
小さな穴やブツブツした斑点などの集合体は多くの人が苦手だが、中には過剰なまでの恐怖感や嫌悪感を抱いてしまう人も少なくない。そういった人はトライポフォビア(集合体恐怖症)と呼ばれているが、いったいなぜ、人は集合体を恐れるようになったのか?
トライポフォビアは科学的研究の対象になっているが、これまで、これは恐怖症ではなく、ただの嫌悪感だとする研究もあった。
最近発表された研究によると、進化という観点から見て、トライポフォビアの起源は「危険な動物」説と「皮膚疾患の回避」説の2つの仮説で説明できるという。
進化心理学で現代人の恐怖を紐解く フランス、ブルゴーニュ大学のガエタン・ティエボー氏ら研究チームは、トライポフォビアを広い意味で進化心理学の中に位置づけている。
進化心理学とは、人間の行動と精神プロセスは進化の圧力によって形作られるとする学問分野だ
それによると、我々の脳は、種として進化した過程で獲得した特定の精神的アルゴリズムを今も使用しているという。
我々はもはや、古代の祖先が生活していた環境や条件で暮らしているわけではないが、現代人の行動は、現存する特定のものへの精神的アルゴリズムにより引き起こされる可能性があるということだ。
こうした考えは、クモ恐怖症や高所恐怖症が一般的なのはなぜかを説明するのに役立つ。
毒グモや高所を避けることが、我々の先祖にとって、生存に有利に働く大切なことだったからだ。トライポフォビアも進化における適応戦略に端を発している可能性があるというのだ。
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photo by iStockトライポフォビアが生じる理由を2つの仮説で説明 今回の研究では一貫して、かなりの数の人がトライポフォビアであることがわかっている。
これは特定の視覚刺激に対する生来の、おそらくは生存に適応するための反応であることを示しており、2つの仮説が成り立つそうだ。危険動物説 この仮説は、トライポフォビアは危険な生き物を避けるのに適した進化の副産物だと言うものだ。
特定のヘビやクモなどたくさんの有毒な生物は、穴がたくさん集まったブツブツした気味の悪い模様をもつものが多い。
ブツブツ模様や有毒生物の画像は、気持ち悪いと嫌悪する神経反応を引き起こし、生来の回避メカニズムを発動させる。
私たちの先祖にとって、こうした危険動物をいち早く察知して回避できたことが生き残りに有利に働き、こうした能力が世代を超えて受け継がれてきたのかもしれない。
有毒生物によく見られるブツブツ模様を目にすると、脅威を感じる視覚情報の自動処理と関わる神経反応が増加することはわかっている。
こうした自動反応は、嫌悪感が私たちの神経回路に深く根づいていて、有毒生物が深刻な脅威となる環境で生き延びる確率を高めるために、それらを回避するよう進化した可能性がある。
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photo by iStock皮膚疾患回避説 2つ目の仮説は、トライポフォビアは感染症を避けるために進化した反応だというものだ。
皮膚疾患や外部寄生虫の多くは皮膚にブツブツを発生させる。これは、病気を回避するための主要な感情である嫌悪感と密接に関係している。
病原体に関わるものへの嫌悪感が鋭い人ほど、トライポフォビアになりやすいことがわかっていて、ブツブツの穴を気持ち悪いと思う恐怖が、病気から身を守るメカニズムと関連していることがうかがえる。
この説は、ブツブツ画像を見たときの心拍数、瞳孔拡張、皮膚伝導率といったの生理学的測定値が実際に強い反応を引き起こしていることからも裏づけられる。
トライポフォビアは、嫌悪感を引き起こすことで、私たちの祖先が感染症や病気を避けるに役立ったとも言える。
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photo by iStockトライポフォビアはまだ正式な恐怖症と認められていない これだけ一般的な集合体に対する恐怖だが、トライポフォビアはおもな診断マニュアルでは正式な
恐怖症とは認められていないという。
ティエボー氏らは、トライポフォビアが特定恐怖症の診断基準の多くを満たしていると考えている。
この恐怖症に苦しみ、日常生活に支障をきたすほどの人もたくさんいるため、社会的に大きな影響を及ぼしているとし、この恐怖症の位置づけをはっきりさせる必要があると主張している。
トライポフォビアの治療には、認知行動療法、暴露療法、薬物療法などが有効だと考えられているが、しっかりした治療法を確立するためにも、さらなる研究が必要だと指摘している。
この研究は『Evolutionary Psychological Science』誌(2024年6月24日付)に掲載された。
References:Afraid of holes? Evolution may hold the answer to trypophobia / written by konohazuku / edited by / parumo
