中世ヨーロッパにおける12星座、黄道十二宮による占星術やその解釈
 中世のヨーロッパでは、太陽、月、星、惑星の動きが地球上の私たちの生活に直接影響を与えると信じていて、今日で言う占星術を実践していた。

 そのため、写本などに天文現象が頻繁に登場し、黄道十二宮(黄道が経過している13星座のうち、へびつかい座を除いた12の星座)をモチーフとした芸術作品も数多く残されている。


 ここでは、それらの作品の一部を見ていこう。

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12世紀初期、13世紀から16世紀初頭にかけての四学科(幾何、天文、音楽、算術
)に関するさまざまな絵が描かれた写本 / image credit:J. Paul Getty Museum, Los Angeles, USA. Getty Open Content.黄道十二宮の星座 中世ヨーロッパ人は、現代の私たちと同じ12星座を認識していた。

 現代の私たちがそれぞれの星座を暦の月とは必ずしも一致しない期間と関連づけたのに対して、中世では星座を月としっかり結びつけていた。
水瓶座(1月):水差しから水を注ぐ男
魚座(2月):2匹の魚
牡羊座(3月):雄羊
牡牛座(4月):雄牛
双子座(5月):双子、または結合双生児
蟹座(6月):カニ
獅子座(7月):獅子
乙女座(8月):処女、若い女性
天秤座(9月):正義の天秤、女性が掲げていることが多い
蠍座(10月):サソリ
射手座(11月):人間の頭と馬の体を持つケンタウロス、弓矢を射る
山羊座(12月):ヤギの頭と胴体、魚のような下半身もつ生き物


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12世紀半ばの蟹座あるいは蠍座が描かれたゲームピース / image credit:The Metropolitan Museum of Art, New York中世の伝統における星座の読み方 誕生日によってその人の性格が決まるとされる星座は、中世ではそれ以上の意味もあったようだ。

 惑星やほかの天体とともに、星座は週や月の特定の日、特定の時間に起こる出来事に影響を及ぼすと考えられていた。

 太陽の位置が特定の星座を示す場合、ある行動はしたほうがいいとか、控えたほうがいいといったことを予測することができた。

 例えば、15世紀の占星術カレンダーの写本には水瓶座について次のように書かれている。
水瓶座は南西に属し、太陽が水瓶座にあるとき、家を建てたり、種をまいたり、植物を植えたり、引っ越したりするのはよろしい。瀉血したり、短時間で終わることをするのもいい。

口論、争い、法廷を開くのは良くも悪くもない。遠方への旅は控えるべきで、牛など四つ足の動物の売り買いは吉。手紙や使者を送ることもいい。


結婚式もいいが、生計をたてられないため、技能を磨くのはあまり良くない


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黄道十二宮の図。1277年以降、羊皮紙にテンペラ絵の具、インク、金箔を使って描かれている / image credit:Getty Open Content.

 中世では天文学と占星術は分野として基本的に違いがなく、あらゆる種類の天文学と占星術の情報がごちゃまぜに掲載された文書がある。

 擬人化された黄道十二宮、星座、太陽や月などの天体が描かれたイラストが多いが、中世の人々は重要な決定を下したり、大切な行動計画をたてるときに、空を見上げて星座の動きを見た。

 おもしろいことに、こうした習慣をキリスト教信仰と並行して利用することになんの疑問ももたなかったようだ。月ごとの労働と共に描かれる12星座 中世の芸術では、12星座は12のサイクルのイメージ、つまり月ごとの労働と共に描かれる。こうした活動や仕事はとくに農業のサイクルと関係している。

 12の星座と各月の労働は、中世の1年を支配する天体と地球の周期を表している。正確な暦や天気予報技術がなかった時代、天体の動きを観察することが季節の移り変わりを予測するための一番いい方法で、農業を成功させるのに不可欠なことだった。

月ごとの労働は以下のとおり。
1月:祝宴
2月:火を囲んで温まり、植物を植える
3月:木やブドウを植え育て、剪定する
4月:自然を楽しむ
5月:鷹狩り、戦争に行く可能性
6月:干し草の収穫
7月:小麦の収穫
8月:小麦の脱穀
9月:ブドウの収穫、ワインづくり
10月:種まき
11月:ブタのエサやり
12月:ブタを食肉にする


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『ベリー公のいとも豪華なる時祷書』から11月 / image credit:public domain/wikimedia時祷書と12星座 中世の芸術において、月ごとの労働や星座がもっとも見られるのはキリスト教信者のために編まれた時祷書(じとうしょ)だ。ここにはさまざまな祈祷の文章だけでなく、各月の聖なる日をあげた暦のページもある。

 裕福なパトロンが所有していた時祷書には豪華な装飾が施されている。


 もっとも有名な装飾写本のひとつ『ベリー公のいとも豪華なる時祷書』はベリー公が15世紀にリンブルク兄弟に作らせたものだ。

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『ベリー公のいとも豪華なる時祷書』の黄道十二宮と解剖図、リンブルク兄弟によって1411~1416年に制作 / image credit:public domain/wikimedia

 金色の星がちりばめられた豪華なラピスラズリの青い空のアーチの中に、黒と金色の十二の星座が浮かんでいて、それぞれの仕事に従事する労働者たちの魅力的なイラストも描かれている。

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『ベリー公のいとも豪華なる時祷書』から12月の暦 / image credit:The Metropolitan Museum of Art, New York「ゾディアックマン」中世医学における占星術 中世の芸術において、黄道十二宮は時間と結びつけられることが多かったが、人体との関連もはずせない。

 人体全体に黄道十二宮のシンボルが関連づけられた「ゾディアックマン」のイラストは、人体の各部位が十二星座のいずれかに対応していると一般的に信じられていたかつての医学的信念を表している。

 各部位の健康は、関連する星座と月との現在の関係に左右されるというのだ。

 ゾディアックマンのイラストは、医師がこのシステムに従って患者を診断・治療するのに役立った。中世で一般的だった瀉血をする前に占星術を行うのはとくに重要なことだった。

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15世紀のウェールズ写本に描かれたゾディアック・マン / image credit:National Library of Wales / WIKI commons黄道十二宮と中世建築

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フランス、シャルトル大聖堂の乙女座

 中世芸術だけでなく、建築にも黄道十二宮は見られる。フランスのシャルトル大聖堂の出入口のひとつには、12の黄道十二宮すべてが彫刻されていて、さらに窓の鮮やかなステンドグラスにも星座が描かれている。

 多くのイラストつき写本と同様、月ごとの労働を表すイラストと併せて見ることができる。

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シャルトル大聖堂の王の左扉の上の縁に牡羊座、蟹座、獅子座、牡牛座などの星座と各月の労働の様子が彫刻されている

References:Written in the Stars: Zodiac in Medieval Art | DailyArt Magazine | Art History / written by konohazuku / edited by / parumo

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