、生命にとっては居心地のいい環境だったかもしれないからだ。


 いずれにせよ、こうしたことはすべて推測にすぎない。具体的な答えは、今後のミッションで実際に穴の探検が行われるのを待つしかない。

 NASAの「インジェニュイティ」のようなロボットヘリなら、その内部へと降りていけるかもしれなが、インジェニュイティは残念ながら、2024年1月の飛行中にローターブレードが損傷し飛行不能となったが、完全引退ではなくまだ火星でデータ収集しているようなので、ふたたび火星にヘリコプターを送り込み、インジェニュイティと協力しあいながら真相に迫ってくれることを期待しよう。

References:Mysterious 'hole' on Mars could be future home for astronauts | Live Science / written by hiroching / edited by / parumo

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