『画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。』
トライポフォビアは科学的研究の対象になっているが、これまで、これは恐怖症ではなく、ただの嫌悪感だとする研究もあった。
最近発表された研究によると、進化という観点から見て、トライポフォビアの起源は「危険な動物」説と「皮膚疾患の回避」説の2つの仮説で説明できるという。
進化心理学で現代人の恐怖を紐解く フランス、ブルゴーニュ大学のガエタン・ティエボー氏ら研究チームは、トライポフォビアを広い意味で進化心理学の中に位置づけている。
進化心理学とは、人間の行動と精神プロセスは進化の圧力によって形作られるとする学問分野だ
それによると、我々の脳は、種として進化した過程で獲得した特定の精神的アルゴリズムを今も使用しているという。
我々はもはや、古代の祖先が生活していた環境や条件で暮らしているわけではないが、現代人の行動は、現存する特定のものへの精神的アルゴリズムにより引き起こされる可能性があるということだ。
こうした考えは、クモ恐怖症や高所恐怖症が一般的なのはなぜかを説明するのに役立つ。
毒グモや高所を避けることが、我々の先祖にとって、生存に有利に働く大切なことだったからだ。トライポフォビアも進化における適応戦略に端を発している可能性があるというのだ。
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photo by iStockトライポフォビアが生じる理由を2つの仮説で説明 今回の研究では一貫して、かなりの数の人がトライポフォビアであることがわかっている。
これは特定の視覚刺激に対する生来の、おそらくは生存に適応するための反応であることを示しており、2つの仮説が成り立つそうだ。危険動物説 この仮説は、トライポフォビアは危険な生き物を避けるのに適した進化の副産物だと言うものだ。
特定のヘビやクモなどたくさんの有毒な生物は、穴がたくさん集まったブツブツした気味の悪い模様をもつものが多い。
ブツブツ模様や有毒生物の画像は、気持ち悪いと嫌悪する神経反応を引き起こし、生来の回避メカニズムを発動させる。
私たちの先祖にとって、こうした危険動物をいち早く察知して回避できたことが生き残りに有利に働き、こうした能力が世代を超えて受け継がれてきたのかもしれない。
有毒生物によく見られるブツブツ模様を目にすると、脅威を感じる視覚情報の自動処理と関わる神経反応が増加することはわかっている。
こうした自動反応は、嫌悪感が私たちの神経回路に深く根づいていて、有毒生物が深刻な脅威となる環境で生き延びる確率を高めるために、それらを回避するよう進化した可能性がある。
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photo by iStock皮膚疾患回避説 2つ目の仮説は、トライポフォビアは感染症を避けるために進化した反応だというものだ。
皮膚疾患や外部寄生虫の多くは皮膚にブツブツを発生させる。これは、病気を回避するための主要な感情である嫌悪感と密接に関係している。
病原体に関わるものへの嫌悪感が鋭い人ほど、トライポフォビアになりやすいことがわかっていて、ブツブツの穴を気持ち悪いと思う恐怖が、病気から身を守るメカニズムと関連していることがうかがえる。
この説は、ブツブツ画像を見たときの心拍数、瞳孔拡張、皮膚伝導率といったの生理学的測定値が実際に強い反応を引き起こしていることからも裏づけられる。
トライポフォビアは、嫌悪感を引き起こすことで、私たちの祖先が感染症や病気を避けるに役立ったとも言える。
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photo by iStockトライポフォビアはまだ正式な恐怖症と認められていない これだけ一般的な集合体に対する恐怖だが、トライポフォビアはおもな診断マニュアルでは正式な
恐怖症とは認められていないという。
ティエボー氏らは、トライポフォビアが特定恐怖症の診断基準の多くを満たしていると考えている。
この恐怖症に苦しみ、日常生活に支障をきたすほどの人もたくさんいるため、社会的に大きな影響を及ぼしているとし、この恐怖症の位置づけをはっきりさせる必要があると主張している。
トライポフォビアの治療には、認知行動療法、暴露療法、薬物療法などが有効だと考えられているが、しっかりした治療法を確立するためにも、さらなる研究が必要だと指摘している。
この研究は『Evolutionary Psychological Science』誌(2024年6月24日付)に掲載された。
References:Afraid of holes? Evolution may hold the answer to trypophobia / written by konohazuku / edited by / parumo
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