インターネットが人間の道徳性に及ぼす影響が最新の脳科学研究で明らかに
 絶え間なく新たな情報にさらされ、顔も名前も素性も知らない人に対して匿名で意見を言い合うことができるインターネットでは、人の道徳やモラルといったものは簡単に歪められてしまうという。

 『PNAS Nexus』(2024年6月11日付)に掲載された最新の脳科研究では、インターネットが人間の道徳に与える影響を調査した。


 その結果、もともと小さなグループで対面で進化してきた私たちの道徳心が、インターネットから流れてくる大量の情報に晒されることで薄れていることがわかったという。

 何の責任も負わず手軽に正義感を発揮し、過剰なまでに人を罰する公的非難や、被害者に極端な感情移入をする共感疲労などが起きているようだ。

なぜインターネットは人のモラルを歪めるのか? インターネットは世界中の誰とでも気軽につながれるのが魅力だ。今やそのユーザーは50億人以上も存在する。

 一方、私たち人類の道徳やモラルといったものは、もっと小さなグループの中で、人と人が向き合う対面方式で進化してきた。

 それゆえに、思いやりや違反者を罰したい衝動といった反応が、インターネットという圧倒的に大規模なグループの中では日常とはまた違う現れ方をすると、ニューヨーク大学をはじめとする研究チームは主張する。

 インターネットを覗き込めば、世界各地のニュースや個人などが発信する情報によって、休むことなくモラルが刺激されることになる。

 研究チームによれば、こうした過剰にモラルを刺激する環境のせいで、「共感疲れ」「過激な批判」「いい人アピール」「非効率的な集団行動」の4つが引き起こされるのだという。

[画像を見る]

photo by iStockインターネットによる4つの歪み
・共感疲れ:
誰かを思いやることに疲れてしまうことだ。そもそも他人に共感するというのは、脳の認知機能的にはかなり負荷の高い作業だ。

インターネットでは、共感を求めるような情報が四六時中発信されているので、それによって認知機能に過剰な負荷がかかり、誰かを思いやることに疲れてしまう。

・公での批判:
ネットではちょっとした悪事や間違いでも、まるで鬼の首を取ったかのように批判が寄せられる。
よく見かける炎上は、それが極端に現れたケースだろう。

悪事を働いた者を罰したいという気持ちは誰にでもある。こうした心理は、集団生活を送るための進化的適応だと考えられている。

ところが、ネットではその他者を罰するという行為があまりにも簡単に、しかも匿名で何の責任も取らず容易にできてしまう。だからネットユーザーはちょっとした悪事を見つけると、その甘い衝動に身を委ねてしまうのだ。

・いい人アピール:
こうした他者を批判する行為は、自分がどれだけ正義感があり、道徳的な人間であるかをアピールする行為でもある。

このアピールは「いいね!」や「シェア」をするといった手間もお金もほとんどかからない方法で行われることもある。

残念なことに、どれほどアピールしたところで、それが実際に人を助けることはほとんどない。

・非効率的な集団行動:
オンラインでは比較的簡単に人を集め、組織化することができる。それゆえに大規模な社会運動につながることもあるが、それは根が浅く持続力のない、刹那的なものになりがちだ。


[画像を見る]

photo by iStock

 研究チームは、インターネットをこうした歪みが生じにくい場にするために、個人や社会に悪影響を及ぼすことなく、注目や関心を持続させることができるプラットフォーム設計の研究を呼びかけている。

 その一方で、昨年『Nature』誌(2023年6月7日付)に掲載された論文によると、モラルや道徳観が低下しているという論調は、思い込みにすぎず、過去を美化するための幻想だと書かれている。


 道徳観というのは、子供の頃から実際に人と人が関係を持つ中で培われていくものでもあるわけで、本当に道徳観のある人なら、人の嫌がるようなことはしないだろうし、例え匿名であっても、画面の向こうには人がいることを意識しているだろうから、もともとモラルや道徳性があまりなかった人が顕在化している可能性もあるのかもしれない。

References:Human evolution and online morality | EurekAlert! / How the Internet Warps Human Morality - Neuroscience News / written by hiroching / edited by / parumo

画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。
編集部おすすめ